第29話 望まぬ再会
茜が魔族領に入ってから約一時間。
ようやく街のような建造物が視界に入り、茜も気を引き締め直す。
一時間飛び続けて殆ど変わらない景色を見ているだけだった為に、変わり映えのする光景に自然と笑顔が浮かんでいた。
「やった!家があるってことは魔族が住んでるよね?もしかしたらその中に姫様もいるかも!」
決して魔族と交戦するなと言われていた茜は気配遮断の魔法を用いて街へと近づく。
高位魔族相手であれば茜が使う気配遮断など無意味だが、他の魔族や魔物相手ならば効果的だ。
実際街の一番高い建物へと降り立った茜が気づかれる様子はなかった。
「結構広いなぁ……ここから探し当てるのは大変かも」
王都ほどではないとはいえ、たった一人で飛び回りながらラクティスの魔力を察知するのは難しい。
時間をかければ見つけられるかもしれないが、長居できるだけの物資は持ってきていなかった。
「とりあえず……一番大きな建物かな」
茜が目を付けたのは現在いる街で一際異彩を放つ建物だった。
装飾といい大きさといい他の追随を許さないような、豪華な建物。
高さはそれほどないが、それでも三階建ての屋敷と同じくらいだった。
魔族に見つからないよう細心の注意を払いつつ、茜はその建物へと近づいていく。
「うっ……この魔力って……高位魔族、かも」
茜が足を止めたのは建物から数メートル離れた場所だった。
そこからでも分かるほど強烈な魔力を感じられるということは建物の中には確実に高位の魔族がいる。
茜も勇者の一人ではあったが、高位魔族と対等に戦えるほどの実力はない。
どちらかといえば斥候のような役割が一番向いている。
「どうしよう……でも姫様がいるかも知れないし……ソッと近づけば大丈夫かな?」
足音を立てないようゆっくりと近づいていき、建物に触れられる距離まで接近すると強烈な魔力が更に跳ね上がった。
茜は声に出さないよう両手で口元を抑え、その建物の敷地内へと侵入する。
(ヤバい……これ絶対伯爵級以上の魔族がいるッ)
見つかれば死あるのみ。
茜程度伯爵級以上の魔族ならば数秒で殺すことが可能だ。
幸いにも茜が忍び込んだ位置から建物内部を覗くことのできる小窓があった。
ゆっくり、慎重に窓へと近づき顔を覗かせると、中は綺麗に片付けられているようでゴミ一つ落ちていない。
(これだけ綺麗ってことは多分誰かが住んでるよね……)
魔族との遭遇だけはさけなければならない。
戦闘になれば逃げ切れる自信はあったが、高位魔族相手にどれだけ距離を取れるかはやってみなければ分からない。
(入れるかな……?あっ)
壁沿いに歩いていると半開きのドアが目に入った茜はそそくさと中へと入り込む。
誰にも見られていないか周囲を注意深く観察しながらも、ようやく建物の内部へと侵入できた。
中は貴族の屋敷のように、綺麗な絨毯が敷かれていて、廊下には一定間隔で設置されている青白いランプ。
(こんな所で魔族に出会ったら逃げ切れるかな……?)
廊下は一本道だ。
点々と扉は見えるが、鍵が開いているかは分からない。
忍び足で進む茜の背後にはいつの間に現れたのか白いマントをつけた魔族が立っていた。
「ふむ、私の屋敷に無断で侵入するとはなかなか根性のある若者だな」
突然背後から声を掛けられた茜は振り返りもせず、即座に飛行魔法を発動する。
(ヤバいって!魔族に見つかった!)
後ろは魔族がいる。
前にしか逃げ場はない。
茜は高速で前方へと飛びそのまま突き当りの窓を突き破った。
一刻も早くこの場から逃れなければならない。
茜は無我夢中で空を飛ぶ。
飛んできた方角など覚えておらず、とにかく街から離れなければ。
そう思い全速力で飛ぶ茜の横には同じ速度で腕を組みながら、並走する甲冑姿の魔族がいた。
「なっ!?」
「逃げ足は速いようだな。しかし私から逃れられるとでも?」
話す余裕なんてない。
茜は魔族を振り切ろうと更に速度を上げる。
限界を超えて飛んだ茜は辺りに魔物がいない荒れ地で足をついた。
「ハァハァ……ヤバすぎ……」
「なかなか速かったな」
息はあがっており、肩で息をする茜の側に白い甲冑が一瞬で現れた。
「ど、どうして……」
「あの程度では私を振り切れはしない。……ん?貴様人間か?」
「人間だったら何!?烈風の弾丸!」
茜は速攻で魔法を唱えた。
相手は明らかに高位魔族。
今までのどんな時よりも最速で飛んだはずの茜に余裕でついてこられる魔族などそうそういないだろう。
だからこそ速攻を仕掛けたが、その魔法は甲冑に弾かれて霧散した。
「なんで!?烈風の弾丸✕三!」
一発で効かないのならと、茜は三発の魔法を同時に発射する。
しかし、甲冑に触れる前に全て霧散してしまう。
「何度やろうと同じ事だ。その魔法は中級魔法だろう?私に中級以下の魔法は効かぬ」
「くっ……なんなんだよアンタ!」
「それはこちらの台詞だが?なぜ人間がこのような場所にいる」
当たり前の質問に茜は口を閉ざす。
正直に答えていいものなのかどうか判断できなかったのだ。
「ふむ、だんまりか。では聞き方を変えよう。貴様はどこの国の者だ」
「……アルトバイゼン王国」
茜はそれくらいなら答えても構わないだろうと渋々ながらも口を開く。
「ほう、彼の国から来た者か。つまりは……勇者、だな?」
「……どうして分かったの?」
「あの国は我ら魔族の手により壊滅滅的打撃を受けた。復興に殆どの人員が割かれている今、魔族の領域に単独で足を踏み入れられる者など勇者くらいしか思いつかぬ」
「もしその勇者だったらどうするの?」
「ここで討たせて貰おう」
逃げられない、戦うしかないのかと茜は顔を顰めた。
実力は明らかに自分が劣っている。
どう足掻いても勝てるビジョンが浮かばない。
仲間のいる所までどれだけ距離があるかも分からない。
そもそもそこまで逃げ切れる自信もない。
「どうせ戦うなら一つ聞きたいんだけど」
「ふむ、よかろう。何を問う?」
「この魔国にウチの姫様が攫われたんだけど、知ってる?」
「姫……?ああ、あの王女のことか」
やはり彼は知っている。
高位魔族であろうことは何となく分かっていた。
ならば攫った事も共有されているかもしれないと、カマをかけてみたが当たっていた。
「その王女が何だというのだ」
「どこにいるか知らない?」
「知っていても教えると思うたか?私に一撃でもいれられたなら教えてやってもよいが」
一撃入れられるような雰囲気でもないが、やらなければ死ぬし情報も手に入れられないだろう。
一騎討ちなら姑息な手段を用いる事も難しい。
茜にそこまでの考えはなかったが。
「白いマントに騎士のような出で立ち……あ!もしかしてアンタ前に王国へ攻めてきた魔族じゃん!」
「ん?……そうか、貴様あの時にいた勇者の一人か」
茜は思い出した。
王城まで攻め込まれいよいよ後がなくなった時にいた高位魔族のことを。
「アンドロマリウスって名前だった気がする……」
「ほう、よく覚えていたな。私は貴様の名を知らんが」
アンドロマリウス伯爵。
命乞いした騎士を瞬殺してみせた騎士道を重んじる魔族。
茜では背伸びしても勝てる相手ではなかった。
「貴殿、名乗ってはどうだ?」
「魔族なんかに名乗る名前なんてねぇよ!」
「ふむ。名も知らぬ勇者よ。一騎討ちを望むか?それとも死ぬ覚悟でこの場から逃げ去るか?」
茜は身震いする。
アンドロマリウスの身体から迸る魔力は茜の数倍にものぼる。
戦闘の経験値も生きてきた年月も上だ。
だからといって逃げる選択肢は愚の極み。
高速で逃げてもすぐに追いつかれ殺される未来しかない。
アンドロマリウスが本気になれば茜など歯牙にもかけないだろう。
茜は一度目を瞑り深呼吸をする。
次に目を開いた時には覚悟が決まった、そんな決意に満ちた目をしていた。
「……ッ!三嶋茜!空の勇者、いくよ!」
「やっとやる気を見せたか。私は伯爵アンドロマリウス。推して参る」
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