甘味好きなので放課後デートは和菓子がいい
「ここが、俺のおすすめのお店」
「とってもおいしそうです!」
放課後、俺が彼女を連れてきたのは、学校近くの和菓子屋だった。
老夫婦が営む小さな店ということもあり、たぶん訪れているのは周辺に住む人間と、俺たちの学校に通う生徒くらいだろう。
甘味好きの俺は、ネット評価で美味しい和菓子屋はチェックしている。
「放課後の買い食いは実は基本禁止なんだけどね。まあ、守ってるやつは居ないし」
「そ、そうなんですか……?」
「高嶺さん、それ聞いたらやめたくなっちゃった?」
「いえ、食べます! ここまで来たんですから!」
高嶺さんは、まるで大きな決断をしたかの表情をしていて、俺はそれがおかしくて思わず笑ってしまった。
「お会計は300円ね」
「これでお願いします」
「はい。ありがとう」
この店には、餅や団子のほかに肉まんも売っている。
価格も良心的なため、うちの生徒のなかにも通っている人間を俺は知っている。
この物価高の世の中、150円で手作りのいちご大福が買えるのもポイントが高い。
ちなみに、店の近くには公園がある。
高校の授業の終わりということもあってか、子供のいない公園のブランコに俺が座ると、高嶺さんは少し迷った後、俺の隣のブランコに乗った。
「はい。これ、高嶺さんの分」
「ありがとうございます」
高嶺さんは一口食べてから――。
「おいしい!」
彼女は、目を輝かせた。
「すごいです。瀬崎くん! この苺、甘酸っぱくてでもしっかり美味しくて! 中のこし餡も丁寧作られていますし、外の求肥も柔らかくてとっても美味しいです!」
高嶺さんは、グルメリポーターが憑依したかのように味を述べてくれた。
が、そのあとすぐにハッとした顔をして、ううむと眉間に皺を作っていちご大福を見つめた。
「でも、こんなにお安くていいのでしょうか……? 経営は大丈夫なのでしょうか?」
俺たち庶民は安くて美味しいとラッキーと思うわけだが、高嶺さんは目の付け所が経営者だった。
「うーん。駄目そうなら値段を上げるんじゃないかな」
「でも、ここは少し人が少ない場所にあります。手間もかかっていそうですし、この価格で利益を出すのは難しいのではないでしょうか」
一人唸る高嶺さんに、俺には苦笑いした。
「……高嶺さんって、大人みたいなこと言うんだね」
「えっ!?」
高嶺さんは一度目を大きく見開いてから、それから困ったように目を伏せた。
「その、私はお父様から幼い頃から、色々と教わっていたので……」
高嶺さんの家は、確か飲食店や菓子の製造を行う企業もあると噂で聞いたことがある。
俺でも知っているような会社が、クラスメイトの女子と関わりがあると知った時は驚いたものだ。
「そういえば、高嶺さんはなんでうちの学校を選んだの?」
――高嶺さんなら、俺たち庶民が通うような学校じゃなくて、もっといい学校にいけたはずなのに。
俺の疑問に、高嶺さんは静かに目を伏せる。
「この国に生きる方々が、何を見て何を考え過ごしているのか――それを学ぶよう、この学校に入学する際父に言われたのです。電車でのことも、その関係で」
「…………なるほど」
まあ、彼女の小説【仮】から大まかには知っていたが、改めて彼女の口から聞くと、遠い世界の話のようにも俺には聞こえた。
俺にとってはただの日常なのに、何故かスケールの大きい話をされた気がする。
「でも私、切符の買い方すら分からなくて」
「初めてだと分からないことあるよね」
『送り迎え』が彼女の日常だったなら、迷路のような駅や朝の満員電車は苦行だったに違いない。
俺がぼんやりそう考えていると、高嶺さんが食い気味に俺に尋ねた。
「あの、瀬崎くんって、面倒見がいいって言われたことありませんか?」
「えっ? 俺?」
正直自分ではそうは思わないが、そういえば実は何度か言われたことはある。
「妹がいたから、その影響はあるかもしれない」
「妹さんがいるんですか?」
「うん。――プロゲーマーだよ」
凡人の俺と比べて、妹は天才なのだ。
「俺はゲームはからきしだけど、妹はゲームの天才なんだ」
自慢の妹だ。
俺がそう言うと、高嶺さんは何故かじっと俺を見つめてきた。
「何? どうかした?」
「瀬崎くんは、妹さんを大事にしているお兄さんなんですね」
高嶺さんに優しい笑みを浮かべて言われて、俺は照れてしまった。
「いや、大事にしてるいうか……。それは、妹なわけだし。妹だけど、俺にはない才能を持っててすごいなっていうか……!」
「ふふっ」
照れをごまかそうとすると、高嶺さんは楽しそうに笑った。
「瀬崎くんの妹さんは、幸せ者ですね。だって、高嶺くんがお兄さんなんですから」
高嶺さんはブランコから立ち上がると、くるっと半周してスカートを揺らした。
「私、あの日出会えたのが、瀬崎くんでよかったです」
そして高嶺さんは、何故か決意したような表情をして俺の目を見た。
「瀬崎くん。これまで私、たくさん瀬崎くんにはお世話になってしまっているのですが、これからももっとたくさんのことを、瀬崎くんには教えていただきたいんです」
「う、うん。それは大丈夫だけど……?」
美少女に顔を近付けられると、心臓の鼓動が速くなる。なんかいい香りもする。
「それじゃあ、早速、一つ質問してもいいですか?」
「ど、どうぞ……?」
俺は、緊張しつつ頷いた。とても重い話をされるのかと思っていたら、高嶺さんはすごくどうでもいい質問を俺にした。
「遠足はお菓子五百円までとあったのですが、何を買えばいいか教えていただきたいんです!」
「この流れで最初に俺に聞くのそれなの!?」
俺が思わずそう返したその日の夜、小説の更新のコメントはこんな文章で溢れていた。
【お菓子w小学生かよwww】
【せんせー! バナナはおやつに入りますか?】
【小分け和菓子のカウントはどうなりますか?】
【そして始まる交換闇市!】
【さすがに高校生は交換考慮して持ってかないだろ】
【可哀想に。交換してくれる人がいなかったんだね】
【勝手に同情するな! いたもん! ……いたもん……】
【可哀想に。つ 旦~~】
【お茶だけ渡そうとする鬼畜を発見!】
高嶺さんの小説【仮】のコメント欄は今日も盛り上がっていた。
【甘味好き:洋菓子もいいですが、和菓子も美味しいですよね。】
【コトノ>>甘味好き:甘味大好きさんは、やっぱり甘味が大好きなんですね! 私もお菓子は大好きです!】
俺のコメントへの返信は、天然そのものだった。
そんな彼女に、読者からこんなコメントが書き込まれていた。
【この小説、作者もキャラクターも若干ポンコツで好き。】




