37 後悔
空いた時間はずっと家出をしたクロのことを探し回った。
花凛たちもビラを作ったり、SNSで呼びかけたりと捜索してくれたのだが、クロの行方はまったく掴めないまま時間だけが経過していった。
内心、半分あきらめている部分もある。
クロは元々野良猫だ。
たまたま家にやってきて、飼い猫のような日々を送っていただけに過ぎない。
可愛がっていたとは言えないし、家主への愛着などほぼ皆無だろう。
軽薄な猫からすれば、うざったい同居人にくらいにしか思ってなかったかもしれない。
もしかしたら悪魔との契約を終えて、英気を養い再び自由な世界に帰っていただけなのかもしれないし、単純に愛想をつかして出て行った可能性もある。
もちろん、ただ出かけているだけでまたひょっこり帰ってくることもあるだろうと、常にガレージのシャッターを出入りできるくらいの隙間を開けてはあった。
でももしかしたら、迷子になっていたり、事故や喧嘩で怪我を負って帰れない状況だったりするのかもしれないと思うとじっとしてられず、毎日近所を探し回った。
休日は野良猫達が集会している駐車場や公園を重点的に探し回った。
雑木林や空き家の庭先、廃材置き場や車の下なども注意深く覗いては見たが、クロの姿はどこにもなかった。
ダメもとでボス猫らしき貫禄のある恰幅の良いトラ猫に話しかけてみた。
「うちのクロを知りませんかね?」
舐められているのか翔琉にたいして逃げるそぶりも見せず、ふてぶてしく一瞥した。
「ご存じでしたら、どうか帰るようにお伝えください。これはつまらぬものですが」
家から持ってきた猫缶を献上してみるが効果は未知数だ。
それでもこの愚かな人間の願いを聞き入れてくれるのか、ボス猫はまるで頷くように緩慢な動作で猫缶を口にした。
そして餌をきれいに食い終わると、ボス猫は雑木林の方へと消えていった。
いまになってもっと愛情を注いであげてればよかったと思う。
好きな餌を飽きるくらいに食べさせてやればよかった。遊んであげればよかったし、猫がよろこぶ玩具や快適な環境を提供してあげてればよかった。
異世界や仕事にかまけて、あまり構って上げられてなかった。
勝手にずっと居てくれるものだと思っていた。
なにもしなくても、餌だけを上げていればわがままも言わずに傍に居てくれるものだと。
そしてこちらの気が向いたときだけ可愛がってあげていれば、最低限飼い主としての責任を全うしている気になっていた。
猫の気持ちなどなにも考えずに。
後悔ばかりがまた募っていく。
そして何気ない日常が幸せだったのだと過ぎ去ってから気づかされる。
時間の中に生きていく以上、後悔は必然として待ち構えている。
なにをしたとしてもそれからは逃れられない。
それでも精一杯のことをしてあげていれば、もっと違った結果が生み出されていたような気がしてならなかった。
嫌というほど繰り返してきてわかっていることなのに、満足に出来た試しはなかった。




