これは休日デートですか?③
フードコートは最上階にある。
たこ焼き、ちゃんぽんに皿うどん、ステーキにカレー、サンドイッチにハンバーガー。どれもチェーン店で、フードコートを出ると、店舗ごとに飲食スペースがある店が並んでいた。
吹奏楽部でも困っていた高嶺さんは、開放的に並べられた大量の机と椅子と人に驚いていた。
「人がたくさんいますね」
「お昼時だからね。高嶺さんはどれが食べたい?」
どうせなら、ジャンキーなものを食べた時の反応を見てみたい。
高嶺さんの厳しそうな親御さんには悪いけれど、高嶺さんが『普通』を知るには必要なことだと俺は思う!
ただ、高嶺さんはサンドイッチにしようとしているようだった。とても無難な路線である。
「ちなみにここのたこ焼き、最後に揚げ焼きしてるから、表面がカリカリしてて美味しいよ」
俺は、そっと高嶺さんに囁いた。高嶺さんが焼いているたこ焼きをみて悩んでいる! それだけで、シュールな光景に見える不思議。
高嶺さんは、少し悩んで――。
「半分こ……は、どうでしょう?」
俺の顔を見てそう言った。
同じクラスのただのクラスメイトと昼食を分けるのは普通なんだろうか? ……女子と付き合ったことがないので、常識が俺にはわからない。
男同士ならあり得るけど……これって、どうなんだ?
「俺はいいけど……高嶺さんはそれでいいの?」
「はい。カリカリのたこ焼き、私も一度食べてみたいです!」
俺と半分こでいいのという質問だったんだけども。まあ……本人がよければいいか。
「じゃあ私、注文してきますね!」
高嶺さんは、すぐにサンドイッチの店へと向かった。パネル注文だが、前の人の注文をみていたらしく問題はなさそうだ。高嶺さんは世間知らずなところはあるが、こういう学習能力はしっかり高い。
休日の昼ということもあり、サンドイッチは少し時間がかかりそうだ。
「高嶺さん。料理ができたら俺が取りに行くから、その間いきたいところがあれば行ってきていいよ」
「え? ……そ、それでしたら……。ありがとうございます」
高嶺さんはそう言うと、俺に番号札を渡して席を離れた。
アイドルはトイレには行かないと言ったりするけど女子は大変だな。妹がいると、現実を知るのが兄というものだ。姉もかもしれないけど。
「……さて。じゃあ俺も高嶺さんが戻るまで、ちょっと出てくるか」
たこ焼きは注文したらすぐ受け取れるから、高嶺さんの料理が来る頃に頼めばいい。
俺は羽織っていた服を椅子にかけて、一度その場を離れることにした。
■
「たこ焼きとサンドイッチ、できてたよ」
俺は高嶺さんが戻る前に、ご飯の受け取りと無料の水の用意という任務も完了させた。
ミッションクリア! 高嶺さんは、さっきより髪が整っているのと、リップを塗り直したのか少し色が明るくなっていた。
妹と出かけるときはない変化に、俺は天音との女子力の差を感じた。
「ありがとうございます。瀬崎くん」
二人掛けの席で、反対側に高嶺さんが座っている。不思議だ。はたから見たら、完全に仲の良いカップルだろう。
「じゃあ、食べようか」
「はい」
サンドイッチは、店員さんに頼んで半分にしてもらっているが袋は一つだ。俺は、高嶺さんから半分もらって、紙ナプキンを広げてそのうえに置いた。
たこ焼きは、真ん中に置いておく。高嶺さんが食べやすいように。
高嶺さんが頼んだサンドイッチは、生ハムとマスカルポーネ、そこにトマトをはじめとした野菜がトッピングされていた。バジルのソースもかかっていてとてもおいしい。ただ、若干仕様というかバゲットが硬めなので、高嶺さんは食べるのに苦戦しているようだった。
「美味しいね」
「……はい」
咀嚼に時間がかかるせいで、返事までに間がある。
高嶺さんが一生懸命早く飲み込もうとしている姿は、こんな事を言ったら怒られるかもそれないが、俺には少し可愛く見えてしまった。なんというかその――ハムスターみたいで……。
「せっかく出来立てだからさ、次はたこ焼きも食べてみない?」
俺は、そっと真ん中に置いていたたこ焼きを彼女の方へと近づけた。たこ焼きソースにマヨネーズ。そのうえで踊るかつお節に青のり。たこ焼きの見た目は、いつ見ても食欲をそそると俺は思う。
ちなみにこの店は、たこ焼きはあの細い櫛ではなくて普通の割り箸だった。二つもらったので、高嶺さんに一膳渡す。
高嶺さんの箸の持ち方は綺麗だ。
「熱いから気をつけてね」
「はい」
彼女は緊張した面持ちでたこ焼きをつかむと、そのまま一口で口に入り込み――。
「はひゃふ!?」
たこ焼きの中身が熱すぎたのか、珍妙な声を上げた。
だが俺がいる手前、吐き出すわけにはいかないんだろう。彼女は口の中で必死に耐えて、水を飲んでたこ焼きを流し込んだ。
「大丈夫?」
「……ふぁ、ふぁい……」
高嶺さんは、下を向いたまま情けない声を出した。申し訳ないが可愛い。俺は思わず、彼女を見て口の端が上がってしまった。そし顔を上げたて高嶺さんは、俺の表情を見てお怒りになった。
「わ、笑うなんてひどいです……! 瀬崎くんっ!」
熱すぎたのか、目が涙目だ。可哀想だが、ポンコツを感じて可愛く見える不思議。一応、熱いから注意してとは伝えたのに。
「ごめんごめん。高嶺さんから、一生聞けないような声聞いちゃったから」
「口の中が、まだ変な感じがします……」
「とりあえず、もう少し水飲んで。俺、まだ口つけてないからさ」
俺は、俺の方のコップを彼女に差し出した。高嶺さんは、俺とコップを三往復くらい見てから、そっとコップに手を伸ばした。
「熱かったなら、次は半分に割って、冷ましてから食べるといいよ」
俺が言うと、高嶺さんは箸で真ん中に割って、それからふーっふーっと息を吹きかけてから、何処か不安げな表情をしてたこ焼きを再び口に含んだ。
「美味しい?」
「……美味しい、です」
今度は味を楽しむ余裕があったんだろう。高嶺さんは、ちょっと悔しそうに言った。
高嶺さんの観察を終えた俺は、少し冷えてきたたこ焼きを一口で食べた。久々に食べたたこ焼きはとても美味しかったが、高嶺さんが俺を凝視していたのが気になった。
……そんな、化け物を見たみたいな顔をしなくてよくない?
食事を終えた俺はトレーを返しつつ、高嶺さんにある提案をした。
「口の中冷やすために、デザートにアイスでも食べない?」




