第1章 第22話 『長い1日の終わり』
第1章 第22話 『長い1日の終わり』
ヴァニシウス暦601年2月18日22時
「な、なんで先輩がここに⁉︎」
間違いない。俺はこいつを知っている。ミズキの目の前に現れた少女。ミズキの母校、川崎南高校の制服で身を包み、黒髪のロングヘアーを後ろで束ねているその少女はまさしく、3年前の部活中、学校の校庭で初めて会ったあの人物。松波紗凪その人であった。
「………松波さんだよね⁇」
恐る恐る確認をするミズキ。面識こそあるが彼女と会話をしたことはない。一体どう返されるのか。そもそも彼女のリアクションからするにどうやら自分のことを認知しているような口ぶりである。どういった経緯で自分のことを知ったのだろう。
「………しょい。」
「ん⁇」
「きしょいんで、気安く呼ばないでくれませんか⁇」
「はぁぁぁ⁉︎」
これがミズキとサナが最初に交わした会話であった。
きしょいって何が⁉︎なんかした俺⁉︎ミズキは混乱を極めた。え⁇女子と会話するのってこんなに難しかったっけ⁇
日本人の女子と会話をするのは雅美を除けばかなり久々だったとは言え、いきなり罵倒されれるいわれはないとミズキは思った。
しかしここで折れるわけにはいかない。折角出会えた同郷の存在である。何とかして協力を求めたい。
「不快にさせてごめん‼︎でもお願いしたいことがあっ…。」
「お断りします。」
「まだ何も言ってなぁぁぁい‼︎」
柄にもなくハイテンションでツッコミを入れるミズキ。この女と会話をしていると頭がおかしくなりそうだとすら感じ始めた。
「どうせ俺と冒険者パーティを組んでくれ‼︎とか、一緒に魔王を退治しないか⁇とかですよね。ほんっと聞き飽きたんでそれ。やめてください。」
なるほどそういうことか。今までも同郷の人に会うたびにそのようなお願いをされてきたのだろう。確かに見ず知らずの男、しかもニートや引きこもりがほとんどとなるとまともな感性を持った人間は少なかったかもしれない。そんな人とパーティを組みたいだなんで自分がサナの立場でも嫌である。
さらに異世界にいるということもあって舞い上がってしまっている者も多いことだろう。この世界では無敵なんだ‼︎モテるんだ‼︎などと勘違いをしているものすらいるだろう。ミズキも正直アニメで見たままの異世界と多少のズレや生きづらさ、現実の厳しさを思い知らされたことは何度もあるが、基本的に好奇心というものも確かに存在する。冒険者だって経験として一度はやってみたい。
だがしかし、ミズキにも譲れない意志があった。
「こんな感じでサナは同郷の人間に極端に拒絶反応を起こす。だから会議でも彼女の存在は明らかにしたくなかったし、お前のように同郷の者を合わせたくなかったんだ。」
アイミーが弁明しながら歩み寄ってきた。ルールを破って報告をしていなかったのは、彼女なりにサナへの気遣いから来ていたものだったようだ。ミズキはまた少し彼女を見直した。
「待ってください‼︎確かに松波さんに頼みたいことはありますけど、そんな同じパーティになってくれとかじゃないんですよ。」
「ほぅ。では何だ。お前の願いとは。」
「きっと松波さんも同じことを思ってるんじゃないかと思います。」
そう言ってミズキはサナに改めて向き直った。サナは相変わらず、不快感を隠しきれない表情をしている。正直目を合わせるのもきつい。だが、ここで言わなければ何も起きない。
「松波さん‼︎日本に帰れる方法を探すのに協力してくれない⁇」
これが本郷瑞樹のたどり着いた結論である。異世界に魅力がないとは言わない。だが、残りの余生をここで暮らすというのは流石に見当もつかないことが多すぎる。ただ純粋にミズキは元の世界に帰りたいのである。
「………それは何でですか⁇」
「そりゃこんな危なっかしい世界で生活するなんて無理だからだよ‼︎戦争中みたいだし魔王もいるんでしょ⁇無理無理。それに家族や友達だって元の世界には残ってる‼︎ソシャゲの連続ログインボーナスも切れちゃったし、俺はエバーゲイオンの映画も見に行きたいんだよ‼︎」
ミズキは素直な気持ちを全てぶつけた。それにアニメや漫画に何の関心もなさそうな女子高生である。絶対にこんな世界に興味はないし、今すぐにでも帰りたいはずである。ミズキは良い返事が来ることを確信していた。
しかし、
「本当に元の世界に帰りたいんですか⁇」
「そう‼︎そうだよ‼︎」
「なら尚更お断りします。一人で勝手に頑張ってください。」
そう言って彼女は天使のようににこりと笑って見せたが、目は全く笑っていなかった。




