87本目 【急上昇!】新しいトウキョウをわたしが作ってみた!
『……おねえ、ちゃん』
『ホタルちゃん!』
吾妻の腕の中で眠っていた玉響が息を吹き返す。
どうやら頭を撃たれたようだが、さすがはSS級模倣者と言ったところ、俺と同じくしぶとい。
だが、体が麻痺しているようで、思うようには喋れず、動けない。
『ホタルの宝具、使って……。おねえちゃんなら、使える、よ』
こうして手渡されたのは、ホタルのツインテールの片側に付けていたシュシュ。
『宝具:クロマキーシュシュ。カメラに映った背景を好きに編集できる、くらいだけど、きっとおねえちゃんならダンジョンも、自由に……』
ホタルは効果を告げて眠りについた。
吾妻が心配して揺するが、模倣者は眠ることで体力を回復するから大丈夫だと伝えた。
本来の効果ならば、この宝具はさほど脅威ではないが、SS級模倣者が使用することで、ダンジョンや街すらも自由に組み替えることができてしまう。
ならば、俺が使用しても同様に使えるはず。
だが、言うまでもなく、ここは吾妻に任せる。
『お兄ちゃん。ホタルちゃんをよろしくね』
吾妻はポニーテールを結んでいたシュシュを宝具に付け替えると、高らかに宣言する。
ホタルが自身のライブを中継していたから、今は東京中のありとあらゆる画面に吾妻が映ることとなる。
『みんな! こんマイリー♪ マイマイチャンネルのマイマイだよ! 今からわたしが東京を救ってみせるよ! それでは……マイリまーす!!』
吾妻が右手を掲げると、崩壊が停止する。
『みんな、おててを頭にして守るんだよ。それ〜!』
指揮するように指を振り、宙に浮いたものは誰もいないところにそっと置いたりくっつけたり、崩れたものは立ち上がるようにして戻った。
『むむっ、指が重いぃ……』
「──マイマイおねえちゃん、がんばれー!」
懸命な吾妻の姿に、ある少女が声をあげた。
それにつられて一人、また一人と、激励の想いが吾妻に届けられる。
『わぁ……! よぉし、がんばるよー!』
大体五分ほど街中が組み変わっていき……最後に自分たちがいるライブ会場を芝公園内に、誰も巻き込まれないようそっと降ろした時、吾妻は大きく『ふぅ〜!』と息をついた。
『これにて一件着陸! みんな応援してくれてありがとう! マイマイでした〜! おつマイリー♪』
挨拶すると、街は静かになった。
そして次の瞬間、歓声が沸き起こった。
マイマイの元には、共に戦ってくれた来海や野田たちが駆け寄ってきて、わいわいと盛り上がりを見せた。
誰かが吾妻を狙う悪意も感じない……ひとまず終わったか。
玉響をそっと寝かせて、俺はその場に座り、ようやく落ち着いた。
「……っ! にっ!」
配信仲間たちの隙間から見えた彼女と目が合うと、吾妻は全力笑顔でこちらにピースした。
俺もあそこまで笑えはしないが、ちょっとは微笑んでピースし返した。
◇ ◇ ◇
あれから一ヶ月。
世界は大きく変わった。
まず、トウキョウダンジョンへと融合していった都内のダンジョンは再び出現していたものの、差はあれど過去の観測よりも縮小されていることがのちの調査で分かった。
トウキョウダンジョンはまだ未完成だったから、この結果に落ち着いたのだろう。
また、アキハバラダンジョンも同様にほとんどのエリアが消失してしまい、ビル一棟分の広さまでになった。そうなれば完全攻略もできてしまいそうだが、現在は封鎖されている。
東京のダンジョンは平和になった……だが、次々と日本以外でダンジョンが確認されることとなった。その数は16個。
吾妻は確かに多くの人々を救ったが、当然それまでにも死者は多数出ていた。
藤岡の思惑通り、死の受け皿であるダンジョンが日本を飛び出して海外で生まれてしまったのだろう。
もし、彼等の策通りに最後まで事が進めばどうなっていたのか、今となっては見当もつかない。
この事態を引き起こした模倣者の多くは身柄を拘束された。
「マヨネーズ欲しい、だよね!」
「マイマイチャンネルくらい見せてよ!」
葬倉聡明、逝来朱莉。
佐藤が相手したとされる六人の模倣者、そして玉響ホタル。
計九名が、探求省地下にて投獄されることになった。
だが主犯格であるハザマ、改め狭間光一と藤岡辰也が未だ捕まっていない。行方を追っているところだ。
捜査が進むにつれて、彼らの動機も判明していく。
葬倉は人間への復讐。逝来は愛のためとほざいているらしい。
狭間は……きっと面白いから、だろうな。
各々の願いを叶えるために、一時的に協力関係を結んだだけの、我の強い模倣者らしい組織図であった。
「──ヨナグニダンジョンの模倣者。いや、東亮、だったかな」
事件後、報告のために探求省を訪れた俺に探求省大臣、武崎が声をかけた。
「この度の件、誠に感謝する。君がいなかったら……」
「いえ、お気遣いなく。少しお手伝いしただけなので」
今回の事件を受けて、武崎は大臣を退任……することなく、事態に真摯に向き合い、東京の復興や世界中で発生したダンジョンへの対策。紛争が起きないよう国際的な規則を定めた組織作りを率いるなど、今なお彼は闘い続けていた。
「そうか。ふっ、全くもって君は父親と似ていないな」
「ええ、私もそう思います。……ただ、父と同じことはしていたと思いますけど」
「そうだな。……少しだけ昔の話をしようか」
かつて、二人はライバルだった。
ある日、腐り切った探求省を変えるため、武崎は探索者を引退して政界に入ろうとした時、一つ頼まれたという。
『ビワダンジョンを永久に攻略しないようにしてくれ。娘を悲しませたくないんだよ〜、一生のお願いだ! 頼む!!』
那緒子さん曰く、本来ビワダンジョンの危険等級はA級ほど。
しかし、SS級と分類され、探求省が立入禁止と定めたのは……完全攻略され、吾妻那緒子さんが消滅するのを防ぐためというわけか。
きっと、この事実は那緒子さんも知らない。
──そして、吾妻大悟がいつまで経ってもヨナグニダンジョンを攻略もせず、誰かと入れ替わるよう脱出もしない訳にようやく気付いた。
十何年もたった一人で俺を守ってくれたんだな。
……ったく、お節介な父親だ。本当にあの男は勝手に何でもしやがるな……全く。
どこぞの娘に脈々と引き継がれてしまっている。
「本当にありがとう。御礼となるかは分からんが、困り事があれば何でも言ってくれ。探求省総出で力になろう」
「ありがとうございます。しかし、今は復興の方で忙しいでしょう。お気持ちだけ受け取ります」
「そうか」
「……ただ一つ、良ければマイマイチャンネルを登録してください」
「ふっ……。義務付けておこう」
俺は武崎にお礼を言って、探求省を後にした。




