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第1章 第23話 『王国騎士団宿舎』

第1章 第23話 『王国騎士団宿舎』




時は再び現在、2月19日早朝



ラズシーマ王国、王国騎士団宿舎



「おはよう‼︎ミズキ‼︎」


 朝から喧しい声が聞こえミズキは目を覚ました。大学生になってからは遅寝遅起きという不健康な生活をしていたため早朝はイマイチ気分が乗らない。

 さらに昨日は久々に飲酒をしたということも思い出し、頭の痛みも感じはじめた。


「おはようございます〜…アンドレアさん。」


「おいおい‼︎元気がねぇぞ⁉︎」


 逆にこの人は何故こんなに元気なのだろうか。昨日は酔い潰れていたというのに。

 現在ミズキは王国の騎士団が寝泊まりしている、宿舎の一室を使わせてもらっていた。流石は首都にある騎士団の宿舎である。内装はとても凝っており、まるで一流のホテルのようである。


「………カヤさんはどこにいるんですか⁇」


 ミズキは昨日の記憶をあまり覚えていないサナに振られ、ショックでそのまま気絶してしまったのだろうか。その後のことを思い出せない。


「あの農村女か。あいつはお前と同じように女騎士の宿舎を一旦借りてるみたいだ。今後どうするかは知らねぇけどな。」


「そうですか…。」


 ひとまず無事を確認できて良かった。また後で挨拶に伺おう。


「まぁそんなことより今日は一日うちを見学していけ。冒険者ギルドのサナ⁇だったか。あの子みて〜に何か組織に所属してた方が安全で良いと思うぞ。」


 アンドレアからの提案は非常に嬉しいが自分に騎士が務まるのだろうか。ミズキは頭を抱える。


「いいんですか⁇自分みたいな素性のわからない人間が王国の騎士なんかになって。」


「う〜ん。まぁそこは俺特権でなんとでもなるさ。」


 やはりテキトーな提案であった。ミズキは苦笑する。とはいえ見学をするということ自体はありがたい申し出である。


「とりあえず見学はさせてください。」




 豪勢な朝食を食べ終え、ミズキはアンドレアについて廊下を歩いていた。なんだが2人きりで気まずい空気が流れていたが、アンドレアの方からこう問いかけられた。


「なぁミズキ。お前に聞きてぇことがあるんだが。」


「⁇はい。なんです⁇」


「いや〜俺も昨日の記憶があんまり鮮明じゃなくてよお。もしかしたら勘違いかもしれないが…。」



『お前って元の世界に戻りたいのか⁇』



 ゾワッ‼︎


 なんだがピリッとした強烈なオーラをミズキは感じ取ってしまった。まさか元の世界に戻るという発言が何か禁句に近いものだったのだろうか。だとするともはや手遅れである。

 聞き間違いだと伝えるか。いや、他にも大勢の者が聞いていた。嘘はすぐにわかってしまうだろう。


「………はい。そ、うです。」


 恐る恐る、ミズキは正直に真実を口にした。あまりの恐ろしさに前が見えない。ずっと地面を見ながら歩いていたミズキはいつの間にかアンドレアより先に歩いていることに気づく。

 慌ててはっと振り返るとアンドレアは何故かその場に立ち止まっていた。

 その時のアンドレアの表情をミズキは二度と忘れないであろう。その表情は自分の元の世界に帰りたい発言に驚いているようなそれでいて笑っているような。とても不思議な表情であった。なんなら汗をかくほどに動揺している。


「ははっ。」


 アンドレアは小さな笑いをこぼした。一体どうしたというのだろうか。


「いやいや‼︎すまんすまんすまん‼︎なんでもねぇよ。そんな凄えこと考えてるとは思ってなかったんでな。」


 確かにアンドレアにとっては、再び異世界に戻ろうとしている自分の目的は途方もないものに聞こえるかもしれない。実際ミズキ自身もこの目的を達成するための道筋が全く見えていない。

 しかしあの表情には本当にそれだけの意味しかないのだろうか。より深い理由がある気がしてならない。しかし、これ以上の詮索はまた良くないと察したミズキはなんとか話題を変えようと再び焦りだす。すると、


「よしわかった‼︎必ずお前を元の世界に返してやる‼︎」


 アンドレアは唐突にミズキと肩を組み、こう発言した。その腕はとても強靭で暖かく、今までに感じたことのない安心感がミズキを包んだ。

 相手の腹の内なんてわからない。ましてや異世界人の、となると尚更である。しかし、この言葉には嘘がないとミズキの直感はそう判断した。今はこの人を信じよう。どのみちこの人なしではこの世界で生き抜くことは叶わないだろう。

 アンドレアヴォルス。ミズキはこの人を信じることに決めた。そしてまだ誰にも話していなかったもう一つ出来事を、遂に他人に話すこともここで決断した。


「アンドレアさん。実はもう一つ誰にも話してないことがあって…。」




「黒い"なにか"…か。」


 そう。それはミズキが最初に転移させられた村から旅立とうとした時、突如現れた異様な存在。あれに出会ったことをミズキはまだ誰にも話していなかったのである。

 これは他人に話すべきか本当にわからなかった。しかし、どのみち夢半ばで潰えて後悔するくらいなら、他人にもっと頼った方がいいのかもしれないとミズキは判断した。

 アンドレアが今度はどんな表情をするのか。再び恐る恐る顔を見ると、今度は冷静に真剣な顔で何かを考えていた。


「自分個人の推測としては俺を召喚した存在なんじゃないかなぁとか勝手に妄想してます。ははは。どう思います⁇」


「ミズキ。」


「は、はい‼︎」


 急に真剣に名前を呼ばれ、驚きながら返事をした。


「おそらくお前にはこれから先苦しい"試練"が何度も立ちはだかると思う。それでもその夢を叶える覚悟があるか⁇」


 アンドレアは今まで会話をしてきた中で、1番真剣な面持ちで、とても真剣な問いを投げかけてきた。


「はい‼︎あります‼︎」


「よし‼︎なら俺がお前を鍛えてやる‼︎とりあえず予定通り今日は見学してくれ。」





 そう言って再びアンドレアは歩きはじめた。ミズキはこの時、覚悟があると肯定するしかなかったが、この返答が安易なものだったと気づくのはそう遠い未来ではなかった。

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