第5話:不採用からの業務改善、および深夜の強制スクロール。
1. 金貨五十枚の使い道と、就活生の異常な天気予報
「金貨五十枚……! おいハジメ、これだけあれば、あのドブネズミが這い回るような安酒場じゃなくて、街の最高級宿のスイートルームに一年は泊まれるぞ! なんなら、毎日ワイルドボアの特上霜降り肉を朝昼晩と食い続けても、数年は絶対に遊んで暮らせる!」
迷宮都市・アレスタの三日目の昼下がり。
宿屋『跳ね馬の足跡亭』の、今日の『配置換え(バグ)』によって奇跡的に中庭のド真ん中にスライドしてきた孤立部屋の中で、ガロンがテーブルの上にぶち撒けられた黄金の山を前に、文字通り目を皿のようにして叫んでいた。
金貨五十枚。現代日本の価値に換算すれば、およそ数百万円から一千万円に匹敵する大金だ。たった一回の『無理ゲー(デッドロッククエスト)』を、座標ジャンプという禁忌のバグ技でクリアした二人に支払われた、正当にして規格外の報酬だった。
「いや、ガロン。高級宿に引っ越すのは悪手だ」
ハジメは、新調したばかりの『デバッグ・コート』の襟元を正しながら、黄金の輝きに目もくれず、羊皮紙のノートにペンを走らせていた。
「なんでだよ!? お前、あのカビ臭いベッドにまだ未練があるのか?」
「そうじゃない。このアレスタの街は、毎晩建物の配置が入れ替わる。
高級宿に移ったところで、翌朝にはその宿がスラム街のド真ん中にスライドしてる可能性が常にあるんだ。
だったら、この『跳ね馬の足跡亭』の、この切り離された孤立部屋を、俺たち専用の『絶対に侵入不可能なセーフハウス』にリフォームした方が、今後の生存戦略において圧倒的にリターンが大きい」
ハジメがノートに描いていたのは、宿の部屋の補強プランだった。外壁の強度計算、そして内側に仕込む、衝撃を分散するためのハニカム構造の追加設計。
「なるほどな。お前は家を引っ越すんじゃなくて、この部屋自体の『オブジェクト設定』を強固に書き換えようってわけか。確かに、俺の不運のせいで、いつこの部屋に隕石が降ってくるかわからんからな」
ガロンが納得したように深く頷く。
「なぁハジメ。お前、さっきからリフォームの図面の隅に、なんで『小学校五年の自由研究:百発百中のゲリラ豪雨予測関数』って書き殴ってんだ?」
ベッドの上で、新しい『リブート・ガントレット』の手入れをしていたレンが、ハジメのノートを覗き込んでクスリと笑った。
「ああ、これか。今回のリフォームに、あの時の『黒歴史』を応用しようと思ってな」
ハジメは苦笑しながら、メガネのブリッジを押し上げた。
「黒歴史? なんだよそれ、俺にも教えろよ!」ガロンが興味津々に身を乗り出す。
「ガロン、こいつはな、小学校五年の夏休みに、クラスの女子に格好いいところを見せたいがために、気象庁の過去五十年のアメダスデータと、地域の雲の動きを完全に独学で統計学の『漸化式』に落とし込んだ怪物なんだよ」
レンが呆れたように、しかしどこか誇らしげに語る。
「結果、こいつの住む半径一キロ圏内だけは、テレビの天気予報を完全に凌駕する確率99.8%でゲリラ豪雨の時間を秒単位で言い当てられるようになった。だけど、自由研究の発表の時に、その女子から『ストーカーみたいでキモい』って言われて、夏休みの登校日に教室の隅でガチ泣きしたんだ」
「ストーカーって言うな! 俺はただ、大気圧の局所的な急変動と、世界の不具合の予兆を計算しただけだ!」
ハジメは顔を真っ赤にしながらペンを激しく動かした。
「でもな、ガロン。あの時の統計学の知識(バグ予測)が、今、この世界の『魔力の流れの偏り』を解析するのに、最高に役に立ってるんだよ。このアレスタの街が夜中にどう動くか、あのゲリラ豪雨の予測に比べれば、単純な一本の数式でしかない」
男三人が、そんな現代の身内ネタと黒歴史の雑学で盛り上がっていた、その時だった。
バガァァァァァンッッ!!!!
部屋の頑丈な木製のドアが、まるで爆弾でも直撃したかのような凄まじい音を立てて、勢いよく内側へと蹴り開けられた。
「ひっ! 隕石か!?」ガロンが反射的に大剣に手をかける。
しかし、砂煙の中から現れたのは、隕石よりも遥かに恐ろしい形相をした、一人の女性だった。
眼鏡の奥の灰色の瞳を血走らせ、青いギルドのローブを激しく乱した受付職員――アリアが、肩を激しく上下させながら、ハジメの目の前に突進してきた。
「見つけましたわよ、黒野ハジメ、陣内レン!!」
「あ、アリアさん。ノックくらいしてくれないと、不採用通知(お祈りメール)が届いた時くらい心臓に悪いんだけど」
ハジメが引いていると、アリアはテーブルに両手を叩きつけ、ハジメの鼻先にその綺麗な顔を至近距離まで近づけた。
「そんな呑気なことを言っている場合ですか!? あなたたちが午前中に、あの『デッドロック(詰み依頼)』をたった数分でクリアして金貨五十枚をかっさらっていったせいで、今、ギルドの上層部が大パニックになっているのです! 『不正の疑いがある』『空間転移の古代遺物を隠し持っているに違いない』と、衛兵たちがあなたたちを拘束しようと動き始めていますわ!」
「えぇ……。俺たち、普通に仕様を利用して最短ルートで配達しただけなのに。心外だな」
ハジメが肩をすくめる。アリアはそんなハジメの態度にさらにキレながらも、その声を潜め、周囲を警戒するようにして言った。
「……ですが、私はあなたたちが『魔法』ではなく、この世界の構造そのものの『欠陥』を突いたのを目撃しました。そして、私はあなたたちに、ギルドに通報しない代わりの『条件』を出したはずです。黒野様……今すぐ、私の目の前で、その頭脳を使って、我がギルドの最大の暗部である【毎朝のマップ作成業務の全自動化】を実行しなさい!!」
2. ギルドの内政ハッキング(仕様書の自動生成)
「……なるほどね。ギルドの偉い連中は俺たちを疑ってるが、アリアさんあんたは、俺の頭脳を私物化して、自分の部署の『残業代(労働環境)』を劇的に改善したいわけだ」
宿の地下にある、アリアが秘密裏に手配したギルドの予備の魔力観測室。
ハジメは、部屋の中央に鎮座する、部屋ほどもある巨大な水晶の精密機械――『大迷宮魔力波動測定器』の前に立ち、無数の魔力のパイプや歯車を眺めていた。
「私物化などと人聞きの悪いことを言わないでください!」
アリアは顔を真っ赤にしながらも、眼鏡の位置をビシッと直した。
「我がギルドの斥候部門は、毎朝の配置換えの地図を作るために、年間で二桁以上の死傷者を出しているのです! 毎朝午前三時に叩き起こされ、命がけで街を走り回り、血を流しながら手書きで地図を作る……。
こんな非効率的で野蛮な業務、今すぐ駆逐されるべきですわ! あなたが昨日言った『5つのパターンのローテーション』という言葉が本物なら、この測定器のデータをハックすれば、自動で明日の地図が出力できるはずです!」
アリアの言うことは、現代のブラック企業のシステムに苦しむ中間管理職そのものだった。
「いいよ。お祈りメールを送りつけてくるギルドのシステムにはヘイトが溜まってたからな。業務効率化(内政ハック)のコンサルタントとして、最初の仕事をしよう」
ハジメは『デバッグ・コート』のポケットから、バラドの店で貰った小さな鉄の精密ドライバーを取り出すと、測定器の魔力制御盤のネジを容赦なく外し始めた。
「ちょ、ちょっと!? 何を分解しているのですか!? それは国家予算が買えるほどの国宝級の魔導具ですわよ!」
「静かにしてくれ、アリアさん。今、集中してる」
ハジメの目は、完全にデバッガーのそれに切り替わっていた。
(この観測器の仕様は……地下から溢れる魔力の『波形』を、そのままアナログのグラフとして出力してるだけだ。だから読み取りに時間がかかるし、不規則に見える。だけど、ここに、俺の小学校の時の『ゲリラ豪雨予測の漸化式』を物理的に組み込めば……)
ハジメは、測定器内部の魔力を伝える『青い導魔線』を数本引き抜き、それを全く別の端子へと繋ぎ変えた。さらに、レンの『リブート・ガントレット』から供給される、一定の周期で脈打つ純粋な魔力パルスを、測定器のクロック回路として接続する。
「レン、そのまま『アンパンマンのマーチ』のテンポで、優しく魔力を流し続けろ」
「おう。1、2、3、4……と。これ、機械が爆発したりしないよな?」
「大丈夫だ。手抜きプログラマーの作ったシステムだ、負荷(過電圧)をかければ、勝手に一番単純な『計算モード』に移行する」
ジジジジジ……と、巨大な水晶の機械が、これまで聞いたことのないような静かな、規則正しい音を立てて回転を始めた。
機械の出力口から、カタカタと、魔力によって自動でインクが塗られた羊皮紙が滑り出てくる。
アリアが、その羊皮紙をひったくるようにして手に取った。
そこには、手書きの歪な地図ではなく、現代のCADシステムで出力されたかのような、極めて緻密で、完璧に直線と記号で構成された、【明日、日付が変わった瞬間のアレスタの完全な全体マップ】が、一寸の狂いもなく印刷されていた。
「な……ななな……何ですか、これ……!?」
アリアの灰色の瞳から、大粒の涙がポロポロとこぼれ落ちた。
「私が……毎朝血反吐を吐きながら、斥候たちの死体数を確認しながら作っていたあの地図が……ボタンを押し(魔力を流し)ただけで、前日の昼間に……完成してしまいましたわ……」
彼女は羊皮紙を胸に抱きしめ、その場にヘナヘナと崩れ落ちた。感動のあまり、精神がキャパシティオーバーを起こしている。
「これでギルドのマップ作成業務は『全自動化』された。アリアさん、あんたは明日から、午前三時に起きる必要もなければ、斥候を死なせる必要もない。ギルドの上層部には『私の最上位魔法の予知で作成した』とでも言って、手柄を全部持っていけばいい。
その代わり、俺たちの『不正の疑い』の書類、あんたの権限で全部『不採用(ゴミ箱行き)』にしといてくれよ」
ハジメが不敵に笑うと、アリアは涙を拭い、眼鏡をかけ直して、ハジメの顔をじっと見つめた。
「……黒野ハジメ。あなた、本当に恐ろしい男ですわね。ステータスがオール G だなんて、絶対に世界の測定器のバグですわ。わかりました。あなたたちの書類は、私が責任を持って『不採用』にします。
その代わり、この自動印刷のインクの補充方法、今すぐ私に教えなさい!」
こうして、ハジメは異世界の巨大組織のインフラを、前世の小学校の自由研究の知識で完全にハッキングし、最強の後ろ盾(アリアの隠蔽工作)を手に入れたのだった。
3. 裏社会のバグ(情報屋ウルズの影)
ギルドの業務改善を終え、大金を持って宿屋へと戻る道中。
夕暮れに染まるアレスタの街並みを歩きながら、ガロンがふと、周囲の『視線』の異変に気づき、大剣の柄にそっと手を添えた。
「……ハジメ、レン。気づいてるか。さっきから、路地裏の影から、俺たちを品定めするような、ジトっとした嫌な視線がいくつも突き刺さってるぞ。ギルドの衛兵の視線じゃない。あれは……この街の裏社会のドブネズミどもの目だ」
ハジメはメガネの奥の目を細め、周囲の建物の影を鋭く観察した。
「ああ、わかってる。午前中に金貨五十枚なんて大金を、オールGの無能と魔力ゼロのゴリラが一瞬で稼いだんだ。ギルドの上層部だけじゃなく、街の裏社会の連中が黙ってるはずがない」
この迷宮都市・アレスタには、光があれば当然、深い闇もあった。
その闇の中心に君臨するのが、アレスタの裏社会を牛耳る悪質な情報組織のボス、通称【情報屋のウルズ】だった。
ウルズは、毎日変わる街の配置情報を、ギルドとは別のルート(非合法な暗殺斥候)を使って独自の『裏マップ』として作成し、犯罪者や闇商人に高額で売り捌くことで暴利を貪っていた。
しかし、ハジメが「マップを全自動化」し、さらに「配置バグを利用した座標ワープ」を成功させたことで、ウルズのビジネスの優位性は完全に崩壊しかけていた。ウルズにとって、ハジメの持つ『世界の仕様書(頭脳)』は、喉から手が出るほど欲しい至宝であり、同時に今すぐ消し去るべき最大の脅威だったのだ。
「ガロン、あいつら、今日の夜中に仕掛けてくるぞ」
ハジメがボソッと呟く。
「夜中だって? 今日の夜の配置換えの瞬間にか?」
「そう。毎日建物の配置が変わる夜中の12時は、街の衛兵の巡回が完全にストップする、この街の最大の『セキュリティの穴』だ。
そこを狙って、俺たちのこの孤立部屋に、ウルズの放った暗殺部隊が突っ込んでくる」
「ハッ、上等じゃねえか」
レンが、両腕の『リブート・ガントレット』をバチィンと打ち合わせた。
「ハジメ、夜中の12時、俺はどっちを向いてガントレットを構えればいい?」
「いや、レン。今回の防衛戦は、お前が拳を振るう必要すらねえよ」
ハジメは、夕闇にそびえ立つ自分たちの宿の屋根を見上げ、最高に陰険な、狂気的な笑みを浮かべた。
「手抜きの三流プログラマーが作ったこの街のシステムだ。裏社会のプロの暗殺者が、どれだけ完璧に気配を消して侵入してこようが……システムの『バグ』の前に、すべての努力は無駄になる」
4. 深夜12時の強制スクロール(暗殺部隊のデバッグ)
夜、11時55分。
宿屋『跳ね馬の足跡亭』の、中庭にぽつんと取り残された孤立部屋。
部屋の中は、明かりが完全に消され、静寂に包まれていた。ベッドの上で、レンとガロンは息を潜めて武器を構えている。部屋の中央では、ハジメが一本の蝋燭の光の元で、懐中時計の針をじっと見つめていた。
「ハジメ……本当に来るんだろうな」
ガロンが冷や汗を流しながら呟く。彼の不運属性のせいで、いつもならここで「敵のクリティカルヒット」を食らうはずだが、ハジメの表情には微塵の焦りもなかった。
「静かに。……あと、10秒で、世界の『仕様変更』が始まる」
11時59分50秒。
51、52、53……。
その時、部屋の窓ガラスが、外側から音もなく、滑らかにスライドして開けられた。
暗闇の中から、全身を黒いタイツのような防具で包み、鋭い毒短剣を構えた五人の男たちが、まるで影そのものが這い出てきたかのように、音もなく部屋の中へと侵入してきた。
ウルズの放った、Aランク冒険者をも暗殺する裏社会の精鋭部隊『影の歯車』だった。
彼らの動きは完璧だった。足音は一切なく、気配も完全に消えている。
先頭の暗殺者が、ベッドで寝ている(ように見える)ハジメの首筋目掛けて、毒短剣を容赦なく突き下ろそうとした、まさにその瞬間。
時計の針が、深夜12時(00:00:00)を告げた。
ドンッッッッッッッッ!!!!!
街の底から、あの大地を揺るがす凄まじい地鳴りと、魔力の暴走音が響き渡った。
日課である、アレスタの街の『配置換え(バグ)』の強制執行。
「ギシャァッ!?」
次の瞬間、部屋に侵入した五人の暗殺者たちの口から、プロとしてはあるまじき、間抜けな悲鳴が響き渡った。
彼らの身体が、突如として、部屋の床を滑るようにして、凄まじい速度で「窓の外」へと強制的に引っ張られ始めたのだ。
まるで、ランニングマシン(動く歩道)の上で逆方向に全力で走らされているかのように、彼らの足元が、現実の物理法則を完全に無視して、窓の外へと高速スクロールしていく。
「な、なんだこれは!? 体が、後ろに引っ張られる……! 壁が、壁が迫ってくるぞ!?」
暗殺者のリーダーが、床に短剣を突き立てて耐えようとしたが、世界のシステムが放つ『オブジェクトの移動命令(強制スクロール)』のパワーの前には、人間の筋力など、オールGだろうがAランクだろうが、完全に等しく『無力』だった。
「言っただろ、裏社会のプロの皆さん」
ハジメは、ベッドの上で優雅にエールを飲みながら、彼らを見下ろした。
「今日の深夜12時、この宿の部屋は、プログラムの仕様上【その場に完全固定】されるように、俺がアリアさんの観測器のデータを弄って設定を書き換えたんだ。だけど、この街の移動システムは、ここの座標にある建物を『無理やり西区へスライドさせよう』と命令を出し続ける」
ハジメが指差した先――窓の外では、夜の闇の中、宿の周囲の地面や隣の建物が、時速100キロを超える猛スピードで、ゴゴゴゴゴと真横に高速でスライドして消えていく光景が広がっていた。
「つまり、この部屋の中だけは『時が止まっている』のに、部屋の一歩外(窓の境界線)は『超高速で動く新幹線』と同じ状態なんだよ。あんたたちが部屋に半分身体を突っ込んだ瞬間、世界のシステムは【オブジェクトの衝突エラー】を起こし、エラーデータを排除するために、あんたたちの存在を『窓の外の奈落』へと、強制スクロールで弾き飛ばす仕様になってるんだ」
「ひ、引き上げろ! 撤退だ、撤退――」
暗殺者が叫んだが、すでに遅かった。
部屋の窓枠の設定が、システムのエラー修正により、強制的にガシャン! と閉まったのだ。
その瞬間、窓枠に身体を挟まれていた二人の暗殺者は、仕様上の『オブジェクトの圧縮判定(即死バグ)』を喰らい、光の粒子となって世界から完全に消滅した。
残りの三人は、閉まった窓の外――時速100キロで横にスライドしていく、暗黒の街の防壁の隙間へと、時速100キロの生身の体当たりをブチかまされる形で、遥か彼方の壁の向こうへと、凄まじい音を立てて弾き飛ばされて消えていった。
静寂が、再び部屋に戻ってくる。
窓の外の地鳴りが収まり、配置換えが完了した時、部屋の窓を開けると、そこは昨日までの宿の中庭ではなく、完全に静まり返った、誰もいない『西区の高級住宅街の裏路地』へと、部屋ごとワープ(スライド)していた。
「……おい、ハジメ」
ガロンが大剣を鞘に戻しながら、全身の震えを止められない様子でハジメを見た。
「俺……今、確信したわ。お前、絶対に敵に回しちゃいけないタイプの化け物だ。プロの暗殺者五人が、お前が指一本動かさないうちに、世界のバグでプチッと潰されて消えやがった……」
「ハハハ、これぞ就活生の『危機管理能力(バグ取り)』だな、ハジメ!」
レンが、ガントレットを外してハジメの背中をバシッと叩いた。
「これで裏社会のボス(ウルズ)の連中も、俺たちに簡単には手を出せなくなったな」
ハジメは、飲み干したジョッキをテーブルに置き、メガネの位置をカチッと直して、月光に照らされる西区の街並みを見つめた。
「いや、ウルズの野郎は、これで俺の頭脳の『価値』をさらに思い知ったはずだ。次からは、もっと理不尽な、大規模な手を使って俺たちを潰しにくる。……だけどな、ガロン、レン、アリアさん」
ハジメの目は、満天の星々のさらに奥、世界を管理している『創造神のサーバー』を見据えていた。
「裏社会の中ボスがどれだけ小細工を弄してこようが、俺たちの『一次選考(アレスタ編)』の進行度は止まらない。明日からは、ギルドの全自動マップの手柄を使って、アレスタの街のトップ(最高権力者)に、俺たちの『終身雇用(内定)』の推薦状を書かせに行くぞ!」
「おう、何回死んでも生き返らせてやるから、世界のルール、全部ハックしちまおうぜ!」
レンの力強い言葉と共に、男三人と、物陰で完全に腰を抜かしていた監視役のアリアの、異世界デバッグ生存戦略(内政編)は、さらに狂気的な加速を見せるのだった。




