兎屋の羊羹は謝罪におすすめなんて誰が言ったんですか?
「瀬崎くん。つまらないものですが、よければこれをお収めください」
翌朝俺は学校に着くと、何故か高嶺さんに高そうな紙袋を差し出された。
紙袋には、俺でも知っている有名な和菓子の店名が書いてある。
「……」
兎屋といえば高級な羊羹で有名で、皇室でも御用達という名店だったはずだ。
一度だけ祖母からお裾分けをもらったことがあるが、とても上品で美味しかったという記憶があった。
「これは……何、かな?」
「昨日は、朝からご迷惑をおかけしてしまって、本当に申し訳ございませんでした」
クラスメイトのお嬢様の美少女に、高級羊羹で謝罪される男子――俺は、俺を見る他の生徒の視線が痛かった。
絶対、『なんだあいつ。高嶺さんに頭を下げさせやがって』って思われる!
「高嶺さん、ちょっといい?」
彼女より俺への好感度が低いのは明白だ。俺は、慌てて彼女の手をつかむと、まだ人の少ない階段裏へと走った。
「こんな高いものは受け取れないよ。俺、何もしてないし」
「高いもの?」
高嶺さんは首を傾げた。
俺は、高嶺さんの小説【仮】の読者を恨んだ。何が『謝罪ならやっぱり兎屋の羊羹かなあ』だ。重すぎるだろ。値段も羊羹も。
「うん……。高嶺さんにはそうかもしれないけれど、俺からするとやっぱり高いものなんだよ。それにこれって、大人が本当に相手に謝罪したい時に渡すものだって聞いたことがあるからさ。昨日のことやその前のことは、同じ高校のクラスメイトが困ってたらみんな普通助けると思うっていうか――とにかく、これをもらえるようなことは、俺はしてないんだよ」
「ご、ごめんなさい……」
長文で俺が話したせいか、俺は高嶺さんに謝らせてしまった。
「ごめんごめん! 別に、怒ってるわけじゃなくて! 高嶺さんとは普通に話したいから、あんまり気を遣ってほしくてなくて……。今日は受け取るけど、今度からはもしお礼をしたいって思ってくれたときは、先に相談してもらっていいかな?」
俺がそう言うと、彼女はきらきらした目で俺を見てきた。
「はい! 勿論です!」
俺は彼女から紙袋を預かると、教室に戻って机の横の荷物掛けに紙袋を下げた。
すぐに担任の沢田先生が教室に入ってくる。
「全員揃ってるか? 出欠とるぞ」
出欠を取ったあと、先生はなぜか俺の方を見てきた。
なんだ???
「瀬崎。なんでお前は、兎屋の紙袋なんか持ってきてるんだ?」
「いえ、あの、これはその」
しまった! と、俺が慌てる間もなく、先生は袋の中身を確認した。
「これ、本当に兎屋の羊羹じゃないか!」
先生のせいで、さっきの俺たちのやり取りを見ていたクラスメイトたちに中身がバレた。
バレなければ『袋だけだよ』と笑い話にできたのに、これでは本当にお嬢様に貢がせる庶民という図が完成してしまう!
「学校にお菓子は持ってきたら駄目だ。校則に書いてあるのを知らなかったのか? 今日は預かっておくから、放課後取りに来なさい」
「……はい」
俺は、渋々頭を下げた。問題を大きくしないために、ここは引くのが正解だろう。
「違うんです。先生、これは私が――」
「うん? どうかしたのか。高嶺」
だが、正直者の高嶺さんはそれが許せなかったらしい。割って入ろうとしたところを、俺は手で軽く制した。
「いえ、なんでもありません。放課後俺が取りに行きます」
■
「本当にごめんなさい!」
放課後、職員室でお叱りの言葉を先生から賜った後に兎屋の羊羹を回収した俺を、高嶺さんはずっと待ってくれていた。
「お詫びをするつもりが、逆に迷惑をかけてしまって……」
「大丈夫だよ。先生に怒られるのは、俺は高嶺さんよりは確実に慣れてるし」
「……でも」
高嶺さんは、納得いかないという表情をしていた。そういう彼女のへんに真面目なところが、俺は嫌いではなかった。
「そうだ。高嶺さん、今日はこれから暇?」
だから俺は、羊羹のお礼と気晴らしも兼ねて、彼女を遊びに誘うことにした。




