第10話:魔王軍、ガレージに集結す
「……おい、誠。この『株式会社』という軍団を興すには、これほどまでの金(資本金)が必要なのか」
高校3年の冬。進路希望調査票が飛び交う教室をよそに、剛は佐藤家のガレージで、誠が持ってきた創業ガイドブックを睨みつけていた。
大会での小規模な優勝賞金は、格ゲーの遠征費やデバイスの買い替え、そして剛の飽くなき食欲——コンビニのLチキやスーパーの半額惣菜——によって、その大半が消えていた。現在の軍資金は、高校生の小遣いとしては破格だが、世界を獲るための「軍資金」としては、あまりにも心もとない。
「当たり前だろ。剛、君がやりたい『世界規模のプラットフォーム』を作るには、サーバー代もエンジニアの給料も必要だ。今の僕らには、夢を語るための『ガソリン』が足りないんだよ」
誠は古いノートパソコンを叩きながら、シビアな現実を突きつける。剛は不敵な笑みを消さず、空のプロテインシェイカーを弄んだ。
「フン、無いなら奪うまで……と言いたいが、この国の法を犯せば軍(警察)が動くからな。……いいだろう。今は雌伏の時だ」
ガレージの隅では、リンが黙々と自作のキーボードをカスタマイズしていた。彼女もまた、この「金はないが熱だけはある空間」に、いつの間にか居座るようになっていた。
「……大学、行くんでしょ? 二人とも。そこが、あなたたちの言う『最初の領土』になるんじゃないの?」
リンの冷静な言葉に、剛はガレージのシャッターを勢いよく跳ね上げた。冷たい冬の夜風が入り込む。
「その通りだ、リン! 大学という名の巨大なモラトリアム、そこにある潤沢な施設と、有象無象の学生という名のリソース……。それら全てを喰らって、俺たちの『魔王軍』を爆誕させてやる」
剛は拳を夜空に突き出した。 「今はまだ、この薄汚れたガレージが俺たちの城だ。だが、春が来たら……公式の最高峰、世界へと繋がる大会で『種銭』を掴み、この国に俺たちの門を叩きつけてやる!」
誠は苦笑し、リンは小さく鼻を鳴らした。 三人の財布は軽いが、その瞳に宿る野望は、すでに億万長者のそれよりも輝いていた。
魔王、勇者、そして氷の令嬢。 高校生活という「チュートリアル」が、今、終わろうとしていた。




