第30話 茜の激闘
久しぶりの投稿です。もちろん忘れていたわけではありませんよ!他の作品がラストスパートでしたのでそちらを優先していただけですので!
「風絶の鎧、風牙の装具!」
まずは自分の身体能力を向上させる魔法を重ねがけする。
バフで戦闘力をあげるのは基本だ。
対するアンドロマリウスはというと茜の準備が整うまでジッと動かず見つめている。
高位魔族であるが故の自信の表れだった。
「よし!暴風領域!」
茜を中心とした強烈な風が吹き荒れる。
風に巻き上げられた砂や小石が高速で飛び回り、生身の人間が一歩足を踏み入れれば身体はずたずたに切り刻まれてしまう。
「ほう……?」
茜の魔法を見て、アンドロマリウスはほんの少し評価を上げた。
風属性の上級魔法だ。
行使できる者はそこそこの腕を持つ魔法使い。
魔族であるアンドロマリウスからしてみれば使えて当たり前かもしれないが、人間が行使するのはなかなか難しい。
何しろ人間には内包する魔力が少ないのだ。
勇者であるからこその魔力量を存分に使った上級魔法。
威力も高い。
「それで?次はどうする?」
しかし茜の魔法は直接攻撃するには向いていない自身を中心とした範囲魔法だ。
次の手は何かと問いかけたアンドロマリウスに、茜は口角を上げる。
「超加速!!」
茜は地面を強く蹴ると上へと跳んだ。
そして空へと飛び上がると空中でもう一歩強く蹴った。
音を置き去りにした高速移動。
空の勇者は飛ぶことに特化した能力を持つ。
空を飛べるということは速度も思いのまま。
茜は、自身の最高速度でアンドロマリウスへと突貫した。暴力的な風を纏って。
「ほう……なかなかよい速度だ。それに上級魔法を纏わせながら突貫するとは根性もある。しかし、その程度で私を倒せると思わぬことだ」
目にも止まらぬ速度で突っ込んでくる茜の腕を掴むとそのまま後方へと放り投げた。
「え!?」
一瞬何が起きたかも分からないほどの速さで放り投げられたせいで茜は呆けた顔のまま吹っ飛んでいく。
突っ込んでくる茜の速度を一切落とさずに投げ飛ばされたのだ。
人外じみた早業に茜は反応すらできなかった。
(何よ今の!?アタシの速さに合わせて腕を掴まれたの?)
理解できた時には既にアンドロマリウスがギリギリ見えるかどうかの距離が離れていた。
茜は空中で反転すると体勢を整える。
殆どの者が知覚できない速さでもアンドロマリウス相手では児戯に等しいと理解した茜は悔しそうな表情を浮かべる。
空の勇者は戦闘に特化した能力ではない。
しかし勇者であるが故の魔力量があった。
膨大な魔力さえあれば上級魔法は扱える。
他の勇者より火力で劣る茜は手数の多さで勝負するしかなかった。
次の手を考えている間に、気づけば茜の側へと移動してきていたアンドロマリウス。
「速さこそ褒められるがいまいち火力が乏しい。あの程度では私に傷すら付けられんぞ」
「うるっせぇ!荒れ狂う風の槍×四!」
茜の頭上に浮かんだ半透明の緑色の槍が四本、勢いよくアンドロマリウスへと飛んでいく。
「中級魔法なら防御するまでもない」
アンドロマリウスは突っ立ったまま茜の魔法が直撃した。
しかし何の反応もない。
高位魔族ともなれば自然に魔力障壁を身体の周りに展開している。
いわば分厚い壁だ。
茜の魔法ではアンドロマリウスの魔力障壁を破ることができなかった。
「もう終わりか?」
「まだまだ!風神王の一撃!」
今度は右手に宿した魔力を一点に集めアンドロマリウス目掛けて放った。
正真正銘、上級の攻撃魔法だ。
茜の扱える最大火力の魔法。
これが効かなければもう打つ手はない。
「おお、ようやくまともな魔法か!」
アンドロマリウスは茜の放つ魔法が弱すぎていまいちやる気が出なかったが、やっと自身の障壁を破れるであろう魔法が撃たれ喜びを露わにする。
「ならば私も応えよう!刃の旋風!」
背中に担いだ大剣を抜くと大振りの一撃を放った。
アンドロマリウスが選んだのは茜と同じ風属性の剣技だ。
高位魔族なのだ。当然ながらもっと威力の高い魔法や剣技は使える。
しかしアンドロマリウスは魔族でありながら騎士でもあった。
故に茜に合わせた技を放ち力比べを行った。
茜の魔法とアンドロマリウスの剣技がぶつかると周囲に暴風が吹き荒れた。
同属性同士のぶつかり合いは純粋に威力が上回った方が勝つ。
茜の全力の魔法は徐々に押され、額には大粒の汗が流れた。
(な、なにこれ……威力が桁違いじゃん!ちょっとでも気を抜けば消し飛ぶっ!)
もはや逃げることなど頭にない茜は全身に流れる全ての魔力をここで使い果たすつもりで、魔法の威力を底上げする。
それでもまだアンドロマリウスの斬撃はビクともしなかった。
「なかなかの威力ッ!勇者というのも嘘ではないようだな!」
アンドロマリウスの口角が上がった。
高位魔族と出会ってしまったのも運が悪かったが、その相手がアンドロマリウスだったのもツイていない。
アンドロマリウスは戦闘狂、と呼ぶほどでないにしろ正々堂々と戦うことに重きを置く魔族だ。
全力で格上に挑もうとする茜に感化されアンドロマリウスもそこそこの威力の斬撃を放っていた。
茜の全力虚しく少しずつ押されていき、遂に限界が訪れた。
「も、もう……無理ッ!」
魔法が弾けるようにして消え去ると威力が多少落ちた斬撃が茜を襲った。
「キャアァッ!」
斬撃の直撃を受けた茜はその勢いで地面に叩き落とされた。
肩から胸にかけて鋭い切り傷から血が溢れ出る。
辛うじて身体が真っ二つになるのは避けれたがそれでも重傷であることには変わりない。
それに地面に叩きつけられたせいで腕と足が折れていた。
(痛い痛い痛い痛い!!なんでアタシがこんな目に!こんな魔国なんて来るんじゃなかった!)
激しい痛みに苦悶の表情を浮かべている茜の目からは大粒の涙がこぼれ落ちる。
空の勇者らしく地面に落下する際に風魔法である程度は衝撃を吸収したがそれでも痛いものは痛いのだ。
そんな茜に堂々とした足取りで近づいてくるアンドロマリウス。
手には大剣が握られており、このまま殺されるのかと茜は震えが止まらなくなっていた。
「空の勇者、三嶋茜。私に傷一つ付けられなかったとはいえ格上に挑んだその勇気を讃えよう。安心せよ、痛みなく終わらせてやろう」
「グスッ……」
茜が目を閉じると足音は直ぐ側で止まった。
頬に微風が当たると、それが大剣を持ち上げたのだと分かる。
まだまだやりたい事はあった。
アイドルとして沢山の人を笑顔にしてきた。
妬みや僻みで嫌がらせを受けることも多々あったが、それでもアイドルの最前線を走る茜には何も響かなかった。
異世界でも勇者として活躍していく、そう思っていた。
そんな自分の人生がこれで終わるのかと思うと辛くて悲しくて、悔しさで歯を食いしばる。
どれだけ背伸びしても勝てる相手ではなかったのだ。
一縷の望みにかけて逃げた方がマシだったかもしれない。
そんな後悔を胸に茜は目を強く瞑る。
せめてもの情けは一刀で終わらせてくれることだろう。
アンドロマリウスほどの魔族であれば人間の首を落とすなど造作もない。
本当に痛みなく一瞬で死ねる。
それだけが唯一の救いであった。
「さらばだ空の勇者」
大きく振り上げられたアンドロマリウスの剣が勢いよく振り下ろされる。
これで終わる……。
茜がそう心の中で呟くと同時に閉じた瞼が真っ白に染められた。
「神速雷矢!」
突如一本の雷光がアンドロマリウスの身体を直撃する。
そして、どこからともなく聞こえてきた声は茜の記憶にある声であった。
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