表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
SETSUー炎の姫と接続者《リンクメイカー》  作者: UMA20
第一章 満天を切り裂く陽炎星
PR
24/45

23-契約決闘

 ありえない光景が広がっている。

 人を迎える門は消失し、邸宅への道は溶けて黒化した一本道が出迎えている。

 明らかに何者かが通った跡であり、それがファレーナであることは疑いようがなかった。


『今すぐ、ファレーナ様を、追ってください……』


 リベリカの言葉に従って、走って追いかけてきたブランクだ。

 その意味を知った。

 こんな大惨事、道場を運営する者が起こしてしまっては良くて運営停止処分、最悪取り潰しまで考えられる。

 その最悪を引き起こさないために、おそらく自分は追ってきたのだ。


 自分の使命を考え、邸宅へと向かうブランク。

 今もまだ戦闘音は外にまで響いており、少なくともファレーナが無事なことは理解出来た。


 邸宅内に足を踏み入れる。

 そこは酷い有様であり、元々廃墟だったと言われたほうが納得出来るほど、内部は崩壊していた。

 焼け爛れた床や壁、装飾品は熱により原型をとどめておらず、破壊された建物は倒壊寸前というほかない。

 中でも二階へと続く階段が消失しているのが気になった。

 二階からする話し声からして、ファレーナは二階へと向かったのだと判断した。

 その時である。


 二階の廊下から鈍い音。

 何かを殴るような、そんな音。

 ファレーナが殴る──? 果たしてそんなことあるのか。


 自問自答して即答する。

 ──ファレーナさんはそんな戦い方はしない!


 ブルブラックの時もそうだった。

 気づいたら決着が付くほどの、高威力による一撃必殺。

 それこそ彼女が得意とする戦法であり、常套手段だ。

 相手がどれほど憎くとも、痛めつけるような真似をする人とは思えない。


 だからこそ、ブランクは崩壊した階段を手すりに飛び移り、そこからよじ登る形で二階へと上がった。

 ファレーナの特訓を乗り越えたおかげだ。

 少なくとも、五ヶ月前のブランクでは出来なかっただろう。


 そんな感謝を心中でして

 ──ありえない光景を、見た。


 燃えるような赤い美しい髪を乱暴に扱い、毟るように持ち上げる男の姿と、それに抵抗する事なく力なく地を這いずるファレーナの姿。


「ファレーナさん!!!」


 見たこともないその光景に、ブランクは思わず叫んだ。

 完全に閉じていた瞼が、微かに動く。

 空いているかもわからないほどに、薄く瞼を持ち上げて、ブランクを視認したファレーナは掠れた声で言う。


「く……る……な」


 いつもと違う弱々しいその姿に。

 言葉に出来ない怒りを覚えて。

 ブランクは思考する前に身体が動いていた。


「お前ェェッッ!!!」


 目指す先は黒髪、瞳が星の男。

 横にいる黒尽くめの男は眼中にない。

 宝石にも劣らない美しい髪の毛を無造作に扱う愚か者に制裁を与えられればそれで──


「なんだ、お前は」


 本懐を遂げられたはずだった。

 だがブランクの拳が男に届くより前に、ブランクの視界は暗転。

 気づいた時には廊下に口つけしていた。

 続く、脳を揺さぶる衝撃がブランクを襲う。


「が……はっ……」


「弱っ。おいおい、虫にしたって酷いな、お前。雑魚虫でももうちょっとマシだぞ。お前は差し詰め、ゴミ虫か」


 殴り込むより早く接近して、光の速さから繰り出される脚撃はいとも簡単にブランクを廊下へと埋め込んだ。

 圧倒的な力の差。

 それをひしひしと実感する。

 顔を上げることができない。

 見下ろされ、重圧で押し潰してくる魔力の暴力がブランクの顔を上げることすら許さなかった。


 頭を勢いよく踏んづけられ、ぐりぐりと廊下に押し込まれる。

 屈辱。ブランクは今、初めて怒りを感じている。

 これが何に対する怒りなのか、どこからくるものなのかはまだ理解できていない。

 だが、このままやられ続けることが正しいことのはずが──


「生意気だぞ、ゴミ虫!!」


「っぁっ!?」


 腕立て伏せの容量で体を持ち上げた瞬間、蹴り上げられ、壁へと叩きつけられるブランク。

 目に見えない速度で攻撃をしてくるプーサーの一撃一撃は重く、かつてファレーナとの特訓で受けていた斬撃と同等の威力と感じていた。

 たった二回直撃しただけで、ブランクはもう立つ力がなくなりかけていた。

 そんなブランクを見下ろして、満足そうにプーサーは微笑む。


「はは。お前、そんなに弱いのに、よくファレーナの弟子になったよなぁ」


「な、に」


「いや何さ、事実を言ったまでだよ。ファレーナも没落したとはいえ、かつての勇者の血族だ。弟子を選ぶ権利や誇りくらいあるだろうに、お前みたいなハズレを掴まされてガッカリしただろうなぁ」


 ケラケラと笑うプーサーに、反論することすらできないブランク。

 痛みに言葉を発する前にダウンしてしまう。

 そんなブランクにお構いなしに、プーサーは続ける。


「もったいないよ。お前なんかに時間を使って。そして、お前なんかにボクの計画が邪魔されていたことが腹立たしくて仕方ない」


「計画……? なんの話」


「なんだ知らないのか。元々ボクはこのファレーナに婚約を申し込んでいたんだ。十年も前からね。フレアクラフトの血筋を絶やさず、権力を保つには西の英雄であるボクと結婚することこそ打開策だと教えてあげてたのさ。だけど傲慢にもファレーナは拒否してねぇ。だから部下がいなくなるまで待って、漸くシャガがいなくなったと思ったら、ぽっと出のお前が出てきたんだ」


 ガンっ! とブランクの頭を壁目掛けて踏んづけて、何度も何度も打ち付けるようにプーサーは踏み込む。

 怒りを込めて。或いは嫉妬を込めて。


「お前だよ、お前お前お前!!! 十年も待ち続けた日が漸く来たってのに、何処の馬の骨ともしれないゴミ虫が紛れ込んだせいでボクの計画はパァ〜だ!! 雑魚雑魚雑魚雑魚雑魚虫がぁっ!」


 もうブランクの意識も消えかかっていた。

 薄れる意識の中で、ファレーナの姿が目に映る。


(ごめんなさい)


 謝るしかなかった。

 目的も持てなかった僕に。

 ただひたすらに強さをくれた貴方。

 その行いに報いることが出来なかった、自分自身が恥ずかしくて仕方ない。


 だが後悔はもう遅い。

 既にプーサーの隣にいた黒尽くめの男が懐からナイフを取り出した。

 プーサーは何か言いながら腹を抱えて笑っている。

 きっと精神を逆撫でするような言葉を並べ立てているのだろう。

 それが聞こえないのはある意味運が良かったかもしれない。


 ただ惜しむらくは──ファレーナを救えなかった自分の実力不足。


「──そこまでだよ」


 自分の弱さを呪って、死を覚悟したブランクの眼前。

 黒尽くめの男がナイフを振りかぶったその瞬間、紫色のナイフのような何かが胸から飛び出した。


「────」


 黒尽くめの男は胸を押さえながら、震えて倒れた。

 もがき苦しみ、最後は縋るように天井に手を伸ばし、そのままチリになり消える。

 一体、何が起こって。


「あちーっす! ブラちん、おっひさー!」


 愉快な声に目を開く。

 こんなわかりやすい言葉遣いはたった一人しか。


「よすちすおーっす! 現代最強の魔術師、エマたその登場だよーん!」


 中指と薬指を折った独特なハンドサインで、舌をぺろりと出す。

 どこからともなく現れた彼女は、ブランクとは一度だけ面識のある最強の助っ人。

 自称“魔女ギャル”、エマ・テルマ・アルマだった。


「は、は、はぁーっ!? ま、ま、ままま魔女だって!? ふざけんな!! なんだよそれ!!」


「あら、ブラックナイトの子倅(こせがれ)ちゃん随分と焦るじゃーん。君ともあーちは初対面じゃなかったはずだけど?」


「そんなこと言ってないんだよ!! なんでボクとフレアクラフトとの問題に現代最強が首を突っ込むのかっていう話だ!!!」


「なーんだ、簡単だよ!」


 狼狽し戸惑うプーサーを前に、笑顔で答えるエマ。

 その瞳からは青白い血が溢れ出し、


「ファっちゃんは私の友達なんだ」


「ひぃっ!?」


 瞳の白い部分がどんどん黒に染まり、青白い何が目から溢れ出す。

 涙のようで、血のような何か。

 初見でそれを見るのは恐怖体験そのものだ。


 プーサーも思わずファレーナの髪を離して、尻餅をついた。


「まぁでも、ファっちゃんも色々やっちゃったみたいだからさー。今回は痛み分けってことでいいんじゃないかなぁ? あーち、めんどくさいのは嫌でさぁ、多分このままだと騎士協会のお偉いさんとか魔術協会までもが関わってきちゃうと思うんだよねぇ。とりあえずあーちが、隠蔽しているけどこれ以上は無理、的な? ファっちゃんも死にはしないけど、ピンチみたいだったし」


「じゃ、じゃあお前は、フレアクラフトを助けに来たのか?」


「違う違う。話聞いてたー? これ以上めんどくさくなる前に、あーちが落とし所を付けに来たんだよー」


 簡単に言ってのけるエマの態度は至って飄々としていた。

 別に、二人がどうなってもそこまで気にしないが、めんどくさいのは嫌だ、と。

 ファレーナを友達と言っておきながら。


 その強大な力を持って事態を封殺しようとするエマの言動に、プーサーは怒り狂い、


「なんだよそれ……ボクは納得いかないぞ!! 漸くここまで来たんだ! フレアクラフトを手に入れられず終われるわけないだろ!!」


 廊下を何度も叩いて不満を示した。

 そんなプーサーの態度に、エマは少し思考して、何か閃いたように目を開いた。


「ふーん、そしたらさぁ、決闘で決めたらいいじゃん!」


 名案と言わんばかりに白い手袋を取り出して、プーサーとブランクに渡した。

 決闘は特別な手続きは必要ない。

 魔術的な契約が結ばれた白い手袋を、決闘したい対象に投げつけることで強制的に契約が結ばれる。

 その代わり、条件提示には公平性が認められ、認められない場合は、対戦相手の認証がない限り、契約は結ばれない。

 公式戦というよりも賭けの決闘でよく執り行われる昔懐かしの風習だ。

 それをエマは、笑顔で双方に手渡して、悪戯に微笑んだ。


「だって二人とも、一応騎士なんだし、さ⭐︎」


 その瞳から、溢れんばかりの青白い血を流して。


読んでいただきありがとうございます。

少しでも“面白そう”と“続きが気になる”と感じましていただけましたら、『ブックマーク』と『評価』の方していただけますと幸いです。

皆様の応援が作者のモチベーションとなりますので、是非ご協力よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ