91本目 イッツ・イリュ〜ジョン!マイマイマジックだよ!
「皆様。お食事の準備ができました」
来海の執事、猪俣の呼び掛けに、あちこちで遊んでいた彼女たちがわらわらと集まってくる。
「ばーべきゅー!」
全国各地の高級牛を取り揃えた何とも豪華なバーベキュー。これも売れた証だな。
さっそく吾妻たちが肉に喰らいつくので、俺はオーデュイを抱きかかえて彼女たちの元に向かう。
「人間になりたいってのは、姿形だけでいいのか?」
「うん。なんかね、『転生したらスライムが鳥取県』っていうアニメ見てたらさー、スライムもニンゲンみたいになれるって知ったんだー」
大人気異世界転生アニメを視聴して、スライムの可能性を知ったオーデュイ。
「だから今は自力で何とかしてみたいんだー」と、こっそり練習していたことを告白する。
「けど、形を保つっていうのが感覚掴めなくて、すぐポニョンって戻るんだよね……。マイマイのマネージャーならコツとか分かるかなって!」
「コツって……。確かに俺は人間じゃないが、スライムでもないぞ」
「そこをなんとか〜」
「そうだな。一緒に考えてみよう」
「東くーん! オーデュイ! お肉無くなっちゃうよー!」
両手指の間に串刺し肉を挟み込むようにして6本持った吾妻。
松實と野田も速いペースで食べるし、確かにこのままじゃ肉が消えるな。
「皆様、まだまだお肉様がございますので、ご安心を。こちらに新潟のお米様で作りました炊き立てご飯様もございますよ」
「んー! お米ー!」
「うぃー! やっぱお肉にはご飯だよねー! しょーのちゃん!」
「──あー、ライスいいですねー。僕も一杯をいっぱいお願いします」
「何で私に話振るんだよ。だから私は少食だって……少しください」
「アタシとリリナの分もお願いしまーす♪」
「かしこまりました。皆様のご希望の量に合わせて、すぐに準備いたします」
「待て。……お前誰だ」
水着美女たちの間にしれっと潜り込んだ男。
全身を黒で統一したフォーマルな格好に、白い手袋と黒のシルクハット、まるで奇術師のような姿をしていた。
それに彼は金色の髪に青い眼。
見るからに欧米人だ。
「おっと、バレましたか。貴方は観察眼が素晴らしいですねぇ〜」
「当たり前だろ。気付かない奴がいるかよ」
と、ここでようやく吾妻たちが「えっ!? 知らない人いる!?」って気付いた。いたよここに。
全員が肉に視線誘導されていたよ。
「お初にお目にかかります。わたくしニューヨークでマジシャンをしております、ジェントル・ライスというものです。名前にちなんでライスが大好きなのですよ。以後お見知りおきを」
「おー! マジシャン!」
「吾妻さん近寄っちゃ駄目だ。このダンジョンには俺たち以外いないはず。怪しすぎる」
この攻略はフィリピン政府直々の緊急依頼だ。
観光地近くに出現したダンジョンから被害を出さないために、まだダンジョン対策が疎い現地民に代わって任された仕事。
ダンジョン入口にはフィリピンの軍が防衛しているはず。何の連絡もないということは、彼らに気取られずに侵入してきたことになる。
あの包囲網をどうすり抜けてここに来たんだ。
俺たちは彼に対して警戒しているものの、気にも留めていないのか阿呆なのかは知らんが、勝手に茶碗と箸を持って、米を欲しがるジェントル。
それに吾妻と松實だけは「マジック見せてー!」と呑気でいた。もっと警戒心を持ってくれ、特に政府の人間は。
「それでは麗しいそちらのお姉さん」
「あ、ワタシー!? あはー、やっぱ麗しさが分かっちゃうか〜」
「うるせぇ、黙ってろ」
指名されて調子に乗る松實に、暴言を吐く生野。
ジェントルに一歩前出るよう言われたので、松實は簡単に従う。
悪意は感じられない、純粋にマジックを披露してもらえそうだが、今まで出会った強者はそれを感じさせずに振る舞うことができた。
念には念を入れて、すぐに動けるようオーデュイを近くにいた来海に託した。
「お姉さん、お名前は?」
「ユキー! 幸せの幸せって書いてユキだよ〜」
「おぉ、それは良い名前ですね。では、あなたの持っているカードにこちらのペンでサインを頂けますか?」
「おっけー! ……え? ワタシ、カードなんて持ってないよー?」
するとジェントルは自分の胸を確認するよう促した。
「おぅ?」と、松實が下を見ると、なんと〝ゆき〟と書かれたゼッケンが白いカードへといつの間にか成り変わっていた。
「おぉー!」
「イッツ、イリュージョ──」
「変態だぁ〜!!」
「WHAT!?」
予想外の反応だったのか、ジェントルのリアクションが流暢な日本語から英語に戻った。
「だって、マジックってことは仕込みあるってことでしょー? つまりどっかのタイミングでワタシのおっぱいを触ったわけだ! へへーん、タネお見通し〜変態だね〜逮捕だー!」
「話の腰を折るなよ松實」
「だって、しょーのちゃ〜ん。ワタシ触られたかもしれないんだよ〜。しょーのちゃんにしか触らせたことないのに〜!」
「ささ、触ったことねぇわ!!」
「──HA!! ジェェントルゥ〜、アンタ一本取られたんじゃないのぉー?」
成功したのに失敗した心持ちの、本当に腰を折って項垂れるジェントルの元に、男女ペアが新たに現れた。
……また厄介なことに巻き込まれそうだ。




