第11話:魔王、大学生(プレジデント)になる
桜の花びらが舞う4月。剛は、日本屈指の難関大学の門を潜っていた。
「……ほう。ここが現代の最高学府か。有象無象の知識が集まるこの地、まさに『賢者の塔』と呼ぶに相応しい」
剛は、新調したばかりの少し窮屈なスーツに身を包み、周囲を見渡した。隣には、相変わらず冷静な顔で学生証を弄ぶ誠がいる。
「剛、ここは塔じゃないし、僕らはただの経済学部生だよ。……でも、確かにここにはリソースが揃っている。高速Wi-Fi、図書館の膨大なデータ、そして起業支援の助成金……」 「ガハハ! 狙うはそれよ。まずは、俺たちの軍団(会社)を正式に登記するための『種銭』を、この学び舎から毟り取ってやる!」
二人がキャンパスの芝生を歩いていると、向こうから「氷の令嬢」ことリンが歩いてきた。彼女もまた、理学部に籍を置く新入生だった。
「……やっぱりあなたたちもここにいたのね。呆れた。あんなに勉強を疎かにしていた佐藤くんが、よく受かったものだわ」 「フン、あの程度の試験、魔導計算に比べれば児戯に等しい。……それよりリン、貴様に頼みがある。俺は今日、この大学の起業サークルなる組織を『征服』しにいく」
「征服?」とリンが眉をひそめる。
向かった先は、大学内でも有名なIT起業サークルが集まるインキュベーションセンター。そこでは、意識の高い学生たちが「世界を変えるアプリ」について熱弁を振るっていた。
剛は遠慮なくドアを蹴破るような勢いで中へ入り、中心でスピーチをしていた部長の前に立った。
「おい、小僧。貴様の語る『ビジネスモデル』とやらは、実に退屈だ。安定を求める守備の構え……そんなもので何が獲れる? 経済という戦場は、相手の喉笛を食い破る覚悟がある者のみが支配するのだ!」
サークル内に静寂が走る。 「なんだお前は!? 1年か? 帰れよ!」 「ガハハ! ならば証明してやろう。海藤、アレを出せ!」
誠が溜息をつきながらノートPCを開く。画面に映し出されたのは、剛の直感的な戦略とリンの精密なコード、そして誠の緻密な市場分析が融合した、全く新しい『対戦型プラットフォーム』のβ版だった。
その圧倒的なUIの美しさと、裏側で動く「異世界の戦術理論」を応用した独自のアルゴリズムに、周囲の学生たちの顔色がみるみる変わっていく。
「これ……お前らが作ったのか? 1年で……?」
「そうだ。俺の名は佐藤剛。この世界を『ゲーム』と『経済』で再定義する男だ。……そして今日、この瞬間。俺たちは『デモンズ・ゲート社』として産声を上げる!」
剛は懐から、公式大会の優勝賞金とバイトでコツコツ貯めた、なけなしの「10万円」がチャージされたデビットカードを突き出した。
「資本金はまだこれっぽっちだ。だが、この金が数カ月後には億に化ける。……勇者よ、令嬢よ。まずはこの退屈な学園から、俺たちの覇道を始めようではないか!」
春の風が、三人の情熱を煽るように吹き抜ける。 大学生になった魔王。資本金10万円からの世界征服。その無謀で壮大な第一歩が、ついに踏み出された。




