「連絡先を教えてください」
「緊張でお腹痛くなってきた……」
翌日、俺は朝からお腹を押さえていた。
高嶺さんに連絡を聞かれるかもしれないと思えば、緊張するのは当然である!
「瀬崎」
「……大路」
だが、午後になっても高嶺さんに話しかけられることはなく、かわりに俺にこの日初めて話しかけてきたのは大路だった。
「数学の教科書持ってない? 他のクラスが貸してほしいって」
「あるけど」
俺が引き出しから取り出して渡せば、大路はさっとそれを受け取った。
「ありがとう! 終わったらすぐ返してもらうから」
大路は、すぐに廊下で待つ友人に、俺の教科書を渡していた。ぱちっと隣のクラスの奴と目が合うと、相手は大路と同じで陽キャなのか、ニコッと笑って、俺の教科書を少し横に振った。
「ごめん、ありがとう。僕のはもう貸してたからさ」
「そうかよ」
友達多い仲良し自慢かよ。
基本、陰の側の人間の俺は、先程の大路の友達を思い出して複雑な気持ちになった。
どうやら美形の友達は、顔が整っている人間が多いらしい。
くそっ。世の中は不公平だ!!!
「いや、自慢とかじゃないよ? 友達は確かに多い方だけど――」
「怖」
今こいつ、俺の心読んできた?
口に出していないことを言い当てられて、俺は思わずそう口にしていた。俺が驚きで椅子を少し後にずらすと、大路は楽しそうに笑う。
「ははっ。瀬崎って、ホント面白いね。……興味深い」
そうして、じっと目を見つめられてからどこか大人びた笑みを向けられ、俺は動けなくなってしまった。
大路は、綺麗な目をしている。
高嶺さんとはまた違う雰囲気だけれど、下を向いた長い睫毛の下には、きらきらと瞳が輝いている。
「……」
いやいやいや! 待て俺。男相手に、『綺麗』って何考えてんだ。
別に多様性の世の中を否定するわけではないけれど、俺は絶対女子が好きなはずなのに!
「あ、あの! 瀬崎くん!」
違う扉を開けそうになっているのではと、俺が心の中で『ぬおおおお』と頭を抱えて唸っていると、高嶺さんがスカートを揺らして俺のもとにやってきた。
「よかったら、メールアドレスかお電話の番号を教えていただけませんか?」
うん可愛い。
高嶺さんは、今日も正統派美少女だった。
俺は、そう思えたことに安堵した。
「高嶺さん、瀬崎と連絡先を交換したいの?」
だがそんな俺と高嶺さんの間に、大路が割って入ってくる。
いやいやいや! なんでお前が俺と高嶺さんの間に入ってくるんだよ!?
とはいえ、遠足の事があったから、高嶺さんも大路に対しては安心感があるのかもしれない。大路の質問に、高嶺さんは素直に答えていた。
「はい。もし、よろしければ……」
「でも、電話とメールかあ……。高嶺さんは、LIMEのアカウントは持ってないのかな?」
「? LIMEとはなんですか? お電話やメールとは違うのですか?」
「もしかして高嶺さん、LIME知らない!?」
俺は、思わず声を上げて尋ねていた。
確かに高嶺さんは、匿名()でWEBで小説という名の日記を書いていることを知らなければ、子供向け携帯しか持っていないと言われても信じてしまいそうな人ではあるけれど!
「はい。大切なことは、マリや爺やが教えてくれるので……」
「やりとりを簡単にするなら、LIMEのアカウントはあったほうがいいかもね。タダだから電話もしやすいし、これがLIMEの画面なんだけど――」
大路は、自然な流れで高嶺さんにスマホの画面を見せた。
正直なところ、LIMEでのやり取りをする流れに持っていってもらえるのは、俺としてはありがたかった。
高嶺さんはお嬢様だから電話代は気にしないかもしれないが、俺の方が困ってしまう。まあ、どの程度連絡をすることになるかはまだわからないけれど――。
「この画面だと、過去にお話した内容がわかりやすいですね」
高嶺さんは、大路のLIME画面を見ながら頷いていた。
「せっかくだし、これを機に高嶺さんもアカウント作るといいよ。瀬崎は優しいから、高嶺さんのためなら何でも教えてくれると思うよ」
「おい大路何言って」
「本当ですか? よろしければお願いしたいです!」
大路が教えるのかと思っていたら、何故か大路は俺にバトンをパスしてきた。高嶺さんは、目をキラキラさせて俺を見てくる。
そんな期待に満ちた目で見られたら、ちょっと困ってしまう。別に高嶺さん青手なら面倒とは思わないけれど――ああ、今日もクラスメイトからの視線が痛い。
「はい。瀬崎にはこれをあげる」
俺が友達がなかなかできない現状に悲観していたら、大路はさっと書いたメモを俺に渡してきた。
【高嶺さん、慣れないうちにグループLIMEにいれるのは可哀想だから、高嶺さんと仲のいい瀬崎が先に入ってしばらく連絡役になったほうがいいと思う。僕が瀬崎をクラスのLIMEに入れるから、先に瀬崎は僕のを登録しておいて。】
メモ欄の最後には、大路のIDらしいメモが書かれていた。
「……」
「同じクラスだし仲良くしようね」
大路はそう言うと、にこっと俺に笑いかけた。




