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高嶺さんのWEB恋愛小説は実話です。ークラスメイトの美少女が俺との日常をWEBに投稿している件ー  作者: 朝霧いお


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高嶺さん初めての「部活」

「すいません。どなたかいらっしゃいませんか?」


 翌日、俺たちは写真部の部室の扉を叩いていた。


 B棟4階、吹奏楽部と同じ階の片隅に、その部室は存在していた。写真部の部室は他の部室とは異なる硬い重い扉で閉じられており、入り口の扉の上には、ドラマで見る手術室のような、電光表示灯がある。

 『使用中』のランプは光っていない。ということは、暗室を使っているわけではないんだろうが――。


「留守か?」


 写真部についてA組のクラスメイトに聞いてみたが、ほとんど話を聞くことはできなかった。少なくとも、今年の一年に入部した人間はいないようだ。


「居ないみたい。高嶺さん、今日は帰ろうか」

「残念ですが、仕方ないですね」

 

 俺と高嶺さんが背を向けると、勢いよく扉が開いた。


「ご、ごめんなさい! すぐに出られなくて。写真部に何か用ーー……」


 メガネを掛けた短髪の、見るからに文系の先輩だ。シューズを見るに三年だろう。


「――……写真部の方ですか?」

「うん。そうだけど……」

「こんにちは。実は俺たち、写真部に入りたくて」


 俺が俺と高嶺さんの分の入部届を手渡すと、先輩は受け取るなり眼鏡をあげて確認した。


「えっ!? 入部希望なの!? そうなんだ。あ、それじゃあ二人とも、中に入って入って!」



 写真の部室の中には、奥に暗室と、手前側にパソコンと机や椅子などが置かれていた。

 パソコンの画面が付いたままなのをみると、先ほどまで先輩はここで作業をしていたんだろう。


「それにしても、二人も入部してくれるなんて嬉しいよ。今年も入部者はいないんじゃないかと思っていたからね」


 『も』、ということは、今年は入部者は俺たちだけなのかもしれない。コルクボードには、おそらくかつての先輩たちの写真が飾ってあったが、今より少し幼く見える目の前の先輩と女子生徒が写っている写真が、最も新しいようだった。


 ――もしかして、去年も入部は0だったのか?


「僕は三年の亀田。一応、ここの部長をしているんだ。……とは言っても、今この部活には僕しかいないから、部長というのも微妙かもしれないけれど……」


「瀬崎です。宜しくお願いします」

「高嶺です。宜しくお願いします……!」

「うん。宜しくね。瀬崎くん、高峰さん」


 にこ、と亀田部長は人の良さそうな笑みを浮かべた。俺はそれを見て、昨日の高嶺さんの小説【仮】を思い出した。 

 部活見学編――文芸部での話について、彼女は詳しく描写していた。

  


【「瀬崎くんは……普段、本などは読まれますか?」


 サクラさんが、ハルくんに尋ねます。


「そうだね。漫画とか小説とかアニメとか? は、普通に見るかもしれない」


 ハルくんは、私と話す時のようにサクラさんに返されました。


「そうなんですね! 私も漫画やアニメは好きです。最近は小説がコミカライズされるものも多くて、好きな作品は漫画でも読めたらなあなんて――」


 いつも黙って教室で本を読んでいる吉野さんですが、今日はいつもと違って饒舌です。先ほどハルくんが『LIMEありがとう』とサクラさんに言われていましたし、サクラさんはハルくんと仲がいいのでしょうか。


「あ。……す、すいません! 私だけ、はしゃいじゃって……」

「うん。大丈夫だよ」


 ハルくんは、ふわっと優しく微笑んでいました。どうしてでしょう。私はその笑顔を見て、なぜか胸が苦しくなりました。

 ハルくんは優しい人で、私以外の人にも優しくて当然なのに――それが少し、『嫌』だなんて。

 こんな気持ち、ハルくんに知られたら嫌われてしまいます。


「……Sくんは、やっぱり優しいですね」

「うーん、優しいかどうか……。昨日は俺、妹に馬鹿って言われたりしてたし」


 ハルくんが優しくないなんてあるはずがありません! きっと妹さんは、ハルくんの優しさに甘えておるに違いありません。お兄さんに『馬鹿』なんて、妹としての甘えがないと言えない言葉だと私は思います。


「ええっ!? そんな。せ、Sくんは……私なんかの話を聞いてくれるし、話し方も丁寧だし、他の男の子よりずっと話しやすくて……」


 ハルくんが他の男子生徒と話す時の口調が、私と話してくださる時より少しだけ強いことは、私だって気付いています!

 ハルくんは女の子が怖がらないように、気を使って柔らかくて話してくれているって――私のほうが、ずっと先に気づいてるのに。


「ありがとう。そう言ってもらえて嬉しいよ」

「えっ。あ、いえ、こ、こちらこそありがとうございます……!」


 ハルくんが、嬉しそうにサクラさんに笑いかけるのを見て、私は彼の背中の服を、そっと引っ張りました。


「――……ハルくん」


 ハルくんが、振り返って私を見ます。

 

「どうした? コトノさん?」


 私は今きっと、ひどい表情をしておるでしょう。私は下向いたまま、ハルくんに尋ねました。


「……あの、質問があるのですが。ハルくんは、どの部活にはいるつもりなんですか?」】


 昨日読者たちは、高嶺さんのこの更新で盛り上がっていた。

 つまりその――高嶺さんの、『嫉妬回』として。

 そして高嶺さんが俺と同じ部活に入ることにしたことに関しては、読者はおおむね賛成のようだった。


【ハルさん、やはり地味に女子に人気ある説】

【ハルくん居るし、私も写真部がいいと思う!】

【よし。接点が増えたぞ!】

【写真部どんな人がいるかなぁ? 優しい先輩だといいですね!】


 別に吉野さんはオタク仲間だったから反応が良かっただけだと思うけど――読者には、そうは見えなかったらしい。

 吉野さんが俺を――……ねえ。

 有り得ないと思う。だって俺は、元々モテるほうじゃないわけだし。


「亀田先輩。これ、結構いいパソコンですよね。学校の備品なんですか?」


 考えていても仕方がないので、俺は亀田先輩に話をふることにした。


「学校の支給、というわけではないかな。卒業した先輩がね、写真部の後輩にって寄贈してくれたものなんだ」

「なるほど。じゃあ先輩は、先ほどまでこのパソコンでレタッチをされていたんですか?」


 俺がたずねると、先輩は『よくわかったね』と頷いた。


「そう。それで、出るのが遅れたんだ。ごめんね」

「いえ。そうかなって思って」

「……『レタッチ』?」


 高嶺さんは、会話についていけずに首を傾げる。俺は、そんな彼女にいつものように解説した。


「一度撮影した写真に、パソコンでちょっと手を加える……みたいな感じかな。写真を撮るときも拘るけど、そのあとにもまた理想の写真になるようにするんだ」

「なるほど。写真には、そういう作業があるんですね」


 高嶺さんが頷く姿を見て、亀田先輩はくすっと笑った。


「その様子だと、君は経験者で、彼女は初めてかな?」

「はい。そうです」

「瀬崎君はカメラ持ってる?」

「はい。俺は中学も写真部だったので」

「そしたら、持ってないのは高嶺さんだけかな?」

「は、はい……」


 高嶺さんは、亀田先輩の質問に少し身構えてしまったようだ。だが先輩は傷付いた素振りは見せず、先輩らしく優しい声で高嶺さんに言った。


「一応、カメラを買うまでは 寄贈されたカメラを貸し出すことは可能なんだけど、予備用だから、そのうち高嶺さんにもカメラは用意してもらえると嬉しいかな……?」

「! わかりました!」


 案外この二人は相性がいいのかもしれない。若干人見知り気味の高嶺さんと、The文系の先輩は。


「じゃあ、カメラについてはこの辺にして――次は、写真部の活動について紹介するね」


 亀田先輩はそう言うと、アルバムを取り出して俺たちに見せてくれた。


「写真部は、他の部活と違って定期的な集まりがあるわけじゃない。写真部のメインの活動は、主に『高体連』『体育祭』『文化祭』のときになる。部室には鍵があって僕が管理してるから、必要な時は連絡をもらえたら鍵を渡すから言ってほしい。部室には暗室とパソコンがあるから、現像やレタッチも可能だよ」


 先輩は、俺たちの背後にある壁を見た。どうやら、鍵は空けたら入り口の側にかけておくシステムのようだ。


「僕たちの撮影した写真は、三年の先輩の卒業アルバムに採用されることもあるし、公募に出すことめ可能なんだ。あと、校内で年に一回発刊されて、全校生徒に配られる冊子があるんだけど、その前表紙と後表紙は、美術部との取り合いになっている。よりよい賞を取った生徒が、その場所を飾ることができるんだ」

「因みに先輩、去年は?」

「去年は、僕が賞を取れなかったから……両方美術部に取られてしまったよ」

 

 あはは、と先輩は頭をかきながら笑った。


「僕の前の年までは、必ず写真部も載せてもらえていたんだけどね……」


 先輩の声に元気がない。俺たちの前だから笑って誤魔化しているけれど、内心複雑なのだろう。俺は、彼の心の傷を少しえぐってしまったのではと思った。

 ……だから。


「なら、今年は表紙を取りに行かなきゃですね」


 俺がにっと笑って言えば、亀田先輩は一瞬何を言われたのか分からないという顔をして固まって、それから「あははっ」と声を上げて笑った。


「今年は随分やる気たっぷりな新人が入ってきたなあ! ……うん、そうだね。僕も瀬崎くんに負けないよう頑張らなきゃ」

「はい。一緒に頑張りましょう――部長」


 俺が『部長』呼びすると、亀田先輩はどこか恥ずかしそうに笑った。先輩だし男だけれど、この人は可愛い性格をしているのかもしれない。


 俺が亀田先輩を分析していると、高嶺さんが輪にはいれずに困っていることに俺は気がついた。

 いけないいけない。

 これは高嶺さんの、人生初の部活なのだ! 俺にできる精一杯のフォローして、高嶺さんには部活を楽しんでもらわなければ。


「高嶺さんも、美術部に負けないよう頑張ろうね。カメラ、一応最初は貸してもらえるみたいだけど、自分の分はそのうち買わなきゃいけないと思うからさ。もし週末時間あるなら、一緒に見に行けたらと思うけど、どうする?」


「それはつまり……週末一緒にお出かけしよう、というお誘いですか?」


「それはそう――……あ。う、うん。そうなるかな……?」


 俺は高嶺さんに言い換えられて、自分の失言に気がついた。

 フォローしなきゃという思いが先に出過ぎて――週末に女子と出かけるなんて、これではまるでデートのお誘いである。


「ご、ごめんね? 高嶺さんも忙しいと思うし、全然断ってもらって――」


 焦りのせいで声が震えそうになる。先ほどの言葉を流せるよう俺が話したのに、いいえ、と高嶺さんは首を横に振った。


「瀬崎くんならお詳しいと思いますし、私はぜひお願いしたいです。待ち合わせ時間と場所について、これから決めても大丈夫でしょうか?」

「……うん」


 部活見学の――吉野さんの件があったあとから、妙に高嶺さんが積極的になったように感じる。

 いつもより距離を詰められて、逆に俺が少し戸惑ってしまった。



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