部活見学に行こう!⑤文芸部
「せ、瀬崎くん! ぶ……文芸部にようこそ!」
翌日の放課後、文芸部に行くと吉野さんが俺たちを出迎えてくれた。
「今日はありがとね、吉野さん」
「な、名前……覚えていてくれたんですね」
「うん。クラスメイトだからね。当然覚えてるよ」
なんで彼女はこんな事を言うんだろう? 吉野さんはぽ、と頬を染めた。
「昨日はLIMEでの連絡ありがとう」
【明日、よければ文芸部に見学に来ませんか?】
正直、突然個別で吉野さんから連絡が来たときは驚いたが、彼女は高嶺さんのLIMEを知らないから俺に連絡してきたんだろう。沢山のクラスメイトのいるのグループでは、吉野さんが俺に連絡をするのは難易度が高いだろうから。
「い……いえ! 突然連絡をしてしまってすいませんでした! その……お二人が、部活を探されていると聞いたので……」
吉野さんは、ちらっと高嶺さんを見た。
いつも高嶺さんは小動物感があると思っていたけれど、今は吉野さんがそう見える。なんでだろう。HPの差だろうか? 内田さん、鈴原さんが100だとすると、高嶺さんは50くらいで、吉野さんは30くらいに感じる。
「で……では、文芸部について説明しますね。文芸部では、年に1回、文化祭の時に部誌を作って配っています。部員は、必ず絵か小説を寄稿する必要があって、それ以外は、基本自由に活動しています」
「定期的な集まりとかはないの?」
「え……えっと。文芸部は兼部も多くて、放課後、部室にいたら部活……みたいなかんじで」
「じゃあ、普段はあんまり動かない感じかな」
割と自由度が高いのかもしれない。……部誌に寄稿する、というところ意外。
「あ……あと、一応、持ち回りで小説を書くことになっています。……これが、部活で書いている小説です」
「文芸部だからみんなで小説を書くのか……」
「はい。リレー小説なんです」
リレー小説?
「みんなで……一ページだけ書いたら次の人に渡す、というシステムで」
「へえ! それは面白そうだね」
ネット上で、リレーで創作をしているのは見たことがある。だがこれまでしたことがなかった俺は、少しだけ興味がわいた。
「ただ、実はこれは問題があって……」
吉野さんは申し訳ななさそうに、ファイリングされた分厚い紙の束を俺に差し出した。
「ずっとお話が継ぎ足しされているので、かなり内容が複雑化しているといいますか……」
まるで、有名なラーメン店の紹介のようだった。創業以来の秘伝のタレ!
俺は、積み重なったリレー小説()を見て目を細めた。
これもう、内容を完全把握できる人間いないんじゃないか……?
「新入部員は、キャラクターを一人追加していいことになっています」
すっと吉野さんがキャラクターについての資料を俺の前に出した。画力にかなりの差があるのと、とんでもなく厨★2なキャラクターが混じっている。
というより、キャラクター表を見る限り明らかに人間が多すぎる。歴史……これは後世の部員が背負うには、あまりに重すぎる黒歴史の予感だ。
俺の困惑に気づいたのか、吉野さんは話を変えてくれた。
「瀬崎くんは……普段、本などは読まれますか?」
吉野さんは他の女子たちとは違い、俺にも話を振ってくれるらしい。
「そうだね。漫画とか小説とかアニメとか? は、普通に見るかもしれない」
読書家の吉野さんと比較は出来ないだろうが。
「そうなんですね! 私も漫画やアニメは好きです。最近は小説がコミカライズされるものも多くて、好きな作品は漫画でも読めたらなあなんて――」
学校では真面目な本を読んでいるようだった彼女だが、ジャンルや媒体は実は多岐にわたるようだ。ぱあっと明るい表情で語る吉野さんからは、いつものどこかビクビクした空気や口調が消えて、まるで普通の女の子のようだった。
「あ。……す、すいません! 私だけ、はしゃいじゃって……」
「うん。大丈夫だよ」
吉野さんの姿が、ゲーマーとして認められる前の妹と少し被る。俺の昔の妹は、彼女みたいに周囲の反応にビクビクしていた。
勿論、今はプロデビューしたおかげで自信もつけて、ワガママで兄に暴言を吐く妹に進化したわけだけど。
俺は、昨日大路から貰ったアップルパイを渡した時の妹の姿を思い出した。
『お兄ちゃん、学校でお菓子もらったの!? え!? 彼女できたの? お兄ちゃんに!?』
まるで「有り得ない」とでも言いたそうな口ぶりだった。
『いや違うけど。学校で食べておいしかったからもらってきた』
大路は男でただの友達だ。……女子みたいな趣味だなと思うところはあるけれど。
『ふーん。お兄ちゃんは、付き合ってもない子にこういうのもらうんだ。……って、なにこれすっごく美味しい! お兄ちゃん、なんで自分の分我慢して全部私に持って帰ってきてくれなかったの!? 私がアップルパイが好物なの知ってるくせに!』
『俺が美味しいって言ったからプラスでくれただけで、元からお前の分はない』
『うわ、サイテー。お兄ちゃんの馬鹿。罰として、明日の帰りに橘家のアップルパイ買ってきてね!』
『は? お前一人でホール食べるつもりか? 太るぞ』
『馬鹿。ほんっとデリカシーない!』
『兄相手に馬鹿言うな。文句言うならそれ返せ』
『やだ! もう私が貰ったんだもん! これは全部私が食べるからお兄ちゃんにはあげない!』
『……天音』
『じゃーね。お・に・いちゃん♪』
バタンガチャッ! 妹の瀬崎天音は、アップルパイ片手に自分の部屋に行くと、そのまま部屋の鍵をかけてしまった。
妹がアップルパイを好きなことは知っていたが、ありがとうくらい言え、とは思った。
ただ、元気なことはいいことだとも思った。
俺と妹の仲が良いかと聞かれたら「普通」だと俺は考えているけれど、妹が男子にいじめられたときに守れるようにと、子供の頃は母さんには空手やら少林寺やらを一時期習わされていたし、なんやかんやで妹の存在が、俺の人生に影響を与えているのは確かだろう。
その妹も今はこうなので、悲しいかな、俺の労力は何一つ役に立たなかったが。
もう少し、可愛げのある妹に育つかと思っていたのに、期待した俺が馬鹿だった。
まあ人生、普通に生きていたら人暴力を振るわれて暴力でし返す場面はそうそうない気がする。
そんな、不良物の漫画やアニメじゃあるまいし。
「……瀬崎くんは、やっぱり優しいですね」
「うーん、優しいかどうか……。昨日は俺、妹に馬鹿って言われたりしてたし」
苦笑いして俺が言うと、吉野さんは明らかに驚いていた。
「ええっ!? そんな。せ、瀬崎くんは……私なんかの話を聞いてくれるし、話し方も丁寧だし、他の男の子よりずっと話しやすくて……」
対男用と女子用で使い分けているだけだが、どうやら吉野さんには、今の俺の話し方が好ましく映っているらしい。
大路のようなイケメンと比べられたら、女子からの好感度でボロカスに負ける自信がありすぎるが、せめてクラスメイトの女子には不快に思われない程度には気をつけたいところだ。
「ありがとう。そう言ってもらえて嬉しいよ」
「えっ。あ、いえ、こ、こちらこそありがとうございます……!」
俺が笑いかけると、吉野さんは顔を真っ赤にした。
うーん。もしかしたら吉野さんは、男に免疫がないんだろうか? 昔の妹と似ていて、少し気になると思っていると。
「――……瀬崎くん」
ずっと無言だった高嶺さんに、何故か後ろから、背中の服の裾をくい、と引っ張られた。
「どうした? 高嶺さん?」
振り返って尋ねる。
下を向く彼女の表情が、いつもより少し暗く見えるのは俺の気のせいなんだろうか?
「……あの、質問があるのですが。瀬崎くんは、どの部活にはいるつもりなんですか?」
何故か高嶺さんは、俺に入る予定の部活を訊いてきた。




