写真
「でも、どうするかなぁ……」
まさか、高嶺さんのWEB小説【仮】を見てますとも言えず、俺は対応に困っていた。
【ハルさんに相談しようよ】
【ハルさんならきっと味方になってくれるよ】
彼女の小説【仮】には、俺に相談するべきだというコメントはたくさんついていたが、どうやら彼女本人にそのつもりはないらしかった。
【コトノ:ハルくんにはいつもお世話になっていますが、迷惑をかけたくないんです。それに……私は登下校は送り迎えをしてもらうことが可能ですし、学校外で問題になることは少ないと思うので。】
確かに、高嶺さんなら登下校を完全に任せることは可能だ。
だが、それでも校内でおびえていたということは、その相手が校内にいると彼女が判断したためだろう。
下駄箱でのことを思うと、俺が知らないところで、校内ですでに何かしらのアクションがあったのかもしれない。下駄箱の扉を開けるとき、怖いと思うような何かが――。
【学校内でも見られてるなら、同じ学校のやつってこと? それはそれでまずくない?】
【作者って、確か元々お嬢様学校だったけど、って話だったよね? それで、今は付き人は学校にいないんじゃなかった?】
【普通の学校ってボディガードとか置けないよねぇ……? 普通じゃない学校がどうかは知らないけど】
読者たちの言う通り、前の学校ならセキュリテイとしても生徒の質としても問題はなかったんだろう。
でも彼女は、今は下々の? 生活を知るために、俺と同じ学校に通っている。
無事授業が終わり放課後。俺は黙って、下校を急ぐ高嶺さんのあとをそっと歩いてついていった。迎えを呼んでいるに違いないが、このタイミングなら、彼女と話ができるかもしれない。
「――高嶺さん」
下駄箱の前で再び声をかけると、高嶺さんがサラサラの髪を揺らして俺のほうに振り返った。
「ごめん、突然。あのさ……気の所為だったら申し訳ないんだけど、昨日といい、最近元気ないみたいだけどどうしたの? もしかして、何かあった?」
本当は分かっている。彼女が悩んでいることも、その理由も――でも俺は、その理由を伝えることはできない。
俺は、一方的に【コトノ先生】を知っているに過ぎないんだから。
「いえ、何もありません」
「……そう?」
――話してくれたら、力になれるのに。
小さく首を振る彼女に、俺は再び尋ねてみた。
「もしよかったら、今日は一緒に帰らない? 久々に、またあの和菓子でも食べに行こうよ。俺が奢るからさ」
俺の言葉に、少しだけ彼女の瞳が揺れる。
高嶺さんは少しだけ身長が高い俺を見上げて――それから、ぐっと唇を噛んでから、俺から視線をそらして下を向いた。
「すいません。今日は、もう迎えを頼んでいるので」
彼女はやはり、本心を口にはしなかった。女子の気持ちを正確に俺がわかるとは思えないけれど、怖いのは確かだろうに。
――どうして彼女は、俺に話してくれないんだろう?
それが、今の俺には少し腹立たしく思えた。
わかっている。彼女にとって俺は、ただのクラスメイトの一人。
でも同じ部活で、休日出かけたことだってあって――学校では彼女にとって近い立場にあると思っていたのに。
――確かに、彼氏でもない俺に話したくないと思わうのは仕方がないけれど。少しくらい相談してくれてもいいのに。
「そっか。それは残念」
断られたことがショックで少し表情に出てしまう。呟く声が、いつもより低くなる。しまった。これでは、落ち込んでいると思われても仕方がない。
どうしたものかと思っていると、高嶺さんは慌てて俺に言った。
「べ、別の日に……! 少し時間がかかってしまうかもしれまさんが、また瀬崎くんと一緒に行きたいです!」
「えっ?」
あまりにも勢いよく言うものだから、俺は呆気にとられてしまった。
ぽかんと口を空けた俺を前に、高嶺さんはぼん!と顔を朱に染めて、慌てて下駄箱の扉を開いて靴を出そうとした――その時だった。
バサバサと、高嶺さんの靴箱から床に何枚かの写真が落ちる。
「これは……」
俺は、その写真を拾って眉間の皺を深くした。
写真には、俺と高嶺さんが写っている。
「だ、だめ……っ!」
高嶺さんは慌てて写真を俺から奪おうとしたが、もう俺は確認した後だった。
写真の中の俺には、恨みがこもったような黒い太いペンで、大きく×がつけられていた。




