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第1章 第21話 『松波紗凪』

第1章 第21話 『松波紗凪』





西暦2018年4月




「おい、瑞樹〜。松波紗凪って知ってる⁇」


「まつなみさな⁇誰それ。」


 とある一室。本郷瑞樹とその友人、昴駿太郎は一つの机を使い、仲良く弁当箱を並べた。


「………お前の唐揚げ美味しそうだな。」


「いや、話変えんなよ。あと絶対あげないからな‼︎」


 時刻は昼過ぎ。心地よい風が吹いている快適な空間。周りには単語帳や参考書を見ながら食事をしている者が多く、比較的静かな時間が流れている。


「わかった。俺が悪かった。だからあんまり大きな声出さんでくれ。」


 瑞樹はこの時、駿太郎から松波紗凪という人物についての話を聞いていた。

 まず、非常に可愛い。それから中学校時代はザ・上位カーストの女子といった存在だったらしい。瑞樹と駿太郎の通う川崎南高校に進学してからもあっという間に話題が広まっているとか。


「あんま興味ないな。ってか絶対関わることもないだろ。」


「いやいや、1回くらい顔みたいじゃん。」


「勝手にしてくれ。」





西暦2018年5月




「おい瑞樹‼︎この前話した松波紗凪って子覚えてる⁇」


「覚えてないって。そんな1年の女子の名前。」


「いや、覚えてんな⁉︎完璧に‼︎」


 次にその名前が瑞樹の元に入ってきたのが約1ヶ月後のことであった。その日の部活終わりの帰り道、再び駿太郎との会話の中でその名を聞くこととなった。


「りゅうやと付き合ってるらしい。」


「………あっそう。」


 りゅうやというのは瑞樹と駿太郎の所属するサッカー部の後輩である。1年生の時からレギュラーメンバーに選ばれており、顔も美形。瑞樹とは対局の存在と言える。


「反応薄いな。りゅうやのこと嫌いなんだっけ。」


「いやいや、勝手に嫌いにすんな‼︎俺は別になんとも思ってないよ。向こうはどうか知らないけど。」


「ふ〜ん。」


 カン‼︎カン‼︎カン‼︎


 そこで目の前の踏み切りが大きな音を鳴らしはじめた。近くで聞くと非常にうるさいので、瑞樹と駿太郎の会話は自然と終わってしまった。





西暦2018年6月




「おい‼︎はっはっは‼︎何やってんだよ瑞樹⁉︎」


 一瞬瑞樹は気を失いかけた。そしてなんだろうこれは。世界が反転している。


「そんな目の前でシュート外すとか逆にすげ〜ぞ‼︎」


 ようやく状況が理解できはじめた。世界が反転したのではなく、自分が仰向けに倒れてしまっているだけのようだ。

 部活中に周りに笑われることはよくある。瑞樹のサッカーの技術はお世辞にも上手いとは言えない。彼自身、自分はムードメーカーなんだと割り切っていた。

 どうやらシュート中に足が絡まり転んでしまったようだが、ボールはどこに行ったのだろう。

 すると、瑞樹はサッカーゴールの隣の端に置いてあるハンドボール用のゴールにそれが入っているのを確認した。


「ごめんごめん‼︎入れるゴール間違えちゃったわ‼︎」


 わっはっは。


 周りの仲間や後輩は一斉に吹き出した。瑞樹もボケが成功したようでホッと一息つく。これでいいんだ。自分にプライドなんてない。笑われたっていい。むしろ周りを楽しませてるんだからいいことだ。

 そう思いながら瑞樹は立ち上がった。すると目の前にいる1人の女子と目があった。隣にはりゅうやがいる。


 まさかこの子が例の松波紗凪、1年女子のトップの子なのだろうか。




 確かに彼女は可愛かった。今まで見てきた女子の中でも1番なんじゃないかと思うくらい。しかし、瑞樹を見るその子の表情は心底軽蔑したものであり、まるでゴミでも見るような、そんな目をしていた。

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