高嶺さんに避けられている気がする②
少し行を空け、高嶺さんは遠足についても更新していた。
【「お嬢様。今日の髪型は、こちらでよろしいですか?」
「ありがとう。マリ」
遠足当日。
私はいつものように、侍女のマリに髪を整えてもらいました。
いつもはハーフアップや、髪を編んでもらっていますが、今日は遠足ということもあり、今の学校に入学して初めてのポニーテールです。
いつもより首周りが涼しく感じられて、少し落ち着きません。着慣れないジャージの襟の部分が、肌に当たってくすぐったいです。
「残念です。お嬢様と同じ学校に通えたら、ご一緒できましたのに」
幼い頃から共に過ごしてきたマリは、ずっと私と同じ学校に通ってくれていました。
ですが今は、私自身のために、違う学校に通っています。誰かにお世話していただかなくとも、自分でできることを証明しなくてはなりません。
「大丈夫。心配しないで。私、ちゃんと頑張ってるんですよ」
……マリがいない分、ハルくんのお世話になっていることは秘密です。
「お嬢様が頑張り屋であることは存じております。ただ、私が心配なだけです」
マリは普段あまり表情が変わらない、と周囲の人間に言われる子ですが、長く付き合いのある私にはわかります。マリは優しくていい子です。
「ありがとう。マリ」
その後、いつものように車に乗った私は、学校まで送ってもらうことにしました。
「いってらっしゃいませ。お嬢様」
「はい。マリもいってらっしゃい」
マリはこれから、別の学校に通います。
■
「今日は1日、ハルくんと一緒なんですね……」
一人呟いて、私は思わず頬が緩んでいることに気が付きました。今の学校は、まだまだ慣れないことばかりですが、ハルくんの隣は安心します。
「おはようございます。ハルくん」
私は、ハルくんに声をかけました。
どうやらこの学校では、遠足の前に校庭に集まるようです。
私の通っていた学校ではずっと車移動でしたので、少し不思議な感じがします。遠足ですが、なんと沢山歩く必要があるようです。……私は本当に、ちゃんと山頂まで登れるのでしょうか?
「同じ班、ですね」
「そうだね」
少し心配になりましたが、ハルくんを見ると大丈夫のような気がしてきました。
ジャージ姿のハルくん。
なんだか、いつもと少し違う雰囲気です。
本日の遠足は、クラスでいくつかの班に分かれており、男子生徒のお一人が休みということで、今日はハルくんの他に、ヒメさんとオウジくんが一緒です。
ヒメさんは雰囲気の柔らかい可愛らしい方で、オウジくんは、周りの方々にかっこいいと評判の方です。
姫と王子。お二人が並んでいると、とても絵になるきがします。
「今日はよろしくね。コトノさん」
「コトノさんと同じ班なんてすごく嬉しいよ」
お二人は、私を見てそうおっしゃいました。
不思議です。どうしてお二人とも、私を温かな目で見られているのでしょうか?
まるで、保護すべき天然記念物でも見つけたかのような視線を感じます。
「宜しくお願いします」
前の学校では、こんなふうに私をじっと見つめてくる方はいなかっただけに、反応に困ってしまいました。
私は、ハルくんの影に隠れてしまいました。
「ハルです。宜しく」
困っている私を察してか、ハルくんは紳士的に、私をかばってくださいました。
そして、私の人生初めての、徒歩での遠足が始まったのでした。
「……」
目的地の山頂までは、少し距離があるようです。そもそも山のふもとに着くまでも徒歩ですので、どうやらこの遠足では、私が歩いたことのない距離を歩く必要があるのかもしれません。
体力、は、まだ大丈夫なのですが――昨夜は期待の心配で眠れなかっただけに、すこしねむいです。
私がぼんやりそんな事を考えていると、気の所為でしょうか? 何故かハルくんが、私をじっと見られている気がしました。
今日はマリにポニーテールにしてもらったのですが、もしかしてそれが変だったのでしょうか?
「コトノさん、目が少し赤いけど大丈夫?」
「……ハルくんには、気づかれてしまいましたか」
すると、ハルくんは私の予想とは違う言葉を口にされました。
どうやら、昨日今日のことで緊張して眠れなかったことが伝わってしまっていたみたいです。
私は少し恥ずかしくなって、指で軽く目をこすりました。
でも彼だけは私の変化に気づいてくれたことは、実は少し、嬉しくもありました。
「実は昨夜、緊張してあんまり眠れなくて」
「イベントの時って、緊張して眠れないことあるよね。俺も前はそうだった」
「そうですよね?」
よかった。ハルくんもお仲間みたいです。
「そういえば、高嶺さんの通ってた学校って、イベントの時ってどんなところ行ってたの?」
「そうですね……」
ハルくんからの質問です! ここは、しっかり答えなくては。
私は少し考えてみました。
「別荘地でゆっくり過ごしたり、海外にお勉強に行ったり……」
「待って待って。もっと普通のはないの?」
私、何かおかしなことを言ったでしょうか。ハルくんの口ぶりからするに、私のこれまでの日常は『普通』ではないのかもしれません。
ハルくんが驚いてしまっています。
「そういえば、遊園地にも行ったことがあります!」
「おお」
ハルくんが私の言葉に頷いてくださいました。
よかった。これは、『普通』みたいです。
「一日貸切にしていただいて、すごく楽しかったです」
「お……おう?」
ハルくんが、再び首を傾げられました。どうしてでしょうか……。もしかして、貸切は普通ではない?
私が悩んでいると、ハルくんは私を気遣ってか
、話を変えてくれました。
「ちなみにコトノさん、山って登ったことある?」
「いえ、実は今日が初めてで。幼い頃あまり身体が強くなかったので、両親の教育方針で……」
今はもう、身体は丈夫になったつもりですが、私の周りは、使用人含めて私に過保護な方ばかりなのです。
私は『普通』に、みんなと仲良くしたいと思っているのに。
「そっか。まあここの山に危ないルートはないはずだし、ハイキングみたいなものだから、心配しなくていいと思うけど……。困ったことがあったら教えてね」
やっぱり、ハルくんは優しいです。
ハルくんと同じ班にしてくださった先生に、私は心から感謝しました。




