85本目 これが伝説のオフ会10000000人事件!
『わー! ホタルのファンがいっぱ〜い。みんなー! ホタルのおにいちゃんになってくれるー!?』
老若男女問わず、彼女に魅了された者たちが雄叫びを上げる。
東京都港区、芝公園上空。
東京タワーを眼下に造られた空中ライブ会場に向かって人々がどんどん集まってくる。
増える来場者数に合わせて、客席も会場の面積も増大。皆が我先にと空まで上る階段を進んでいくが、ダンジョン素材で建設された会場と階段はいつ崩れてもおかしくない不安定さがあった。
『じゃあ〜、ホタルがみーんなの妹になるためにも〜、早くあの女を殺して♡』
会場の視線がステージ端にいた吾妻とオーデュイに対して、一斉に向けられる。
「ど、どうしよマイマイー! ライブ配信も乗っ取られちゃったし、このままだと負けちゃうよ!」
「ふっふっふっ、だいじょぶだよオーデュイ。なんたってわたしは最強だからね! 逆光であるほど燃えあがるものだよ!」
「逆境じゃない? 逆光だと何も見えないよ??」
玉響の虜となった者共が波となって、吾妻たちに襲いかかる。
とりあえず逃げるが、すぐに回り込まれてしまう。
「うーん、よし殴ろっか!」
「ダメだよ!? そんなのすぐ炎上だよ! 暴力はダメダメ!」
「おー、たしかに暴力はいちばんダメだよね」
殴って目を覚まさせよう作戦を、オーデュイが頭上でポヨポヨ跳ねながら全力で止める。
「マイマイを助けるんだー!」
すると、訪れた人の中にはマイマイファンがいたらしく、襲うホタルファンと守るマイマイファンの間で抗争が起きていた。
「おー! これがオフ会ってやつだね……!」
「そんなわけないよ!? 何とかして止めないと……」
「そだね! こらー! ケンカはダメでしょー!」
しかし、止まらない。
玉響が煽るのもあるが、マイマイ本人が止めても聞かず、勝手にファン同士で争っている。
困り果てたその時、仲間が駆けつける。
「宝具:侘び寂び──〈和敬之涙〉」
優しい雨が降り注ぐ。
雨に打たれた人から少しずつ落ち着きを取り戻していく。
「心を落ち着かせ、思いやりが持てるようになる雨ですわ。ただ、今のわたくしでは、これが精一杯ですが」
「葵ちゃん! わぁ、宙に浮いてる!」
人混みに巻き込まれぬよう、猛李王がバンザイして来海を高く掲げて来ていた。
「猛李王さんに運んでいただきましたの」
猛李王は押し寄せる人の波に潰れてはいるが、強靭な身体のお陰で何とか耐え切っていた。
「おぉ、おじさんも! ありがとうー!」
「……おじさん」
「猛李王さんありがとうございますわ」
「……ぉふ」
争いはまだ収まらない。
今や東京ドーム四個分まで広くなった会場のあちこちで騒ぎがあった。
**
「──にゃによこの人の数!? こんなに集まってるところをもし攻撃されたら……! くっ、急がにゃいと!」
「うぅ、エリナ離れちゃ駄目だからねぇぇ……」
「ちょ、リリナが置いてかれてるけど!?」
野田たちも新橋方面から会場下まで駆けつけたが、多くの人が詰めかけ、身動きがなかなか取れない。
「お〜マイマイたちはこの上にいるみたいだね〜ふにゃふにゃ」
「人が邪魔だなぁ。全員ブチのめすか!!」
「アンタたち本当に政府の人間にゃのよね!?」
当然、松實たちに宝具使用はさせないようにした。野田の心労は溜まるばかり。
しかし、東京各地で魅了された人の中には、宝具持ちの探索者もいる。
混乱はさらに難解になっていく。
**
「マイマイどうする!?」
「うーん、みんなホタルちゃんに夢中かー。じゃあ、ホタルちゃんに止めてもらおう!」
「ど、どうやって!? それに、人が多くてあの子のとこまで辿り着けないよ!」
「だいじょぶだいじょぶ。わたしに作戦があるよ! おじさん!」
唐突に呼ばれた猛李王はビビり散らすが、吾妻からこしょこしょと作戦を聞いて、少し青春した気分になって感涙する。
その涙を宝具:侘び寂びで増幅し、来海がまた優しい雨を降らす。
「おぉふ……。……やるのか」
「うん! 思いっきりおねがい!!」
「ああ──宝具:黒鷺──〈天空飛翔〉」
人々を周囲から退けて。猛李王が力の限り大剣を上に振り、面部分に立った吾妻を、上空に思い切り飛ばした。
「──ホータールーちゃーん! 遊びに来たよー!」
「落ちて♡」
降り立つ予定だったステージ床が、玉響の力で穴が空いて、吾妻とオーデュイはそのまま落ちてしまった。
「「わー……!?」」
上空300m。
地上までは8秒もない。
「──エリナあれ! 吾妻さん!!」
偶然にも落下する吾妻たちをすぐに発見した庭白だが、どうあがいても間に合わない距離にいた。
「宝具:回線遅延!!」
「おぉぉ……?」
佐藤が所有するリモコン型の宝具が、吾妻の自由落下速度を遅くする。
「あ! やおく〜ん!」
「無事……ではなさそうですね」
「ピンピンだわっ!!」
ステージ真下は、客席へと上がる階段がないため人が疎らだった。
その場にいた佐藤の元に四人が合流すると、そこに勢いよくスライムが落ちてきて、爆散した。
そして、すぐに戻った。
「わー! 怖かったよ!? 死ぬかと思ったー! でもスライムで良かったー! はっ! マイマイは!?」
「ス、スライムが喋ってるー!!」
松實と生野には知られると面倒だからと、オーデュイについて伝えなかった佐藤。
「プニプニだなぁ!」「わぁ〜かわいいよ!」と全力で二人にもう弄ばれている。
「アンタたちそれどころじゃにゃいでしょ! マイマイは落ちたままにゃのよ!? すぐにキャッチしに……!」
「いえ、速度は遅くしていようとも、落下の衝撃は変わりません。このまま彼女を受け止めてもお互いに骨が砕け散るでしょう……」
「マジ!? にゃらどうしたら……」
「ならワタシに任せて! 考えがあるんだ。みんな、ワタシの身体を引っ張って!!」




