第27話 魔国への第一歩
前回の投稿からかなり日が開いてしまいすみません...
読んで頂いている方には申し訳なさでいっぱいです...
ですが、完結まで必ず書ききりますので引き続きよろしくお願いいたします。
セニアと無名が獣王国を出ておよそ一週間。
「馬車の一つでも買えばよかったですね……」
「いえ、必要ありませんよ。魔国に入れば馬車は邪魔になります」
現在荒野を二人で歩いているが、無名の体力のなさは相変わらずである。
セニアは涼しい顔をしているが、無名の頬には大粒の汗が伝う。
普段から運動していない弊害がここでもでていた。
見渡す限りの荒野で、歩けど歩けど目的地である魔国の領地に足を踏み入れる事は叶わなかった。
「遠いですね……」
「そうですか?冒険者ならこれくらい普通ですが」
セニアの言う普通というのは、冒険者ならば片道一週間以上かかるダンジョンに赴くこともあるという意味の普通である。
元の世界で電車やバス、タクシーを使っていた無名からすれば丸一週間も歩き続けるのは苦痛でしかなかった。
「少し……休みませんか」
「ではそこの岩場で休みましょう」
ようやく一息つけると無名は息も絶え絶えに座り込んだ。
もちろん地面もゴツゴツしていて長くは座っていられないほどだったが、足を休められるならなんでもいいと岩にもたれ掛かる。
「もっと体力をつけたほうがいいですね」
「これでも……ついた……方なんですけど」
「全然ダメですよ。持久力は冒険者にとって一番必要な能力です。どれだけ凄い魔法を使えても、どれだけ素早く動けたとしても継戦能力で劣る方が負けます」
セニアはため息をついて、こんこんと説教を始めた。
最初のうちはまだそれほど一緒にいる時間も長くなかったからか、あまり小言を漏らさなかったが一週間もすればセニアの小言は増えていった。
「――というわけです。理解していますか?」
「はい」
殆ど聞いていなかった無名だが、返事だけはしっかりしておかないと説教は延々と続く。
「さて、それではいきましょう。もう少し歩けば明日には魔国の領内に入ります」
「え?もう行くんですか?」
「こんな何もない場所で野宿するつもりですか?せめて雨風を凌げる岩場があればいいですが、ここには何もありませんよ」
「わ、分かりました」
セニアの言うことは理解している。
しかし足が言うことを聞かない無名はよろめきながら立ち上がった。
二人を知らない者が見れば、何と情けない男だと嘆くだろう。
それほどまでにセニアと無名の表情には差があった。
一方は涼しい顔で先を歩き、もう一方は死んだ魚のような目でおぼつかない足を動かす。
勇者だというのも嘘ではないかと思えるほどだった。
歩く事数時間。
辺りは暗くなり手元の松明の光だけを頼りに先導するセニア。
その後ろを金魚のフンの如く、フラフラの状態でついていく無名。
「この辺りで夜を明かしましょう。ふぅ……そろそろお風呂に入りたいものです」
「確かに……あ、魔法で水を生み出せば水浴びくらいならできるんじゃないですか?」
「そんな無駄な事に魔力を使うのは推奨できません。万が一、この後すぐ魔物に襲われたらどうするつもりですか?」
「片方が守る、とか」
「数十の魔物に囲まれたらいくら貴方でも守りながら戦うのは辛いでしょう」
できないことはない。
しかし、かなり難度の高い状況には変わりない。
セニアの言う通りだと無名は謝罪する。
火を起こして傍にあった岩に腰掛ける二人。
火の爆ぜる音だけが周囲に木霊する。
もう何度目かの野宿だ。
無名も慣れたもので干し肉を齧り、水筒を口に運ぶ。
「……明日には魔国に入ります。恐らくそこからは魔物の襲撃が増えるでしょう。可能な限り戦闘は避けて逃げること。それが冒険者の掟です」
「倒してしまった方が楽なんじゃないですか?」
「戦闘がその一回で終わるとは限りません。何度も襲撃を受ける可能性だってあり得ます。力は温存しておくに越したことはありません」
セニアは今まで殆どソロで活動してきた冒険者だ。
彼女に従うのは一番理にかなっている。
無名もそれは理解していて、黙って頷いた。
「無名さんはできる限り戦闘に参加しないでください」
「どうしてですか?」
「私より貴方のほうが強いからです。魔物の襲撃程度なら私一人でも十分対処可能ですが、その後に爵位級魔族と遭遇すればその限りではありません。その時に無名さんに動いてもらいます」
「なるほど……そういうことなら僕はできるだけ手を出さないようにします」
「そうして下さい。……そろそろ寝ましょう、今夜は私が最初に見張りますので無名さんは先に寝てください」
セニアと無名、交互に夜の番をして夜を明かす。
もしも無名一人で来ていたらそんな悠長なことはできなかった。
ソロというものがどれほど大変なのか、ようやく理解していた無名はセニアの言葉に従い寝袋に入った。
三時間で交代。
その約束だったが、歩き疲れたせいもあってか無名が目を覚ましたのは夜が明けてからであった。
「あ!すみません……寝過ごしました」
「いえ、構いませんよ。私はいつも一人で活動していたので三徹までなら耐えられますから」
どこのブラック企業勤めなのだとツッコミたくなったが、今は感謝する時だ。
無名は礼をして出発準備を進める。
支度を済ませた二人はまた無言で歩き始めた。
せめてもう少し景色が変わるようであれば、気も紛れるが殆ど岩ばかりの場所で無名は参っていた。
「無名さん、この際だから聞いておきたい事があります」
「はい、なんでも」
「ラクティス王女を見つけたらどうしますか?」
「助けますよ。一応この世界に呼び出した張本人なので」
「助ける必要がありますか?この世界に来ることは望んでいなかったんでしょう?」
「まあ……でもこの世界に来て変われた自分もいるので、感謝こそしませんが結果的には良かったかなと思っています」
無名がこの世界に来ていなければ、元の世界でとんだ大事件が起きていた。
今でこそ他人を思いやる気持ちが多少なりとも生まれたが、元の世界にいた頃は無差別テロを起こそうと考えていたのだ。
ラクティスのお陰で犯罪者を生み出さずに済んだのだ。
「そうですか。お人好し、そう言われる事も多いのでは?」
「いえ、そんなことは一度もありませんでしたよ。……元の世界ではずっと孤独でしたから」
「そう、ですか。失礼しました」
「気にしないでください。両親も生きていますよ」
両親が生きているのに孤独?とセニアは首を傾げたが無名はそれ以上語らなかった。
また無言で歩く事一時間ほど。
砂地と岩肌が目立つ光景こそ変わらないが、ある一線を境に土色が紫色へと変色していた。
「あれは……」
「あそこからが魔国です。ここからは特に気を引き締めていきましょう」
魔国の領内は空気中に魔素が多く含まれている。
そのせいで土や砂、木々までもが薄い紫色が混じっていた。
「異様な空間、ですね」
「魔法使いは魔国で思うように魔法が使えません。恐らく魔素の影響かと思いますが、無名さんも魔法を行使する際は念頭に置いておいてください」
「分かりました。コントロールできないなんてことにはならないかと思いますが一応気をつけます」
魔素が多いということは体内に吸収される分がいつもより多くなる。
いつも通り魔法を行使したつもりでも、暴発してしまうということが頻発し魔法使いの中でもそれなりの腕がなければコントロールできない。
無名ほどの実力者であれば魔素に翻弄されることはないが、それでもセニアの忠告は真剣に聞き入れていた。
二人が同時に紫色に変わっている地面を踏みしめると、お互いに顔を見合わせる。
「ここから魔国です。魔物も凶悪なものが増えます。必ず生きて戻りましょう」
「ええ、少なくともセニアさんは無事に帰ってもらいますよ」
「貴方もですよ。私なんかより勇者の命の方が重い。だから私は命をなげうっても無名さんを逃がします。異論は認めません」
「……はい」
セニアの顔が近づきジッと無名の顔を見つめそう伝えられると、無名も反論などできずに小さく頷いた。
ブックマーク、評価お願いいたします!
誤字脱字等あればご報告お願いします。




