93本目 食べて、すぐ寝て、牛食べたい!もー!
「ふぃ〜食った食った〜。ゲェェェェップッ!」
アメリカの探索者達は、目の前に永遠と出される御馳走を勢いよく胃に詰め込んだので、満腹になるのは思ったより早かった。
ファルコは偽物の空をボーッと眺め、ジェントルは手癖のようにカードを弄び、膨らんだ腹を出したマキノは爪楊枝で歯間掃除しながらと、三人は仰向けに倒れ幸せそうな顔を浮かべていた。
マキノといい、山賊のように豪快な奴らだな。ここは海だけれど。
「御三方はアメリカのどちら出身なのですか?」
俺と、それと先に食事を終えた来海と生野の三人で彼らを相手する。
ちなみに他のみんなは、まだ食べている者もいれば、いよいよ始める撮影の準備にかかる者もいた。
「僕はロサンゼルスですよ。ファルコはサンフランシスコさ」
ファルコはゆっくり頷いた。
どちらも西海岸だが、かなり距離は遠い。
「お前は?」
「レディーにオマエなんて失礼ね。アンタ、モテないでしょ」
「そういうのいいんで」
「あらぁ? クールぶっちゃって。アタクシ好きよ。アンタ、モテるでしょ」
どっちなんだよ。
「アタクシはU.S.Aよ!」
「……のどこだよ」
「マキノ姉さんは宇佐市出身です」
「ああそう……日本人じゃねぇか!」
宇佐市は大分県にある町だ。
マキノ・ハナブサと日本人名を名乗っていたし、せめて日系人なんだろうと思っていたら、日本人かよ。
「あらぁ〜? 国籍は日本ですけど、それが何ぃ? 日本人がアメリカ人と名乗ってはいけない法律なんてないのよ。悔しかったら訴えなさぁい。法廷で会うことになるわねぇ!!」
「僕たちは大学のダンジョンクラブで出会ったわけさ。彼女は留学でこっちに来たわけ」
「ビザも取得してるわよーん」
「生粋の日本人じゃねぇか」
「え……じゃ、じゃあ、マジシャン、日本語、上手いですね」
いつも隣にいるはずの松實が吾妻たちとワイワイしていて、ここにいないためか、生野はコミュ症と成り果てていた。
この人は何でこっちに来てしまったんだ。
「HA? アタクシからしたらアンタたちが英語上手いわねぇ〜って褒めようとしたところよ?」
「ダンジョンの中では、言語の壁は無いみたいですよ。見事なイリュージョンですよねぇ〜」
ジェントルが解説した通りであり、今まで日本のダンジョンには、基本的に日本国籍のみが探索してたため、言語については誰も気にしなかった。
しかし、ここ最近に出現した世界中のダンジョンでは、勝手に言語が翻訳される現象が報告されている。
マキノは日本人だが英語に聴こえているのか。バイリンガル以上の人は、自分にとって都合の良い言語にでもなるのだろうか。
ダンジョンの正体は分かったつもりでいたが、こうまでして好都合だとなお一層のこと不気味だ。未だに謎が多いな……。
「へ、へぇ……そうですか」
「この三人は俺とアオイさんだけで対処できる。……カナデさんはユッキーさんのところに戻っていいぞ」
「う、うん。……おらぁ松實! お城作るぞー!」
水を得た魚のように、生き生きとして生野は戻って行った。
元気になったなら良かった。
「葵お嬢様。配信の準備ができました」
そんな生野とすれ違った猪俣が、俺たちを呼びに来た。
「ありがとう爺や。では、東さん。撮影を始めましょうか」
「アタクシたちはこの通り動けないんで、ここから見てるわぁ〜。ぜぇひとも、日本の人気者をこの目で見届けましょっ」
今回の配信はセブダンジョンに招待された仲良し御一行が攻略を目指す、至ってシンプルなものだ。
一応真面目な緊急依頼ではあるから企画を絡める必要がない。
それに吾妻か松實あたりがうっかり発言を誤って国際問題になっても困るので生配信でもない。
なので、普通に撮影するつもりだったが……こいつらから目を離すわけにはいかない。何を企んでいるかまだ分からないしな。
「だからオーデュイにまた任せるよ」
俺はオーデュイに配信機材を託す。
「うん! おっけー。ワタシもあいつらは怪しいと思ってたんだー。しゅっしゅっ」
オーデュイは腕っぽく伸ばしたスライムの触手でシャドーボクシングをした。
これだけ器用に身体を動かせるなら、あともう少しで人間の形になれる気がする。
それと俺が撮影しない事情にはもう一つ、というより元から今回の撮影に同行するつもりがなかった。
その理由は、少しだけ時間を遡る。




