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25 最終手段

 深夜になってガレージへと足を運ぶと、手に抱えていたフィギュア達を祭壇の上に並べていく。

 久しぶりの家族会議だ。


「今日はみんなにお別れを言わないといけない」


 もちろん最愛なるフィギュア達は前方をじっとみつめているだけで、答えてなどくれないが、翔流の話は続いていく。


「明日、ボクは異世界に旅立つ。どうなるかはわからないが、成功したとしても、失敗したとしても、きっと戻ってくることはないだろう」


 翔流は甲冑に身を包み、刀を持った女侍の人形に向けて重々しく首を振る。


刀子(とうこ)キミは確かにボクの刀となることを誓ってくれた。……でも、連れてはいけない。そんな悲しまないでくれ……できれば祝福して欲しい」


 刀子と呼ばれた人形はべつに誓ってはいないし、悲しんでもいない。むしろ微笑を称えている。


「みんなが止めるのも理解してる。ボクだってもちろん怖い……それに、ほんの少しだけどこの世界にも未練があるんだ……」


 翔流は慎ましい笑みを浮かべる。


「……何十億ってひとがこの世界にはいるのに、キョウちゃんが居なくなってからは、ボクはずっとひとりぼっちだった……。でも、ここ最近は不思議な黒猫やおかしな悪魔、それに魔法使い志望の女子高生がボクの前に現れて、色々と楽しい日々を送れていたんだ。それに世羅さんや千湖ちゃんに出会って、キョウちゃんのことも知れた。なんていうのかな……充実した日々を送れていたんだ……」


 起伏のない毎日が、ダークシャドーを召喚したことによって大きな変化が起きた。笑ったり怒ったり悲しんだり、いままでにはない刺激的な日々を送れていた。


「でも、それじゃいけない……。キョウちゃんが待っていてくれるのに悠長なことはしてられないんだ、一刻もはやく異世界に行って約束を果たさないと……ボクは勇者なんだから……」


 一分一秒を惜しんで異世界へと向かって勤勉に取り組んでこなかった、怠惰な性分が恨めしい。もっと直向きに精進していれば、またべつの結果を生み出すことができたのではなかろうか。


「すまない、みんな……明日、ボクは旅立つ。こんな気持ちよく送り出せない結果になってしまったけど、必ず成功させて向こうで元気にやっていくから……みんなも――」


 にゃー


 フィギュア達に別れを告げていると、クロが翔琉の足に身体をこすりつけた。

 そしてクロの影からダークシャドーが姿を現した。


『だれと話ししておるのだ?』


 翔流は両手を広げてフィギュア達を隠そうとするが、すぐに諦めて腕を下ろした。


「……家族とだ」


『家族? その人形がか?』


「そうだよ」


『ワシシをからかっておるな?』


「冗談なんかじゃない。この世界には多くの人達が暮らしているけど、ボクの生活範囲である世界にはボクひとりしかいなかった。そしてこのフィギュア達がボクを慰めてくれる唯一の話し相手だったんだ……」


『翔流は傀儡使いでもあったのだな』


「そうじゃない」


『もしや、これもカガクとかというおかしな錬金術で、お喋りするのではあるまいな?』


「この人形達にはそんな機能はないよ。全部が妄想してのことなんだ」


『まことにおかしな奴じゃな、お主は。その歳でお人形遊びでもしておったのか?』


 刀子のフィギュアを持ち、淋しそうにじっと見つめる。


「そうだ……ボクはおかしいんだ。きっと、だいぶ前から壊れていたのかもしれない……。ずっと孤独に押しつぶされそうになりながら、不確かな世界を追い求めていくうちに、本当の自分を見失ってしまっていた……」


『なにもそこまで自虐的にならんでもいいと思うが……』


「だからボクは決断したんだ。異世界がボクを必要としていることに賭けてみようって」


 どこか譫言のように語る翔流にダークシャドーは慰めるように纏わり付く。


『よくわからんが……とにかく翔流よ、元気を出せ。また魔力の封じられた代物を探せば良いではないか』


 悪魔にまで励まされるとは情けない。


「いいや、ボクにはもうそんなに時間はないみたいなんだ」


『なら諦めるというのか?』


「諦めるようなことはしない。キョウちゃんが待ってるんだから」


『では、他に策があると?』


「……ある。まだ試していないことがひとつだけ」


 まだ挑戦すらしていない究極の手段を残していた。

 その知識だけは蓄えては置いたが、実行に移すことだけは危険と判断して、禁断の手段として封じていた。


『なんじゃ、あるのならはやく言わんか。色々と気を揉んで損をしたわい』


「そんな簡単なことじゃないんだ……前々から考えてはいたんだけど、リスクが高すぎるから最終手段のつもりだったんだ。でも、もうやむを得ない……」


『ほう、それはなんなのだ?』


 翔流は深く息を吐き、覚悟を決めたように口にした。

 これは望まぬ手段だ。

 これでは描き続けてきたシナリオが大きく書き換わってしまうから。

 それでも一縷の望みにかけ、決行するしか他に道はなかった。


「――異世界転生だ」


 井沼翔流の人生を終わらせ、異世界で新たな命を手にする。

 成功する保証はなく、失敗すればそれまでだ。


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