83本目 ほ、ほわわぁぁ……ちょっと、これは恥ずかしいね……!
「うぁぅー頭痛が痛い〜、あー、これはしょーのちゃんのせいだ〜。痛いなぁ、痛いなぁぁぁ」
「うるせぇ! 私もお前にブッ刺されてんだわ!!」
「ちょっと運ばれてる身なんだから喧嘩しにゃいで、おとにゃしくして!」
瀕死の松實を庭白が、生野を野田がおんぶして、模倣者同士の戦場から退散していた。
未だにB級探索者である野田だが、魔物が少ない特殊条件下ではあるものの、SS級ダンジョンをここまで生き延びてきた。
S級でも最上位の実力を持つ、猛李王とユキカナコンビ。A級に留まるものの強力な宝具を有する来海葵と違って、自分が選出された理由が分からなかった。
……ただ東が、自分たちなら大丈夫だと信頼してくれた。
吾妻も「一緒に攻略を楽しもうね!」と誘ってくれた。
そして、成長があった。成果も出した。
しかし、最後まで油断してはいけない。
マイマイたちを悲しませないためにも、大切なバディを守るためにも、必ずアキハバラダンジョンから生きて出てみせる。
そう胸に想いを刻んで、彼女は必死に足を動かした。
「……はぁ、はぁっ、ったく、出口はどこにゃのよ!」
「アキハバラダンジョンは常に目まぐるしく内部構造が変わっているから。一度入ったら出られず一生このまま……。でも、私はエリナと一緒にいられるならどこでもいいよ……!」
「今そんなアホにゃこと言ってないで、さっさと外に出るわよ」
「はい……って、あれ……夜空だ……」
「え? ……あ、ほんとだ。てか、ここ秋葉原じゃなくて東京駅よね!? 外に出れたの?」
現実と想像世界の境界なく外に出られた四人。
いつの間にか山手線の駅を二つ移動していたわけだが、この近辺にはダンジョンの入口があると報告されたことはない。
「エリナ、人がいる。けど……何かおかしいよ」
一瞬、SS級のダンジョンを脱出できたことに安堵はするも、辺りの様子が変だと気付く。
探索者でもない一般人がみんなスマホ、あるいは街のテレビに夢中で観入っているのだ。
「んー? あ、アイドル踊ってるぅ〜」
松實の言うように、妹系アイドル──玉響ホタルがリアルライブを開催していた。
それを街中が熱狂的に応援しているのだ。
「にゃに……どういうこと?」
「──あ、あれってえりにゃんじゃない!? えりにゃんは大丈夫ですか!?」
野田たちが唖然としていると、様子が普通の女性二人組に話しかけられた。彼女達はえりにゃんのメンシプに入るほどのファンであった。
聞くところによると、このライブが始まってから段々と人々が放心状態になっていき、最終的にはほとんどの人がこの状態に陥ってしまったらしい。
「私たちはさっきまでマイマイの生配信観てたんです。そしたらマイマイと戦ってたこのホタルって子のライブになって……」
「じゃあ、マイマイは!?」
「分からないです。今は動画に出てないけど……」
吾妻の安否不明に、心がざわつく。
バディの東が自分たちを逃すためにS級の模倣者と戦ってくれている以上、代わりに助けに行ってあげたい。
しかし、どこにいるか分からない。
「あ? これ東京タワーじゃね!?」
耳元で叫ぶ生野のせいで野田の鼓膜が破れそうになったが、確かに歌い踊る玉響の背後には東京タワーの上部が見える。
「行きましょ」
「エリナ……!」
「もう、アタシを止められないの分かってるでしょ。だから──んんっ!?」
庭白は突然として、野田と唇を重ねた。
そして深く、喉の奥にまで自分を感じられるほどに、深くキスをした。
「わ〜、ラブラビュ!?」
「え、あ……? ぎゅっ!?」
続けて背負われている松實が顔を出してきたところを器用にも、目の前の光景に固まってしまった生野に有無を言わせずに、同じことをした。
「ちょっ、リリナ!? アンタ酔ってんの!? キス魔なのアンタ!?」
「ち、違うよ……! わたしもよく分かっていないけれど、どうやらこれが模倣者としての、わたしの能力みたいで……」
「えぇ? ……って、あれ。身体が軽い……」
傷がみるみる塞がり、身体の底から力が湧いてくる。
「無理、しないでね」
「……分かってるわよ! ありがと、リリナ」
「うん……!」
「じゃあ行くわよ、マイマイのもとに!」
生野と松實も「しゃあ! やったるぜぇ!」「うぃ〜! れっつごー!」とすこぶる元気になって爆裂に動きまくる。
「……いや、アンタたちはさっさと降りにゃさいよ」
しかし、二人は頑なにおんぶから降りようとはしなかった。




