38-一つ目です
ブラックナイトの戦いは夜の帳が下りる。
それは彼らの固有血術による結界を用いた、戦い方からそう呼ばれるようになった。
敵を一匹足りとも逃す事はなく、全てを鏖殺せしめる圧倒的範囲火力を持って、結界内の敵を掃滅する。
その力が今、たった一人のために展開された。
三千の敵を一方的に屠った脅威の結界が、たった一人のために。
「お前は初めて見たんだろ? これがブラックナイトの戦い方だ」
宙に浮くプーサーは余裕綽々と言った様子で語り始める。
その様子をブランクは見上げるしかない。
「ここなら外の雑踏も喧騒も、何も聞こえない。良いだろ? お気になんだぜ」
「そうか」
「なんだよ冷たいな。もう少しおしゃべりに付き合えよ。どうせすぐ終わる」
冷ややかな瞳はブランクに対しての関心が薄れつつある証拠だ。
代わりに感情の熱は込みあがり、プーサーは両手を広げて喝采する。
「地上最強? ならボクは空中から一方的に殲滅しよう。数が不利? ならボクは圧倒的物量で殲滅しよう。対空兵器? いいだろう撃ってこい。その全てを撃ち落としてやろう。ボクにはそれだけの実力と歴史がある! それと比べてお前には一体何があるんだ?」
「さぁね」
口が回るようになるのは、勝利を確信したものの慢心から生まれる特徴だ。
ブランクは圧倒的不利な状況でありながらも、至って冷静に宙のプーサーを見つめていた。
「はん。フレアクラフトのハエ虫が。周りをブンブン飛び回りやがって目障りなんだよ。ボクが十年かけて築いてきた関係を横取りしやがって、一体何様なんだ」
「? それはおかしい。ファレーナさんは貴方のことが嫌いだったように見受けるが」
「浅いな。嫌い嫌いも好きのうちという言葉を知らないのか? 子供の頃、好きなやつの木を引きたくて、ちょっかいかけることあるだろ? フレアクラフトはそれと同じのいじらしいやつなんだよ。十年見てきたからわかる」
「────」
ブランクは空いた口が塞がらなかった。
まさかファレーナが心の底から自分を愛していると思っているのか。
「嘘に決まってんだろ」
そんなブランクの様子を見て、嫌悪丸出しの顔で否定した。
「フレアクラフトがボクを嫌いなことなんて十も承知だ。だからいいんじゃないか。ボクのことを世界で一番嫌いな奴が、ボクがいないと生きていけない体になることを想像してみろ。はは、最高じゃないか……」
「下衆……か」
「そうかな? 多くの男は得てしてそういうもんだとおもうぞ。女を支配したい。男の思う通りにしたい。なぁ、そうだろ?」
わかったような口を聞くプーサーは今度こそ本心で言っているようだった。
ニタニタ笑みを浮かべながら、囁くように語る。
だがしかし、確実に聞こえるそれは、
「お前もあの女を自分のものにしたいんだろ?」
憤慨するには十分過ぎる動機だった。
変化のなかったブランクの様子が、漸く変わったその様を楽しむように手を叩き、
「ほら! かかってこいよ!! お前でここまで来れるならな!」
あからさまな挑発。
無理に付き合う必要などない。
しかしこれは決闘だ。
ブランクとプーサーのLGは双方無傷の状態だ。
そろそろ動きがなければ、用意した作戦も無駄になる。
跳躍。剣気を足に集中させ、魔力を爆発させる。
「はは! そこまで剣気を使いこなしてるのか!」
この短期間でブランクは剣気を習得した。
それはリベリカ、ブルブラックの修行による手助けもあるが、一番は接続の力だった。
剣への接続、足への接続。
魔力を集中したいところに接続の能力を発動させることで、効率的に魔力を集中させることが出来たのだ。
才能がないブランクの付け焼き刃の技術だ。
だがその刃は敵の喉元へと熱を走らせる。
「でもそれ、ボクは五歳の時には出来てたぜ?」
ブランクは咄嗟に回避行動をとる。
空中目掛けて剣気を集中した足で蹴り飛ばすことで可能とする瞬間的な回避行動だが、そう何度もは使用できない。
それを使わねばならぬと判断したのは、プーサーの傍らから眩い光が飛んできたから──
「輝かしい──」
号令と共に、プーサーの背後。
夜空一面に広がる星空が顕現する。
それら一つ一つが、人の命を軽く消しとばす爆弾と同義であり、
「星の裁き!!!!」
「っな!?」
勝ちを確信した粘りつくような笑みと共に、プーサーの指先がブランクを指した。
次の瞬間、ブランクは回避行動ではなく、ショートソードを前に翳し防御行動をとった。
が。降り注ぐ星の大群は人一人など軽く飲み込む物量だった。
雨を全て防ぐ事はできない。
それが傘よりも面のない剣であれば尚更であり、雨粒より大きい星の光は容赦なくブランクの身体を地へと叩き落とした。
「まだまだ!!」
星の光は永遠とも思える物量を落としていく。
プーサーの固有血術、星降る夜には夜の結界の中にいる限り、無限の魔力提供を齎している。
故に、敵が何体いようとプーサーの前では変わらない。
ただひたすらに魔力の暴力をぶつけるだけなのだ。
「まだまだまだまだぁ!!」
これは必勝法であり、常套手段だ。
今までこの方法で、逃れることが出来た者は剣の勇者のみであり、その他の勇者達も各々対処法を取ったことがあると、歴代当主の日誌には記載があるが、結界自体を攻略し切ったのは後にも先にも剣の勇者だけとある。
であれば、炎の勇者であるフレアクラフトにも何かしらの攻略法はあるかもしれないが、その弟子であるブランクには──あるはずもない。
「だまだまだまだまだまだまだまァッ!!」
土煙で人の姿などもはや見えない。
しかし既に万を超える星を地目掛けて発射している。
これを回避出来る、或いは防ぎ切るのは果たして勇者でも可能なのか。
否。彼らであればそもそも撃つ前になんとかする、という方針のはずなので、この星の雨が降り注いだならば彼らでも耐えられないだろう。
LGなど貫通して命を刈り取りかねない。
そうして、破壊の限りを尽くしたプーサーは、息を整えながら、指揮を切るように握り拳を作る。
それで星の弾幕は停止した。
「終わりか」
土煙が晴れる。
地面は星の絨毯爆撃を受け、平面を探す方が難しいでこぼこの状態になっていた。
そこに一人、ズタボロになって横たわるボロ雑巾。
ゆっくりと地面におり、その無様な死に顔でも見てやろうと近寄る。
一応、執事の策でそう簡単にはLGがゼロにならないようになっているはずだが、と。
目を凝らした先、ブランクに纏わりつく結界は未だ健在だった。
「なに?」
そして、LGの表示は──百。
「な、なにっ!?」
「冥土流暗殺術」
眼前にいたブランクの姿は霧散。
声に反応して背後を振り向けば、そこには首にショートソードを突き出そうとする暗殺者の姿──
「ぬぉぉぉぉぉぉぉっっっ!!!?」
それを間一髪で避けるプーサー。
受け身など取れるわけもなく、ひっくり返り、地面を這って逃げる。
「な、な、な、なぜ!!!?」
背にうけた衝撃でLGが五だけ減少していた。
それを見て、ブランクは頬の端をゆっくりと上げる。
「空蝉。思ったより上手くいった」
調子を整えるように、首を鳴らし、腕を回す。
変わらず現状が把握できないプーサーは腰が抜けてブランクを見上げていた。
だが、だんだんと込み上げる怒りに、地面を殴って無理やり起き上がる。
「雑魚虫がぁぁっ!! 調子に乗りやがって!!」
「一つ目です。驚くのは、まだ早い」
まだまだ決闘は、始まったばかり。




