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高嶺さんのWEB恋愛小説は実話です。ークラスメイトの美少女が俺との日常をWEBに投稿している件ー  作者: 朝霧いお


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部活見学に行こう!③吹奏楽部

「高嶺さんは音楽、何かやってた?」

「はい。ピアノを少し。あまり上手には弾けませんが、ヴァイオンを聴くのも好きです」


 内田さんにおすすめされた吹奏楽部に向かう途中、俺たちは廊下を歩きながら話をしていた。

 吹奏楽部の部室――つまり音楽室は、教室のあるA棟ではなく、特別教室などがあるB棟の最上階にある。


「俺は小さい頃見てたアニメのオープニングが弾けるくらいだなあ……」


 妹が好きだったので、それだけは弾けるのだ。母さんが買ってくれた幼児用の本に載っていた楽譜を、おもちゃのピアノで妹に弾いてあげたから。


「瀬崎くんは、アニメを見られるんですね」

「あっうん。そうだね……?」


 お嬢様の高嶺さんに改めて言われると、俺は少し身構えてしまった。

 高嶺さんが他人の趣味を馬鹿にする人でないことは分かっているけれど、長年の心の傷というか、陰を生きる人間は、陽の世界の人間を前にするとつい眩しさを感じてしまうというか――。

 相手に悪気があるなしにかかわらず、(おそらく一部を除き)オタクとはそういう生き物なのだ。


「……高嶺さんも、アニメは見たりするの?」

「私は、アニメはあまり見たことがなくて。メイドの一人が好きなようで、おすすめを聞いたりしています。文字でそのお話を読んだことはあります」

「そうなんだ?」


 予想だが、『マリさん』は高嶺さんをちゃんとしたお嬢様に育てたいタイプだと思うので、どうやら高嶺さんの周囲には悪いこと(?)を教えている大人がいるようだ。

 もしかして、そのメイドからの入れ知恵でサイトを登録して、サイト内の「掲示板型小説」や、「実話小説」を読んで、今の小説【仮】が投稿されるようになった説――が、俺の頭に浮かんだ。


「それで……素敵な学校生活に憧れがあって。お友達がいっぱいの学校生活って素敵だなって」

「高嶺さんなら、きっと出来るよ」


 もしかしたら高嶺さんは、友達一〇〇人作りたい感じなのかもしれない。小学生の最初の目標みたいではあるけども。


 

「高嶺さん!」


 音楽室が近づくにつれ、楽器の音は大きくなっていく。

 俺たちが音楽室の近くに行くと、廊下で練習をしていた鈴原さんが、俺たちを迎えてくれた。


「うっちーから連絡来てたけど、吹奏楽部に見学に来たんだよね? 私たちは、毎日ここで練習してるんだ!」

「放課後こっちに来ることなかったから知らなかったけど、廊下でも練習してたんだね」

「そうなんだよ〜。先輩とかもたくさんいるし、廊音楽室だけだと狭くてね」

 

 通りで音が響いていたはずである。

 防音なしの廊下で練習されたら、そうなるのも当然だ。

 唯一の救いは、ここが生徒が普段勉強する教室のあるA棟からやや離れたB棟にあり、最上階であるということだろうか。

 おかげで、比較的(?)影響が少ない気がする。


「高嶺さんもふいてみる?」

「いいんですか?」

「うん、いいよ」


 鈴原さんはそういうと、口に触れる場所の板を交換して、少し拭いたりしているようだった。

 

「はい! ふいてみて!」


 鈴原さんは、笑顔で高嶺さんに楽器を差し出した。俺はその光景を見て、つい口元に視線がいってしまった。


 ――女子って、意外と女同士の間接キスとか気にしないよな……。


 まあ拭いたりはしてたけど。それとも、音楽やってる人が気にしないのだろうか。鈴原さんは気にしていなくても、見ているこっちが少し恥ずかしくなってしまう。


 そう思っていたから、高嶺さんも頷くまでに間があった。試してみる? と聞かれてつい頷いてしまったけれど、お嬢様である彼女は、他人が先ほどまで使っていたものに口をつける、ということには、少し抵抗があるのかもしれない。


 緊張した表情。

 指で髪を耳にかけて、躊躇いがちに楽器に触れる。楽器に口をつけるその瞬間、少しだけ目を伏せる高嶺さんの表情からは、彼女の心情が伝わってきて、つい、俺まで少しドキドキしてしまう。

 でもまあ、初めての楽器の演奏は予想通り――。


 スーー……。


「音が、音がうまく出ません……っ!」

「あはははっ。最初はなかなか難しいよね」


 高嶺さんは懸命に息をふいてはいたが、楽器は思ったような音は出ず、空気が流れるような音だけが響いた。

 鈴原さんは、そんな高嶺さんに向かって元気よく笑って親指を立てた。


「大丈夫! 練習すれば音は出るから!」


 俺はそれを見て、内田さんと似たものを感じた。

 『吹奏楽部は運動部』という言葉を他人から聞いたことはあったが、言い得て妙かもしれない。

 根が文化部の俺からすると、だいぶ熱い何かを感じる。正直、俺には熱すぎる。

 やる気、努力、そしてみんなで掴む栄光! さあ、今日から毎日一緒に練習しよう!

 そんなキラキラした瞳を向けられると、俺は光に焼かれて寿命が削られていくのを感じた。


「高嶺さん、どう? 吹奏楽部。入ってみる?」


 だが、そもそも今回の部活見学は俺のためでなく高嶺さんのためのものだ。

 俺の意見は関係ない。先ほどと同じように尋ねると、高嶺さんは廊下で練習する沢山の人間を見て、こそっと視線をさけるように俺の後ろに隠れた。

 

「その……私、こんなに沢山の方と一緒に演奏した経験はなくて……」


 確かにお嬢様の高嶺さんなら、個人指導を受けていそうだ。だとするなら、高嶺さんはそもそも運動部の適性は低めなのかもしれない。

 文化部は基本個人主義なところが多いと思うが、吹奏楽部は連帯責任という言葉が合うのが俺のイメージだ。


「そっかあ残念。でも、そうだね……。なら高嶺さんは、文化部のほうがいいかもね。運動部はどうしても、みんなでやるものが多いし……球技も苦手みたいだし。運動部で球技がないとなると、あとは水泳とか陸上とかマネージャーとかだけど。高嶺さんにマネージャーは……」


 鈴原さんは、腕組みしてうーんと首を傾げていた。その気持ちはわかる。高嶺さんにお世話される側は嬉しいが、彼女自身が何かやらかしてないか逆に心配になってしまいそうだ。

 マネージャー! ウェアアーユー!


「『次に高嶺さんはどこに行くの』ってみんな話してたけど、どこがいいかなあ……?」

「?」


 俺は、鈴原さんのその言葉に少しだけ違和感を覚えた。

 もしかして、高嶺さんの得意不得意がA組の中で共有されている……? そしてこの部活見学も話題に上がっている?

 クラスのLIMEグループで会話が見えないことを考えると、女子だけのLIMEグループが存在するのだろうか。

 ……正直、俺は少し怖いと思ってしまった。


「水泳……」

 高嶺さんが、ちょっと興味ありげにぼそっと呟く。

 俺は、慌てて意見を述べた。高嶺さんの部活探しを手伝うのはいいけれど、女子からの視線が痛い場所にはできるだけ行きたくない。


「ごめん。水泳は、さすがに俺が一緒に行くのはちょっと気が引けるというか……」


 流石に水着はアウトだ!

 俺がどうしようかと困っていたら、鈴原さんがさらりと俺のフォローをしてくれた。


「水泳は季節によっては外のプールが使えなくて、その間は外を走って体力づくりするらしいから、長距離走るのが苦手なら無理そうかな」


 高嶺さんは遠足の時点で足を挫いているので、それも考慮しての言葉だろう。


「沢山走るのは、苦手かもしれません……」

「なら、おすすめはできないかな?」


 しゅんとする高嶺さん。もしかして、意外と泳ぐのは好きなんだろうか? 俺がそんな事を考えていると、鈴原さんが「そういえば」と何か思い出したような顔をした。


「そうだ。ここの棟の一階に家庭科学部があるから、次はそこはどうかな? ちょうど料理もできてそうだし、面白いものが見れると思うよ」

「……『面白いもの』?」


 いたずらっ子のような顔をして笑う鈴原さん。その笑みは意味深だった。


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