友だち(?)ができました
「ふ――っ」
高嶺さんを無事山頂の広場まで送り届けてから、俺は一人大きく息を吐いた。
これから昼食の時間だが、高嶺さんは昼食後に爺やさんのお迎えが来ることになったらしい。とりあえず安心して、俺がボッチ飯をキメようとしていると、俺の背をトンと誰かが叩いた。
「おつかれ」
「……大路」
にこにこと、キラキラしい笑顔を前に、日陰者の俺はそっと木の陰に隠れた。
高嶺さんがいる時なら、俺は彼女のために彼女が隠れる木になるが、彼女がいない今、俺が大路と仲良く話す必要はない。
「そんな、あからさまに避けないでもいいんじゃないかな? 僕も流石に傷付くんだけど」
しゅんと肩を落とされると、何の罪もない大型犬を理不尽に叱ってしまった気分になって、しぶしぶ俺が木の陰から抜け出して姿を見せたら、大路はそんな俺を見てぷっと吹き出した。
「あはは! やっぱり面白い。……いい奴なんだね。瀬崎は」
「何だ。いきなり」
俺は、これまで交流のなかったタイプの人間の褒められて顔を顰めた。大路が何を言いたいのか分からない。
「いや、高嶺さんが瀬崎にだけ心を開いている理由、なんとなく分かったってこと」
「……?」
ぐっと顔を近づけられて、俺は一歩後ろに下がった。
「ね、瀬崎。僕と一緒にご飯食べない?」
「遠慮しておく」
キラキラ系男子なら、女子とでも仲良く食べればよかろう! それに、こいつは俺と違ってほかの男子とも仲がいいはずだ。
「みんな〜。今日、僕は瀬崎と高嶺さんと一緒だったんだけど」
すると、あろうことか大路は、俺と高嶺さんのことを喧伝しようとした。
「あっ! こら、何話して!」
慌てて止めると、大路はいたずらっ子のようににっと笑った。
「広められたくなかったら、僕のこと見ておかないとだよね?」
「……!」
策士だ。
俺は拳を握りしめて大路を見た。
「でしょ? 瀬崎」
「……」
俺が返答に悩んでいると、高嶺さんが姫野さんと一緒に、お弁当箱を抱えてやってきた。
「あの……! 瀬崎くん。私と一緒に、ご飯を食べてくれませんか?」
「大変だね、瀬崎。高嶺さんと二人っきりでご飯なんか食べたら、他の男子の注目の的になっちゃうね」
「……」
「でも僕がいたら、少しは緩和されると思わない?」
まるで悪魔の囁きだった。
「私も一緒に食べたいんだけど、ご一緒してもいいかな? 瀬崎くん」
ついでに姫野さんまで名乗りを上げてきた。
俺は、完全に逃げ場をなくした。
俺に残された選択肢は、女子のお誘いを断った男(しかも二人は校内でも美少女の部類)かボッチ飯のどちらかだ。
「……わかった。みんなで食べよう」
俺は、頭を押さえながら、女子たちの申し出を受け入れることにした。
遠足用のレジャーシートをリュックから出して各々広げる。
俺が無地なのに対し、彼女たちのそれは花柄やチェック模様だったりと可愛らしい。
視界が一気にファンシーになり、ふと隣を見たら予想外の光景が広がっていて、俺は思わず突っ込んでしまった。
「……お前も花柄なのかよ」
「えっ」
何故か大路のレジャーシートには、何故か可愛らしい花柄が描かれていたのだ。大路は俺に指摘されると、珍しく慌てる素振りを見せた。
「い、妹のを間違えて持ってきたみたいだ! 次からは気をつけないとだね! うん!!」
「?」
一人で呟いて一人で納得した大路は、レジャーシートのうえに座ると、そそくさと弁当箱を取り出した。
「お前の親、えらく可愛い弁当作るんだな」
「ど、どうやら妹のと間違えたみたいだ……」
「大路の妹も今日は遠足なのか?」
「……」
大路は、俺の質問には答えてくれなかった。
「高嶺さんのお弁当は……」
俺は、高そうな老舗料亭で出てきそうな料理を前に言葉に詰まった。
「おいしそうだね」
「はい。料理長のお手製なんです! 瀬崎くんも召し上がられますか?」
高嶺さんはそう言うと、さっと俺に弁当を差し出した。
「……じゃあ、卵焼きをもらおうかな」
高そうな食材は申し訳なく、一番手のかかっていなさそうな卵焼きを食べて――俺は自分の無知さを恥じた。
「これ、美味しすぎる!!!」
「ふふ。そう言っていただけて嬉しいです。前日から用意して作る必要があるそうなので」
「すごいね」
美味しい料理の基本はだし、ということだろうか。勉強になります。
「おっ。瀬崎は女子と食べてるのか。モテモテだな〜」
「……先生、そういうのはやめたほうがいいですよ」
「そうか。すまんすまん」
見回りに来た沢田先生にからかわれ、俺はジトッと先生を睨んだ。
「高嶺。お前もみんなと楽しめてるか?」
沢田先生が、高嶺さんを見て言った。
高嶺さんは心から嬉しそうに、澄んだ目をして頷いた。
「……はい。みなさんと、仲良くなれて嬉しいです」
守りたい。この笑顔。




