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第3話 仕様書の開示と、最終面接の誓い

遅くなりすいません

今回も面白くしたのでぜひ

1. 窓からのドロップアウトとギルドへの道


「いいかハジメ、人生ってのはな、時に理不尽な段差(バグ)を飛び越えなきゃいけない時があるんだよ。ほら、四の五の言わずに飛べ。俺が下で受け止めてやる」


「レン、お前はアタマのネジが数本吹き飛んでるからそんな簡単に言えるんだ。ここは地上三階相当だぞ。現代日本なら完全に労災か自殺志願者の高さだ!」


迷宮都市・アレスタの二日目の朝。ハジメは、宿屋『跳ね馬の足跡亭』の三階にある、今日の「配置換え(バグ)」によって完全に廊下から分断された孤立部屋の窓枠に足をかけ、引きつった声を上げていた。


下を覗き込めば、昨日までは存在しなかった不気味な裏路地が広がっており、石畳の上では、相棒のレンが「いつでも来い!」と言わんばかりに両手を広げて待ち構えている。


 彼は先ほど、同じ窓から「フンッ!」とラグビーのボールのように軽々と飛び降り、無傷で着地していた。その横では、案内役のガロンが呆れた顔で大剣の柄に肘を乗せている。



「おい、ハジメ! もたもたしてると、朝のギルドの『依頼争奪戦』に遅れるぞ! 傷がついたら俺がまたイノシシの肉でも奢ってやるから、さっさと落ちてこい!」


ガロンの呑気な声が響く。


「クソ……! 101社落とされた俺の人生、ここで物理的にドロップアウトしてまるか!」

ハジメは目を瞑り、意を決して窓枠から身を投げ出した。


重力に引かれ、視界が高速で反転する。だが、ハジメの身体が硬い石畳に叩きつけられるより早く、レンの鋼鉄じみた太い両腕がハジメの胴体をガシッと完璧にキャッチした。


ズシン、と鈍い衝撃がレンの足元を震わせたが、レンは顔色一つ変えずにハジメを地面に下ろした。


「ほら、無傷だろ。お前、体重軽すぎ。もっと肉食え」


「お前がゴリラすぎるんだよ……。心臓が止まるかと思った。あ、いや、昨日実際に二回止まったわ」


ハジメは乱れたメガネを直しながら、深く息を吐き出した。


「よし、全員揃ったな」


ガロンがひらひらと羊皮紙の『本日の街の全体マップ』を振りながら歩き出す。


「このアレスタの街は、地下迷宮から溢れ出す狂った魔力のせいで、毎晩建物の位置がぐちゃぐちゃに書き換わる。ギルドが毎朝、決死のスカウト(斥候)を放ってこのマップを作って、冒険者に銅貨一枚で売ってるんだ。

 これがないと、大通りに出るだけで迷宮の罠にハマるようなもんだからな」


ハジメはガロンの手にあるマップをじっと見つめた。手書きで急いで書かれた形跡のある、ひどく雑な地図だ。

 路地の繋がりや建物の記号が歪に並んでいる。


(毎晩ランダムで入れ替わる……か。本当にそんな神の気まぐれみたいな現象が、完全に不規則に行われてるのか?)


デバッガーとしてのハジメの脳細胞が、その「街の仕様」に対して、本能的な違和感を覚え始めていた。


三人は、ガロンの後ろについて、入り組んだ石造りの迷路を進んだ。昨日通ったはずの美しい大通りはどこにもなく、代わりにそびえ立つ巨大な防壁や、不自然に曲がりくねった商店街が目の前に現れる。


 数十分ほど歩くと、ひときわ巨大な、荒々しい鉄の扉が取り付けられた石造りの巨城が見えてきた。扉の上部には、剣と盾、そして本が交差した意匠の紋章が掲げられている。

「ここが『アレスタ中央冒険者ギルド』だ。この街の心臓部であり、俺たち食い詰め者のハローワークだな」


ガロンがニカッと笑い、重い鉄の扉を押し開けた。


2. 最弱のステータスと、周囲の嘲笑


扉の向こうは、圧倒的な熱気と、男たちの怒号に満ちていた。


数百人は収容できそうな広大なホール。

 あちこちに設置された巨大な掲示板には、羊皮紙の依頼書(クエスト)が文字通り壁を埋め尽くすように貼られており、武装した冒険者たちがそれを血眼になって品定めしている。


酒の匂い、汗の臭い、そして鉄錆の匂いが混ざり合った、荒々しい「弱肉強食」の空間だ。


「おいおい、ガロンの野郎、また生きて帰ってきやがったぞ」


「昨日、街のど真ん中でワイルドボアの暴走を引き当てたって聞いたが、よく五体満足でいられるな」


「あいつの隣にいるのはなんだ? 見たことのない薄汚れた服を着たガキどもだな」


三人が入ってきた瞬間、周囲の冒険者たちから次々と視線が突き刺さる。ガロンの不運属性は、このギルド内でも有名らしい。


 そして、ハジメとレンが着ている泥まみれの「リクルートスーツ」と「私服のパーカー」は、この世界の人々にとって不気味な異端の衣装にしか見えなかった。


「外野の雑音は気にするな。まずは受付で『登録』と『ステータス測定』だ。これを受けないと、依頼を一つも受けられないからな」


ガロンに促され、ハジメとレンはホールの奥にある、頑丈な鉄格子のついた受付カウンターへと向かった。


受付に座っていたのは、いかにも仕事が出来そうな、眼鏡をかけた冷徹な雰囲気の女性職員だった。彼女はハジメたちの奇妙な格好を一瞥したものの、プロらしく表情を崩さずに声をかけてきた。


「新規の冒険者登録ですね。担当のアリアです。お名前と、こちらの『魔晶石の板(ステータス・ボード)』に手のひらを乗せてください」


彼女がカウンターの上に置いたのは、黒く鈍い光を放つ、透明な水晶のプレートだった。

「レン、お前から行け。俺はこういう本番の機械、いつもエラー起こすから」


「何言ってんだよ。ほら、行くぜ」


レンが迷うことなく、大きな手のひらをプレートにペタッと乗せた。


次の瞬間、プレートの内部で青い魔力の光が走り、空間に文字のような光の羅列が浮かび上がった。


【名前:レン・ジンナイ】

【職業:未設定(適正:重戦士・盾術士)】

【肉体強度(STR): A 】

【耐久性能(VIT): S 】

【魔力容量(MP): G 】

【敏捷性(AGI): C 】

【固有能力(ユニークスキル):『緊急蘇生・心肺蘇生(リブート・デバッガー)』】


「――ッ!?」


受付のアリアが、持っていたペンをポロリと床に落とした。その冷徹な目が、限界まで見開かれている。


「VIT(耐久)が……『 S 』!? 魔力容量は最低値ですが、この肉体の頑丈さは、現役のAランク重戦士をも凌駕しています。それに、このユニークスキル……『死者蘇生』の派生属性……? 馬鹿な、そんな能力、おとぎ話の聖者でもなければ……」


周囲の冒険者たちからも、どよめきが沸き起こった。ガロンも「おいおい、マジかよレン……」と絶句している。


「へえ、俺って結構頑丈なんだな。小学校の時、トラックに跳ねられてもかすり傷で済んだのは、このステータスのおかげか」


レンは自分の大きな手を握り締めながら、呑気に笑っている。


「つ、次は……そちらの、眼鏡の男性、お願いします……」


アリアが、心なしか震える手でプレートをハジメの前に差し出した。


周囲の視線が、今度はハジメへと集中する。あの大男(レン)の相棒なら、さぞかし化け物じみたステータスを持っているのだろう、という期待と畏怖の目がハジメに突き刺さる。


ハジメはゴクリと唾を飲み込み、冷たいプレートにそっと手を乗せた。


ピピッ、と昨日パソコンの画面で何度も見たような、嫌な電子音に似た魔力の音が響く。


【名前:ハジメ・クロノ】

【職業:未設定(適正:なし)】

【肉体強度(STR): G 】

【耐久性能(VIT): G 】

【魔力容量(MP): F 】

【敏捷性(AGI): G 】

【固有能力(ユニークスキル):『失敗の検証・再現(エラーログ・シミュレーター)』】


空間に浮かび上がったその文字を見た瞬間、ギルド全体の時が止まった。


そして――。


「ギャハハハハハハハハハッ!!!!」


「なんだあいつ! オール『 G 』じゃねえか!!」


「一般の村人の子供でも、もうちょっとマシな数値が出ぞ!」


「魔力だけちょっとマシな『 F 』って、魔法使いの見習いにもなれねえな! 粗大ゴミかよ!」


ホール全体から、腹を抱えたような爆笑と嘲笑が沸き起こった。


「あいつ、あの化け物タンクの金魚のフンだな!」


「おいガロン、お前の不運が新入りにも伝染したんじゃねえか?」


アリアも、すっと冷徹な表情に戻り、憐れむような目でハジメを見つめた。


「……黒野様。大変申し上げにくいのですが、あなたの身体能力は、当ギルドの最低基準を下回っています。戦闘はもちろん、迷宮の荷物持ち(ポーター)すらお勧めできません。登録自体は法律に基づき行いますが、ご自身の安全のため、街の外には出ないことを強く推奨します」


ハジメは、拳を強く握りしめ、溢れそうになる屈辱をグッと堪えた。


慣れている。この感覚には、痛いほど慣れていた。


前世の就職活動。グループディスカッションで、高学歴のライバルたちが華麗な経歴を披露する中、自分だけが何もアピールできず、面接官から「あ、君はもういいよ」と冷たい目で流された、あの瞬間の虚無感と全く同じだ。


「おい、お前ら、言い過ぎだぞ!」ガロンが怒りを露わにして大剣の柄に手をかける。


「いいんだ、ガロン」


ハジメが、ガロンの腕をそっと制した。そのメガネの奥の目は、不思議と死んではいなかった。むしろ、脳内で激しい思考の火花が散っていた。


(肉体強度は『 G 』、耐久も『 G 』。あぁ、そうだよな。俺はただの凡人だ。剣を振っても素人だし、殴られれば一発で死ぬ。それは昨日、身をもって知った)


ハジメの視線は、自分の固有能力の欄――『失敗の検証・再現(エラーログ・シミュレーター)』という文字に固定されていた。


(だけどな……面接官(この世界の連中)は、仕様書の上辺の数値しか見てねえんだ。この能力が、どれだけこの世界の『バグ』を暴き出す凶悪なデバッグツールか、これっぽっちも理解してねえ)


「ハジメ」


隣でレンが、短く声をかけた。その声には、嘲笑への怒りではなく、「次、どうする?」という、相棒への100%の信頼だけが込められていた。


「行くぞ、レン、ガロン。ここにいても内定は貰えない。……俺たちの、本当の『仕事』を始めよう」


ハジメは登録証(鉄のプレート)をひったくるように受け取ると、笑い声の響くギルドのホールに背を向け、大股で歩き出した。


3. 最初のマップハッキング(街のアルゴリズム解析)


「クソッ、あいつら言いたい放題言いやがって……! 確かにレンのステータスは異常だが、ハジメのあの『予知』の凄さを何もわかってねえ!」


 ギルドを出て、複雑に入り組んだ路地裏のベンチに座り込み、ガロンが怒り心頭でエールをあおっていた(昼間から飲まないとやってられないらしい)。


「まあ、気にするなよガロン。数値が低いのは事実だからな」


ハジメはベンチの隣で、ギルドの売店で買った数枚の真っ白な羊皮紙と、安物のインク(炭を溶かした水)を広げていた。ハジメの手は、狂ったようにペンを動かしている。


「ハジメ、お前さっきから何書いてんだ? 履歴書の書き直しにしては、なんか図形ばっかりだけど」


レンが、ハジメのノートを覗き込む。


そこに書かれていたのは、無数の直線と、奇妙な『幾何学模様』、そして大量の数式だった。


「ガロン」


ハジメはペンを止めず、鼻から微かに血をにじませながら、据わった目でガロンを見つめた。


「お前が持ってる、その『今日の街のマップ』を貸してくれ」


「あ? ああ、これか? 銅貨一枚もしたんだ、汚すなよ」


ガロンから手渡された手書きの雑な地図を、ハジメは自分の羊皮紙の隣に並べた。そして、昨日自分たちが歩いた地下遺跡からのルート、出会った場所、居酒屋の位置、宿屋の位置を、正確な点と線でプロットしていく。


「ガロン。この街の『配置換え』は、毎晩ランダムに行われるって言ったよな」


「ああ、迷宮の魔力の気まぐれだ。誰も予測できないから、毎朝スカウトが命がけで街を走り回って地図を作ってる」


「――大嘘だな」


ハジメが不敵に笑い、ペンをベンチに叩きつけた。


「な、なんだと……?」


「ランダム(不規則)なんて、この世には存在しないんだよ。前世のデジタルゲームの確率だって、裏では必ず『擬似乱数』で制御されてる。この街の配置換えを司ってる迷宮の魔力システムとやらも、結局は一つのプログラム(仕様)で動いてるんだ。そして、そのプログラムを書いた奴は……信じられないくらい、手抜きの三流プログラマーだ」


ハジメは、自分が書き殴った羊皮紙をガロンの目の前に突きつけた。


「見ろ。これが昨日俺たちが歩いた街のデータ。そしてこれが、今日のギルドのマップだ。一まあ、完全にバラバラに入れ替わっているように見える。だけど、建物の形状と、路地の『接続点の角度』を完全に計算し直すと、ある一つの事実が浮かび上がる」


 ガロンは羊皮紙に書かれた数式と図形を凝視したが、当然、現代数学やプログラミングの概念など理解できるはずもない。「さ、さっぱりわからん……」と困惑するガロンに、ハジメはメガネの奥の目をギラつかせて言い放った。

 

 「この街はな、『たった5つの基本テンプレート(型)』を、毎日ローテーションで使い回して、反転させたり90度回転させてるだけなんだよ!」


「なっ……!?」


ガロンのジョッキが、手から滑り落ちて石畳にぶつかった。

「ローテーション……使い回しだ、と!? 馬鹿な! じゃあ、毎晩あの凄まじい地鳴りと共に街が作り直されてるのは……」


「そう、ただの『演出』だ。住人や冒険者に『これは神の理不尽な気まぐれだから逆らうな』と思わせるための、大掛かりなバグ隠し(カモフラージュ)さ。前世のゲームでいうなら、ステージの読み込み画面(ローディング)を派手にして、プレイヤーの目を誤魔化してるようなもんだ」


 ハジメの頭脳(デバッガーの脳)は、すでに世界の仕様をハッキングしていた。前世で101社落とされる間、ハジメはただ指をくわえて待っていたわけではない。WEBテストやSPI試験の「規則性・論理問題」をそれこそ何千問、何万問と解き続け、他人の作った不具合(バグ)を探すバイトで生計を立てていた。

 

 その「他人の手抜きを見つける天才的な偏執性」が、異世界の神の設計ミスを完全に捉えたのだ。


「今日のマップは『パターンCの、180度反転バージョン』だ。だから、この先にある行き止まりの壁……これ、実は裏側から別の路地がスライドして噛み合ってるだけだから、このレンガの三番目の隙間を強く押せば、仕様上の『衝突判定(当たり判定)』がバグって、簡単に崩れて向こう側に抜けられる」


ハジメが立ち上がり、路地の突き当たりにある頑丈な石壁の一点を、人差し指でツンと突いた。


 その瞬間。


ガコン……と、街の底から小さな機械音が響いたかと思うと、あんなに頑丈そうだった石壁が、まるでパズルのピースが外れるように、音もなくガラガラと崩れ落ち、その向こう側に、広大な『中央大通り』の景色が広がった。


「な……ななな、なんだこれぇぇぇぇッッ!?」


ガロンが髪を掻きむしりながら絶叫した。現地のプロの冒険者が、何年も「世界の絶対的なルール」だと信じ込んでいた街の構造が、オール『 G 』の無能な少年の指先一つで書き換えられたのだ。


「フッ、やっぱりな。当たり判定の隙間(クリッピングエラー)だ。手抜きプログラマーめ、建物の噛み合わせの処理が甘すぎるんだよ」


 ハジメは鼻から垂れた血を親指で拭い、ニカッと狂気的な笑みを浮かべた。


「ハジメ、お前やっぱり最高にキモくて天才だわ」


 レンが、我がことのように誇らしげに胸を張る。


「これで、毎朝高い地図を買う必要はなくなったな。それどころか……」

ハジメは、崩れた壁の向こうに広がるアレスタの街並み、そしてその中心にそびえ立つ、地下迷宮の入り口を見つめた。


 「ガロン、お前は実力があるのに、一生不運で食い詰めてるって言ったよな。それはお前が悪いんじゃない。この世界のシステム(確率論)のバグが、お前を狙い撃ちにして嫌がらせ(エラー)を起こしてるからだ。だったら……俺たちが、そのシステムそのものをハックして、修正(デバッグ)してやればいい」

 

 ガロンは、ハジメのその言葉を聞いた瞬間、全身に鳥肌が立つのを感じた。

ギルドの連中はこいつを『 Gランクの粗大ゴミ』と笑った。だが、目の前にいるこの少年は、神の作った世界のルールを「手抜きの三流プログラム」と切り捨て、それを裏から書き換えようとしている。


(こいつら……とんでもない化け物を、俺は拾っちまったのかもしれない……!)

ガロンの心の中で、かつてないほどの熱い高揚感が湧き上がってきた。


4. 宿の屋根の上での「最終面接」


その日の夜。


部屋のドアの向こうが相変わらず壁のままだったため、ハジメとレン、そしてガロンの三人は、宿屋『跳ね馬の足跡亭』の、切り離された孤立部屋の「屋根の上」に上っていた。

異世界の夜空は、現代の東京とは違い、息を呑むほどに美しい星々が満天に広がっていた。巨大な二つの月が、静かに街を照らしている。冷たい夜風が、ハジメのボロボロの就活スーツを揺らした。


 三人は、屋根の瓦に腰掛け、昼間の残りの串焼きをつまみながら、静かにジョッキを傾けていた。戦闘のない、静かな、しかし彼らにとって人生の大きな転換点となる夜。


「なぁ、ハジメ、レン」


ガロンが、夜空を見上げたまま、ぽつりと言い出した。


「お前らの能力の凄さは、今日で骨の髄までわかった。お前らは、世界をひっくり返せる。……で、そんなお前たちの『最終的な目標』はなんなんだ? 魔王を倒して、世界を救う英雄にでもなりたいのか?」


ハジメはエールを一口すすると、眼鏡を月光に反射させながら、静かに、しかし絶対的な確信を込めて首を振った。


「いや、そんな面倒なこと真っ平ご免だ。世界を救うなんて、そんなボランティアみたいなデカい責任、内定ゼロの俺たちが背負えるわけないだろ。レン、俺たちの目標は、最初から一つだけだよな」


「おう」レンがニカッと笑い、大きなジョッキをハジメのジョッキにぶつけた。


「俺たちの目標はな、ガロン。『この世界の神(システム)を完全にハッキングして、最高条件の終身雇用(スローライフ)を勝ち取る』ことだ」


「……終身雇用? スローライフ?」ガロンが瞬きを繰り返す。


ハジメが、夜空の星々を指差した。


「この世界は、バグだらけだ。お前の理不尽な不運も、この街の毎日変わるおかしな構造も、現地の人々が『呪い』や『神の試練』と呼んで諦めている理不尽な天災や魔王の存在も……すべては、世界を管理している中央システム(神)の設計ミス、つまり放置された『致命的なバグ』なんだよ」


ハジメの言葉には、熱い炎のような執念が宿っていた。


「だったら、俺たちデバッガーコンビのやるべきことは決まってる。この世界の理不尽なバグを、俺の『エラーログ』で徹底的に洗い出し、レンの『チート蘇生』でお互いの命を繋ぎ止めながら、最前線でデバッグし続けていく。そして、世界のすべての不具合を修正して、システムの根幹にいる『創造神』の前に辿り着くんだ」


「神の前に辿り着いて、どうするんだ?」ガロンが息を呑んで問い詰める。


「決まってるだろ。『最終面接』の開始だ」


ハジメは不敵に、狂気すら孕んだ笑みを浮かべた。


「神の胸ぐらを掴んで、契約書(魔法の誓約)を突きつけてやるのさ。『おい三流プログラマー、俺たちがこの世界の致命的なバグを全部直してやったぞ。世界を救ってほしいなら、見返りに、俺たちをこの世界で【絶対に働かなくてもいいホワイト領地の領主】として終身雇用(内定)しろ』ってな」


「――ッ!!」


ガロンは、あまりのスケールの大きさと、あまりにも俗っぽく、しかし最高に強欲で合理的なその目標に、一瞬呆気にとられ、それから――。


「クハハ……ハハハハハハハハハハッッ!!!!」

腹を抱えて、夜空に向かって大爆笑した。その笑い声は、静かな夜の路地裏に響き渡った。

「最高だ、お前ら! 英雄になりたいわけじゃなく、ただ『絶対に働きたくないから世界をハックする』だと!? 異世界の神様も、とんでもないブラック企業(就活生)を召喚しちまったもんだな!」


ガロンはジョッキを高く掲げ、二人の顔を交互に見た。


「いいぜ。その神様への『最終面接』、この俺も一枚噛ませろ。俺の一生分の不運(バグ)のツケを、その創造神ってやつに全額請求して、俺もそのホワイト領地ってやつで一生美味い酒を飲んで暮らしてやる!」


「決まりだな」ハジメが笑う。


「よし、それじゃあ記念すべき、俺たちの『異世界デバッグカンパニー』の結成だ。一社目(最初の試練)は、明日、この動く街のアルゴリズムを使って、ギルドの連中を驚かせる最高効率のクエスト達成からだ」


「おう、何回死んでも生き返らせてやるから、ガンガン行こうぜ、ハジメ!」レンが力強く拳を突き出した。


深夜12時。


再び、街の地下からゴゴゴゴゴ……という重厚な地鳴りが響き渡り、街の建物が静かにスライドを始めた。


しかし、屋根の上の男三人は、もう世界の理不尽な仕様(バグ)に怯えてはいなかった。彼らの目は、その動きの裏にある『数式』を、そしてその先にある約束された『内定(スローライフ)』の未来を、確かに見据えていた。


『内定ゼロで異世界転移した俺たちの、4分間(ギャンブル)蘇生逆転劇』――彼らの、世界システムへの壮大なハッキング(デバッグ)が、ここに完全なる産声をあげたのだった。

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