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15 女神と天使

 鏡を別の段ボールに移し、慎重に抱きかかえるようにしながら鳥居を出ると、ダークシャドーは気持ちよさそうに『生き返ったわい!』と、大きく膨れあがって背伸びをする。


「それでは後日、儀式を執り行うことにしよう」


「その時は連絡して」


 お目当ての物も手に入れ、ようやく帰路へと着こうとしたときだった。

 保育園帰りの幼女を連れた若くて綺麗な外国人風の奥様が、拝殿からこちらへ向かってやって来た。

 参拝客だろうと思ってやり過ごそうとしていると、母親の美しい女性はこちらをみるなり、愕然とした様子で目を見開く。


「もしかして――翔琉くん?」


「へっ? えっ?」


 見知らぬ女性に名前を呼ばれて狼狽えていると、女性は翔流の前まで寄ってきた。

 見つめてくる若い人妻は清楚でありながらも妖艶な色香を放ち、とても子供がいるとは思えないほど若々しかった。


「覚えてない? 鏡子と学生時代に親友だった最上世羅(もがみせら)


「もしかして何度か家にも遊びに来ていた……」


「そうそう。思い出してくれた?」


 何度か挨拶を交わした程度だったが、北欧系の血が流れているとかで一際綺麗なお姉さんだったから強く印象に残っている。

 両親も彼女の可愛さを絶賛し、とにかく手厚くもてなしていた。

 あの頃と比べると、美少女から綺麗な大人の女性へと成長していて別人のようだったから気づかなかった。

 さすがは女性である。

 それに比べて翔琉は着ている服も、容姿も年相応の大人の男にはなれてはいないことに恥ずかしさを感じずにはいられなかった。


「色々なことがあったけど、元気そうでよかった」


 彼女はまるで神々しいものにでも遭遇したかのように眸を潤ませると、複雑な笑みを浮かべて眉尻を下げた。


「世羅さんもお元気そうで……」


「私は……そうでもないかな……」


 なにか触れてはいけないところを突いてしまったのではと気まずくなっていると、


「ねえ、ママー、おくれちゃうよぉ」


 と、天使のように可愛い女の子が世羅の腕を引っ張った。


「ちょっと待ってて。いま、大切なお話をしてるところだから」


 優しく窘められ、女の子はふて腐れたように「うー」と小さく呻いた。


「娘さんですか?」


「そう、娘の千湖(ちこ)。ほら、挨拶して」


 女の子は満面の笑みで「よんさい!」と、いきなり年齢を教えてきてくれた。

 小さな子の扱いに慣れていない人見知りはたどたどしく「こ、こんにちは」と返した。


「よかった。鏡子の代わりに翔流くんにこの子のこと紹介出来て」


「そんな……自分じゃ役不足です……」


「そんなことないわ」


 鏡子が居たらきっと自分の娘のように千湖を可愛がっていたのだろう。

 そんな未来もすべていまここには存在していない。


 沈鬱な気分になっていると、世羅はとんでもないことを言い始めた。


「それにしても元気にしてるのかしら」


「だれがですか?」


「鏡子よ。彼女、〝異世界〟に旅立ったのよね?」


「どうしてそのことを……」


 自分以外にも鏡子が異世界に行ったことを知っている。

 だれしもが鏡子は水難事故によって他界したと思っているのに、この人は鏡子が異世界へと渡ったことを確信していた。


 さらにそれだけじゃなく、


「一度だけ、鏡子とは異世界で再会したことがあるのよ」


 彼女も異世界からの帰還者であった。


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