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高嶺さんのWEB恋愛小説は実話です。ークラスメイトの美少女が俺との日常をWEBに投稿している件ー  作者: 朝霧いお


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歓迎遠足

「――ついに、この日が来てしまった」


 それから数日後、俺は制服ではなくジャージを着て、リュックサックを背負っていた。

 

「誰と食べるかでかなり悩むやつだ……!」


 毎年恒例、ぼっちがバレる一大イベント!

 高校に入学してからはや約二週間。

 高嶺さんとの一件もあり若干未だになじめていない俺は、どうしたものかと頭を抱えていた。


「……でもまあ、高嶺さんは悪くないからな」


 強いて言うなら、彼女が高嶺の花であることが悪いのだ。そしてそんな彼女に、俺が釣り合っていないところが。


「おはようございます。瀬崎くん」


 俺たちの通う私立桜花高校は、遠足の際は学校を出発する前に校庭に集まるようだった。


「同じ班、ですね」

「そうだね」


 俺たち一年A組は三〇人一クラスで、今回の遠足では六班に分けられていた。男子二人、女子二人の合計四人。

 本当はもう一人男子がいたけれど、体調不良で欠席で四人の班となった。


「今日はよろしくね。高嶺さん」


 ふわふわウェーブの髪、いつも笑顔を絶やさない、穏やかな声音と口調の癒し系お姉さん女子の姫野さんが、笑顔で高嶺さんに話しかける。


「高嶺さんと同じ班なんてすごく嬉しいよ」


 清潔感と柔和な雰囲気で女子に人気の大路が、高嶺さんに柔らかく微笑んだ。


 そして、高嶺さんは――。


「宜しくお願いします」

 そう言って、ささっと俺の影に隠れた。


「瀬崎です。宜しく」


 『なんでお前が』という冷ややかな二人の視線(これはネガティブな俺の偏見かもしれない)を浴びながら、俺はははと笑ってみた。いやでも、俺を無視して高嶺さんにだけ挨拶するのやめてほしい。若干傷つく。


 挨拶を終えた高嶺さんは、二人に警戒しながら俺の隣を歩き始めた。

 ジャージ姿はあまり見たことがなかったけれど、制服よりも親近感があって、正直すごく可愛い。今日はポニーテールで、いつものおろした髪より活動的に見えるからかもしれない。


「高嶺さん、目が少し赤いけど大丈夫?」

「……瀬崎くんには、気づかれてしまいましたか」


 高嶺さんは恥ずかしそうにほほ笑んで、指で軽く目をこすった。


「実は昨夜、緊張してあんまり眠れなくて」

「イベントの時って、緊張して眠れないことあるよね。俺も前はそうだった」


 まあ、小学生の頃の話だけれど。

 俺が話を合わせると、高嶺さんは仲間がいたことが嬉しいのか、「そうですよね?」と頷いて、頭の尻尾をゆらゆら揺らす。

 いつもより彼女の感情が見えやすい気がして、俺はその光景に少し和んだ。


「そういえば、高嶺さんの通ってた学校って、イベントの時ってどんなところ行ってたの?」

「そうですね……」


 高嶺さんは、うーんと少し考えたあとに、予想外の言葉を口にした。


「別荘地でゆっくり過ごしたり、海外にお勉強に行ったり……」

「待って待って。もっと普通のはないの?」


 あまりに俺(庶民)と違いすぎる。俺が困惑していると、高嶺さんが思い出したように言った。


「そういえば、遊園地にも行ったことがあります!」

「おお」


 それなら、俺たちと近いかもしれない。話が合うかも――と思ったところで、また予想外の言葉が飛び出した。


「一日貸切にしていただいて、すごく楽しかったです」

「お……おう?」


 なんか話が変わってきたな。遊園地貸し切りって、どこの富豪だ(いやまさに富豪なのかもしれないが)。

 話が噛み合わなくて、まったくやれやれだぜ。俺は、話を変えることにした。


「ちなみに高嶺さん、山って登ったことある?」

「いえ、実は今日が初めてで。幼い頃あまり身体が強くなかったので、両親の教育方針で……」

「そっか。まあここの山に危ないルートはないはずだし、ハイキングみたいなものだから、心配しなくていいと思うけど……。困ったことがあったら教えてね」


 俺がそう言うと、高嶺さんは素直にコクリと頷いた。



「高嶺さんと何話してたの?」


 一生懸命に坂道を登る高嶺さんを内心ハラハラとしながら眺めていると、大路が俺に話しかけてきた。


「……別に、普通だけど。大路は、高嶺さんに興味あるのか?」


 クラス一のモテ男子。靭やかな手足、爽やかな外見に、どこか艶のある甘い声。女の子が憧れる「王子様」のような外見と、名前の類似から、女子から「王子」と呼ばれている。


 それ以上のことは、正直俺はよく知らない。

 でも、ナンパなだけで彼女に話しかけているなら、俺がかわりに注意すべきだろう。しっかり者のようで抜けている彼女が、うっかり騙されて傷つかないように。

 そのせいで、俺の平穏な普通の高校生活が、また遠のいたとしても。


 つい保護者のような気持ちでそう返せば、大路はあははと何故か声を上げて笑った。


「いや? 高嶺さんは、確かに可愛い人ではあると思うけど――むしろ僕は、瀬崎に興味があるかな」

「…………は?」


 顔を近づけまじまじと目を見られ、加えての大路のトンデモ発言に、俺は目を丸くした。

 俺に大路が!? ……なんでっ!?!?


「この無害そうな顔がいいのかなあ? 確かに瀬崎は、優しそうな目をしているよね」


 「無害そう」は余計である。だってそれってつまり、弱そうってことだろ!?

 俺が一歩後退ってジトッと睨むと、大路は苦笑いして、俺から離れた。


「ごめんごめん。だって、みんなが近寄れない高嶺さんが、唯一心を許してるみたいだからさ。何か特別なところでもあるのかなって気になって」

「別に、俺は普通だけど」

「そう思ってるのは、案外本人だけかもしれないよ」


 大路が意味深ににやっと笑う。

 キラキラ系男子の眩しさに、俺は目を細めて彼から顔を背けた。

 高嶺さんは、俺が大路と話していたせいで逃げ場を失い、今は女子組と話をしているようだった。


「高嶺さんは、普段休みの日は何してるの?」

「私は、お休みの日は、お庭で過ごしたり……」

「ガーデニング、ってこと?」

「お庭でお菓子と一緒にお茶をいただいたり……でしょうか?」

「なるほど、そうなんーー……ん、んんっ???」


 アフタヌーンティー!

 庭いじりと予想していたのに途端優雅になり、姫野さんもやや困惑気味である。


 俺は、心の中で姫野さんを応援した。

 大路の言葉が事実なら、姫野さんも多分クラスに溶け込めない生徒のためのフォロー要員の可能性である高い。

 つまりこのクラスで一番社会性が高いと教師に思われた二人が、高嶺さんの為に用意されたわけだ。

 ……いや、そのフォロー対象に、俺も含まれている可能性はあるけれど。

 ぼんやり俺が考え事をしていたら、高嶺さんの悲鳴のような声が聞こえた。


「きゃっ!」

「大丈夫? 高嶺さん」


 どうやら隆起した地面に躓いて、少し足を捻ったようだ。

 俺はすぐに手を差し出したが、高嶺さんは俺の手を取ろうとして、他の二人を見た。それから少しの間があって、彼女は小さく首を振る。


「大丈夫です。お気遣い、ありがとうございます」



「ふーん。瀬崎は、高嶺さんが躓いたら、すぐ手をかそうとするんだね」

「……からかうな」


 俺と高嶺さんのやり取りを見ていた大路が、どこか含みのある目で俺を見る。まるで高嶺さんと俺が、特別な関係だと誤解しているみたいに。


「別に、そういうんじゃない」

「『そういう』って?」

「……」


 大路は、案外面倒な男らしい。俺は溜息をついて、大路を無視して坂を登ることにした。

 四人一組の俺たちの班は、今は女子の後ろを、俺たち二人が歩くような形になっていた。

 だが、坂の傾斜はそこまで変わらない気がするのに、少しだけ前の女子組のペースが遅くなったような気がして、俺はあることに気がついた。


「高嶺さん、もしかして足が痛いの?」


 俺が、先程彼女が捻った足を庇っているように見えて尋ねれば、高嶺さんは隠し事がバレた子供のように、びくっと体を震わせた。 

 後ろを歩いていて気付かなかったが、よく見ると表情も朝よりも少し青く見える。


「高嶺さん、ここに座ってくれる?」


 道端の石を指差して言えば、高嶺さんは小さく首を振った。


「いえ、私は大丈――」

「いいから」


 少し強めの声で俺が言えば、高嶺さんは黙って、ちょこんと石の上に座った。そして俺が彼女の挫いた足に触れると、高嶺さんは小さく悲鳴を上げて顔を顰めた。


「……痛いの?」

「大丈夫です。歩けます」

 

 明らかに無理をしているのに、彼女も強情だ。


「大丈夫、じゃ、ないだろ」

 俺は、石の上に座る彼女の前でしゃがんだ。


「あ、あの……」

「乗って。俺が、上まで運ぶから」

「でも」


 高嶺さんが再びきょろきょろと三人を見れば、大路と姫野さんが俺に助け舟を出してくれた。


「高嶺さんの荷物は私が持つよ」

「じゃあ、僕が瀬崎のを。足の怪我、思ったよりひどいみたいだし、僕が運んでもいいけど――高嶺さんは僕か瀬崎だったら、瀬崎のほうがいいんだよね?」


 俺の代替案が、女子に人気ナンバーワンそうな大路というのはどうなのだろう。

 俺が、高嶺さんは大路に任せるべきかと立ち上がろうとすると、高嶺さんは黙って、立ち上がろうとする俺のジャージの裾を引っ張った。


「……私は、瀬崎くんにお願いしたいです」


 俺の顔は、今は真っ直ぐ見れないらしい。

 耳まで顔を赤くして下を向いた彼女は、細い腕を躊躇いがちに俺の首に回した。俺は、彼女が寄りかかったのを確認して、彼女の足を抱えてゆっくり立ち上がった。


「きゃっ」

「大丈夫?」

「は、はい。大丈夫です……」


 お嬢様はおんぶではなく、お姫様抱っこをご希望だったかもしれないが、生憎それができる程の度胸も筋力も俺にはない。

 ただ、ぎゅっと俺の首に回す手に力を込めた彼女からは俺への信頼を感じられて、俺は絶対に、彼女の前では辛い表情は見せまいと心に誓った。



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