第1章 第12話 『大賢者ヴァニシウス・ワーゲン』
第1章 第12話 『大賢者ヴァニシウス・ワーゲン』
ヴァニシウス暦601年2月18日1時
王都ラズシーマ宮殿前
「ミズキくん。巨大オオカミを威圧で追っ払ったってドヤ顔で言ってたじゃない。多分その時よ。」
カヤにそう言われミズキも思い出した。確かに2つ目の村に着く前に、森林で巨大なオオカミに遭遇し、必死に叫んだ際に追い払うことに成功したことがあった。今思い返せば、その後の脱力感は凄まじく村に着く直前で気絶もしたのだった。
つまりあれは無意識で魔素を使い果たし、体力の限界になったからということだったのだろう。しかし、1つだけ納得いかないことがあった。
「自分……そんなにドヤ顔でした⁇」
「えぇ。それはそれはすっごく。」
「あの、恥ずかしいんでもうその顔忘れてください。」
カヤはまだ少しニヤニヤと笑いながらこちらを見ていた。普通なら腹が立つ場面だが、可愛いので今回は見逃すことにした。
「巨大オオカミ……。フェンリルが生み出した配下の魔物だな。やっぱ王都から離れた南部はまだまだ危険と隣り合わせか。」
「それでも昔よりはマシになったってよく祖母が言ってます……。」
祖母。これまた失念していたが、今ならあの恩人に会話を成立させ、謝辞を述べることができるではないか。今度会うことがあれば必ず1番に感謝を伝える。ということをミズキはこの時強く誓った。
ラズベリー宮殿正面玄関前
「ほら見えてきたぞ。」
「うぉ〜〜。凄すぎる。写真いいですか⁇」
「その写真ってのが何かわからんが害がないならいいぞ。」
「ありがとうございます‼︎フラッシュは切ってるんでご安心を。」
ミズキは興奮を抑えきれなかった。目の前にはまさにファンタジー、ヨーロピアン、豪華絢爛な宮殿が姿を現したのである。学のないミズキはその建造物の構造や種類まではすぐに把握できなかったが、ヨーロッパの世界遺産を見るような感覚で、その建造物をこれでもかというほど見尽くした。
「お〜い。ミズキ。そろそろ中入るぞ。多分時間過ぎてるから怒られんだよ俺。」
「怒られるとわかっているのに何故あなた様はは毎回毎回決まって遅刻をなさるんですか⁇」
「げっ‼︎メイド長‼︎」
ミズキたち御一行が宮殿に一歩足を踏み入れた矢先、目の前に王宮の使用人であろう女性が立ち塞がった。年齢はやや年配だろうか。多少のしわが見られる。丸い眼鏡をかけているが眼球は鋭く、はっきり言ってちょっと怖い。まさしく厳格な使用人といった感じである。
「でも今回はせいぜい10分だ。大した遅れじゃねえだろ⁇」
「いいえ。遅刻は遅刻です。それに今日参加予定の他の10連星の方々は既に全員到着しております。そもそも国王陛下を待たせるなど本来あってはならないこと。あなたが今ものうのうと生きていられるのは国王様の寛大さのおかげだということを理解しなさい。」
「は、はい。すみません。」
随分と気が強い女性である。王国最強の騎士であるアンドレアにここまで言葉責めしてくるとは。しかし言ってることは全て正論のような気がするので、あまり同情はできないし反論も特にない。
「それと後ろにいる珍妙なものたちは何者です⁇」
当然のことだが、遂にミズキたちのことにも触れてきた。流石に王宮の中である。周りには騎士や使用人が山ほど行き交っており、アウェイ感が否めない。ミズキはメイド長と目が合うのを怖がり、若干俯いてしまっていた。
「こいつらは今日の会議に必要だ。俺の許可で通してくれ。」
「…………………、はぁ……。承知しました。皆様お待ちです。お急ぎください。」
「おぅ。ありがとな〜。」
メイド長は非常に何か言いたげだったが、ため息をつくと黙ってミズキたち御一行を通してくれた。アンドレア騎士長は気分屋で周りに多大な迷惑をかけているんだろうなぁと今のやり取りだけでかなり察することができた。
「この彫像の人物は誰なんですか⁇」
あっやべ。捕虜の分際でまたうっかり質問しちゃった。
そんなことを質問した後に思ったミズキだったが、アンドレアはむしろどこか嬉しそうに答え始めた。
「この方は大賢者ヴァニシウス・ワーゲン様。数々の魔法を発明し、魔王討伐にも参加した伝説の偉人だ。」
魔王討伐⁉︎やっぱいんのか魔王。相変わらずミズキの心は好奇心と寒気でアップダウンを繰り返した。
「実はさっき説明した魔針盤もヴァニシウス様の発明品なんだぜ。他にも数々の功績を残されているから今では暦の名前にまで使われている。……………。全くすげ〜人だよ。」
アンドレアはどこか遠くを見るように、というよりも遠い日を思い出すような目でそう語った。その大賢者と面識があるのだろうか。それ以上のことを聞いても良かったのだが、何故かそうすることがアンドレアの地雷に触れそうな予感がしたため、ミズキはそれ以上追求しなかった。
「さぁ。着いたぞ。」
ミズキたちは一度扉の前で足を止めた。そしてその扉の警備をしていた2名の騎士は、アンドレアを即座に確認し、3メートルほどある巨大な扉を左右同時に開いた。すると一瞬光が差し込み、ミズキたちは視界を奪われた。
次の瞬間、まず目についたのは真っ直ぐ奥まで続く豪華なレッドカーペットである。そのレッドカーペットの到達点には、豪華な装飾がふんだんに使われている巨大な椅子が存在し、そこには王冠をつけ、勇壮で強大で堂々たる、まさに偉大な王のイメージそのもののような男が鎮座していた。左右にも少し劣るが、それでも豪華な椅子が並んでおり、何人か着席している。王の一族といったところだろうか。
そしてレッドカーペットを挟み、左右にも男女が3、4人並んでいた。年齢や服装は様々である。
まず左側は、1番奥から、いかにも貴族というような容姿と雰囲気を感じさせる男性。次に同じく貴族の装いをしているものの、先程の男性よりは優しそうな印象を放つ男性。そして2人よりもはるかに見た目が若く、白衣のような服を纏い、髪の毛がボサボサで目の隈がひどい男性である。
一方右側。1番奥から体格が非常に大きく、顔や服装からもワイルドなオーラを放つ中年の男性。次に虹色のような何色にも染められた髪を左右で巨大なツインテールにし、左足の膝から下が杖のような義足になっている若い女性。そして明らかに小学5、6年から中学生のような見た目で、タンクトップに短パンを履いている少年。
まさに多種多様なメンバーに囲まれ、ミズキは何かされたわけでもないが完全に場の雰囲気に圧倒された。
「大変お待たせいたしました陛下。全員揃ったようなので開会の宣言をお願いいたします。」
左奥の貴族男がそう提言すると、王座の男が立ち上がり、大声でこう告げた。
「よし……。ではこれより本日の10連星会議を執り行う‼︎‼︎‼︎」




