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23 塩撒く魔法少女

 マッドリーパーが消えてしばらくすると、ガレージに照明が灯った。

 すると自動でシャッターが上がり、そこから花凜がやって来た。

 彼女はなぜかキッチンから、祖父が漬け物に使うために買い込んであった食塩の袋を抱きかかえ、「さがって!」と忠告しすると、翔流とは種の異なる詠唱のようなものを唱えはじめた。


「大魔法使い花凜の名の下に悪しき魂を浄化する! ――マジックミラクルゥゥゥゥ、レインボーソルトォォォ!」


 彼女はガレージ内に、くるくると舞うように回転しながら、大横綱さながらに勢いよく塩をまき散らしていった。

 どうやらここにもまた一人、翔琉と同じように残念な子がいたようだ。


「ソルト! ソルト! ソルト―!」


 本や工具、祭壇から棚まで塩味に染まっていく。

 クロは彼女の奇行に驚いて椅子の下へと隠れてしまい、ダークシャドーは首をかしげながら観察していた。


「なにをしてるんだ……」


 腫れ物に触れるかのように慎重に問うと、


「やるしかないのよ……巫女の素質を持ち、魔法少女でもあるわたしが!」


 花凜は塩を握りしめた。

 翔流は同じ錯覚をした可哀想な子のために、言葉を吟味しながら状況を伝えた。


「あの……終わったんだ……」


「終わったってなにが?」


「だから……もう退治したから、アホな真似しなくてもいいんだよ……」


 ついつい一言多く言ってしまうと、醜態を晒していた彼女は、


「ふふっ……そう……つまり、わたしのしたことは無駄ってわけ……ふふっ、ひひっ」

 

 危険に笑いはじめた。

 そんな壊れてしまった女子高生に、「か、花凜くん……」と心配そうに声をかけると、いきなり翔琉の顔面に向かって塩を投げつけてきた。


「ぶへっ……!? ぺっぺっ! ボクに下味でもつけるつもりか!」


「取り憑かれてるかもしれないから、じっとして……あんたごと除霊してやるから!」


「ぺっぺっ! もう終わったからいいんだってば!」


「なにが退治したよ! こっちはあんたに踊らされて、無様な姿を晒しちゃったじゃないの!」


「いや、なかなか味のある詠唱だったよ……」


 詠唱からみても魔法少女モノの影響が強いことと、きちんと本を読んで勉強していたことが伝わってきた。それに塩を撒くという発想は彼女の独特な感性によるものだろう。


「そんな慰めなんかいらないわよ! ああ、もうマジで死にたい……」


 今度はやり場のない怒りと羞恥心から、泣き出してしまいそうだった。


「でも、キミも霊障に遭遇しただろ」


「じゃあ、あんたが特殊な力でも使って倒したっていうの!? ふざけんじゃないわよ!」


「ぼ、ボクじゃない……ダクシャンに助けてもらったんだ……」


「ダクシャン、ダクシャンって……そんな頼りになる悪魔がいるわけないじゃない!」


『娘よ。ワシシはここにおるぞ』


 ダークシャドーは花凜に纏わり付き、またしても存在を主張する。


「とりあえず、今日はここまでにする。どうしてこんな事故が起きてしまったのか原因を究明して、日を改めて儀式を執り行うとしよう」


「もういい! あとは勝手にして! まったくなんなの、こいつ……」


 そして自尊心に大きな傷を負った花凜は、愚痴を吐きながらガレージを去っていった。

 それから残された翔流は、まき散らされた塩を片付けていると、


『ぬおおおおぉぉぉっ!』


 突如、ダークシャドーは祭壇の前で雄叫びを上げた。


「まさか変なものを食べたから、お腹を壊したっていうんじゃないだろうな」


 病院には連れて行けないし、胃腸薬もないぞ。


『そうではない! これをみてくれ……』


「ん? ――あああっ!?」


 絶望をする翔流の見つめる先。

 祭壇に置かれていた鏡は中央から割れ、黒い瘴気が消滅していった。


「ダクシャン、まさかとは思うけど……」


 ダークシャドーはがくりと肩を落とす。


『う、うむ……力が消えてしもうた』


「あ……やっぱり、そうなるんだ……」


 その場でしばらくの間、翔流は立ったまま気を失ったように浄化した鏡を見つめ続けていた。


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