何故か少しだけ元気が無い
部活の見学と撮影を経て、高嶺さんは以前より、クラスメイトとの交流が出来るようになった。
やはり女子が中心ではあるけれど、その進化は俺には微笑ましく見えた。内田さんや姫野さんが特によく見てくれているようで、嬉しそうに笑う高嶺さんを見るのは、俺は嫌いではなかった。
ただ、そのせいだろうか。
前より高嶺さんと話す機会が減った気がするのは、彼女の成長かもしれないけれど、少し寂しい気持ちもあった。
高嶺さんのことを思うなら、女子は女子とつるむほうが、健全ではあるだろう。
まあたまにそのなかに、大路がさらっと混じっているのが気になるところではあるが――。
「高嶺さん、靴箱の前で神妙な表情してどうしたの?」
放課後のことである。
俺が下校のために靴箱に向かうと、自分の靴箱の前でじっと立ち止まっていた。
俺が軽く背中を叩くと、高嶺さんは勢いよく振り返り、俺だと気付いて安堵したように見えた。
「……あ。瀬崎くん」
「ごめん。また考え事してた? 困ってるなら話し聞くけど」
「い……いえ! 何でもないです」
高嶺さんは、少しだけ震える手で靴箱の扉を開けると、何故かほっと小さく息を吐いた。
「迎えを呼んでいるので、今日はこれで失礼します。また明日、瀬崎くん」
「うん。また明日」
ぺこり、と礼儀正しく頭を下げる。そんな彼女を、俺は手を振って見送った。
「……また、何かあったのか?」
歓迎遠足の時もそうだが、彼女は自分が困っていても、それを周囲に相談するのが苦手なタイプのようだ。
でももし彼女に問題が起きているなら、俺は彼女のために、俺が出来ることをしてあげたかった。
「……とりあえず、様子を見ておくか」
無理に聞き出すのは可哀想だ。
そう思った俺は、自分もまた彼女を、ほかのクラスメイトと同じのように、小動物のように感じていることに気付いてしまった。
警戒心の高い個体への、無理な接触はNGだ。
■
「あ。小説、更新されてる」
夕飯とお風呂を済ませてからスマホを開くと、高嶺さんの新しい小説【仮】が更新されていた。
内容は部活の撮影等に関する総集編で、彼女が高橋先輩との出会いなどについて触れているのも、俺は面白く読めた。
【ハルくんと私は、まずは部活動の見学のときと同じように、バレー部に行くことになりました。
そしてそこで、事件は起きたのです。
「あら可愛い」
なぜか私は、三年のバレー部の女子の部長さんに、抱きしめられてしまいました!
「きゃあっ!」
私は驚いて悲鳴をあげました。こういう過激なスキンシップをする方は初めてです。私の身長は平均的だと思うのですが、その方は女性なのに男性並みの長身で、それもあり柔らかい感触が――いえ、これ以上の描写は控えましょう。
とにかく、何もかもが大きな方で、そんな方に抱きしめられた私は、彼女の腕の中から抜け出せず困ってしまいました。
「駄目ですよ、先輩。可愛いものを見ると、ホントすぐこうなんだから!」
すると、クラスメイトのUさんが、私を部長さんから救ってくださいました。
「え〜〜」
「え〜〜じゃないです。うちの高嶺さんに手を出さないでください!」
「……うちの?」
私は、思わず彼女の言葉を繰り返しました。
新しい学校で、クラスに馴染めているか不安だった私にとって、明るくてムードメーカーな彼女に無意識にそう言ってもらえたことが、とても嬉しかったからです。
どうしましょう。なんだか胸がどきどきします。
「ごめんね。高嶺さん。大丈夫?」
「は、はい。大丈夫です」
私は、表情が緩みそうになるのを抑えるのに必死でした。
だって、本当に嬉しくて。
私のことを、彼女が本当に、仲間として認めてくださっているような気がして。】
俺の予想通り、高嶺さんは内田さんに攻略されていたらしい。
……うん。高嶺さんは、やっぱり素直な人なので純粋な好意を喜ぶタイプみたいだ。内田さんと高嶺さんは性格が正反対に見えるけれど、内田さんには、ちょっとおっとりした高嶺さんを心配して、ちょこちょこ後ろを振り返ってフォローしてくれる優しさがあるから、案外二人の相性は良いんだろう。
その後の高嶺さんの小説【日記】には、写真を褒めてもらえたことなどに言及されていた。
そして、何故か亀田先輩が俺の写真を見て呟いた件について、こんなことも彼女は書いていた。
【好意が撮影した人への写真に現れるなら、ハルくんが撮った写真の中にも、その好意は現れるということなのでしょうか……?】
そういえば、亀田先輩が俺が撮った写真の中で、いくつか高嶺さんのものと見比べて妙なことを言っていたっけ。
まあ、高嶺さんより俺に対して好意的というのは有り得ないと思うけど、少しは俺への印象は悪くない様に見えた被写体はいてくれたのかもしれない。
「いつもと変わらなさそう……か?」
文章を読む限り、俺の杞憂だったようだ。
彼女に問題は起きていないようでよかった――と思ったところで、俺はとんでもないあとがきを読んでしまった。
【申し訳ありません。今日は、すごく個人的な相談をしたいです。実は最近、ずっと誰かに見られているような気がするんです。こういうとき、私はどうしたら良いのでしょうか?】
「は……?」
高嶺さんは、多分幼少期から注目される経験は多かったはずだ。
でも、ここにわざわざ書くということは、それはつまり彼女が、『いつもと違う』と感じたということだろう。
だとするなら、彼女の最近の『悩み』は――。
「もしかして、ストーカー?」




