82本目 1番大きいダンジョンに来てみた!(1番新しくもあるみたい!)
『ふー! おつマイリー! なんとかモンスターを全部倒しましたー! いや〜疲れたね! お肉食べた〜い』
頭に乗っているオーデュイがにょいーんとスライムの腕を伸ばし、自撮り風に吾妻を撮影していた。
吾妻はカメラに向かって、生配信を観ている人に話しかけている。
目の前にはまだSS級の模倣者がいるにも関わらず。
(意味わかんない……ホタルのファンをたった一人で全部倒したの……!?)
彼女は明らかに強くなり過ぎていた。
それは自覚なく(本人は最初からそう思っていたが)、東もこれほどまでとは気付いていない。
キッカケは腹を貫かれて死にかけた時から。
宝具を手にするようになり、そして──
(ありえない! ただの人間がここまで戦えるわけない! 何か理由が……っ、ちょっと待ってこの気配……)
彼女に内包された秘密に気付いたホタルはステージ上から話しかける。
『ねぇ。もしかしてイズモダンジョンに行った?』
『ん? うん! そだよ! って、何で知ってるの!?』
吾妻も驚くが、それ以上に既にSS級ダンジョンに行って帰って来たことに驚く視聴者たち。
誰も疑うことはなく、みんなが素直に吾妻を褒め讃えていた。
(やっぱり、ソウシが手を加えたんだ……! 余計なことを……! そんなことしたらホタルより人間が目立つことになるじゃんか……!)
『……認めたくない』
『みんなコメントありがとー! ……え?』
呑気にコメント返していると、再び地面が揺れ出す。
「マ、マイマイ! もしかしてだけど……あの子も動画出演したいのかも!?」
『そうかも! オーデュイ天才だ! ホタルちゃんだっけ。一緒に動画出ようよ! ほら、ホタルちゃんのコメントもあるよ!』
オーデュイが見当違いを伝え、全力で間違いに乗っかる吾妻。
すると、ホタルは少しだけ怒りを抑える。と、同時に揺れも小さくなる。
『……なんて?』
『【ホタルちゃんかわいい!】とか!』
「【ホタルちゃん強くてカッコいい】もあるよ!」
ちょっと気を良くしたホタルは、もっと見せて欲しいと吾妻に近寄りコメント欄を覗いた。
『……確かにそうコメントある』
『でしょ! じゃあさ、これから──』
『でも! お前の方がかわいいってコメント多い!! ホタルが1番じゃないとイヤだぁ!! ふんっ!!』
吾妻を回し蹴りでふっ飛ばしたホタルが激情する。それに合わせてダンジョンがまた大きく揺れる。
「マイマイ大丈夫!?」
『うん! オーデュイ守ってくれてありがとね!』
オーデュイが瞬時に体を広げ、クッション材として吾妻の身を守った。
コメント欄も【優秀過ぎるレリクスだ!】として、オーデュイは称賛された。
そう、視聴者にはオーデュイを魔物ではなく、喋るスライム型宝具として通している。
かなり無理がある設定だが……何故かマイマイファンは信じてくれている。
『ホタルがいっちばん妹で可愛くて、完璧で究極のアイドルなの! そんなの分かってくれないなんて……ホタル、分かった。もう直接〝魅了〟してあげる』
ホタルが右手に持ったマイクを突き上げると、瞳がサイリウムみたくピンク色に発光しだす。
『おぉ!? なになに!?』
『ハザマおにいちゃんたちがね、ホタルのために色々と準備してくれたんだよ。たくさんのファンが見てくれるステージを……! おにいちゃんがいっぱいできるよって!』
そして、アキハバラダンジョンは崩壊した。
◇ ◇ ◇
「……うっ、動けませんわ。早くここから立ち去らないと……」
ハザマとの戦闘を終えた来海は、疲労と負傷により行動不能となり仰向けに倒れていた。
しかし、崩落の音は無常にも近付いていた。
このままいれば確実に巻き込まれる。
(わたくしはここまでしたか……申し訳ありません、皆様方。そして、爺や、蝶野、優見……!)
迫る天井に、死期を悟った来海はギュッと目を閉じた。
「……あら? まぁ、猛李王さん」
目を開けるとそこには、落ちてきた瓦礫を大剣で防いだ猛李王がいた。
「……痛い」
「猛李王さんのお陰で助かりましたわ。ありがとうございます」
来海のお礼に、猛李王は目を逸らることで答えた。
「……立てるか」
「それが、まだ動けそうになくて……その、お願いがあるのですが……」
そのお願いとは、動けない来海の足代わりとなること。
つまり、正座した来海をその姿勢のまま運ぶのだ。
「ふふっ、少し前まで優見にこうやって運んでもらっていたのになんだか懐かしいですわ」
猛李王は初めて女性と密着(?)したことで身体が硬直、走り方が何だかぎこちない。
今が一番死にそうになっていた。
「……っ!? あの方が消えてますわね」
倒したはずのハザマがいない。
かなり気掛かりではあったが、このままいては二人とも危険なため、来海は猛李王に抱えられながらその場を脱出した。
◇ ◇ ◇
渋谷、スクランブル交差点。
模倣者6名を討伐した佐藤は残った魔物を殲滅した後、路地裏でヘルメットを外してから他の探求省職員と合流していた。
模倣者たちは捕縛され、既に護送された後だ。
もう一名、事前に報告を受けていた尸戸幽鬼の所在だけ不明だが、ひとまず仕事は終了していた。
「……引き続き一般人の避難誘導を──」
『──みんなー! ホタルのライブに来てくれてありがとー♪』
砂嵐が映し出された後、突如として渋谷の広告ビジョンに玉響ホタルが登場した。
それだけじゃない、渋谷の……都内中の広告ビジョンやデジタルサイネージ。さらにはテレビやスマホに同様の動画が流れていた。
「なんだ……? ……っ!?」
地震が起きた。
それに伴って、渋谷10Qを突き抜けて──シブヤダンジョンの入り口から空に向かって光の柱が立ち昇る。
それが他の場所からもいくつも確認された。
光の柱が空で繋がり、いずれオーロラのように移り変わる色をした膜が東京の空を覆っていた。
◇ ◇ ◇
「……ハハッ……何も終わっちゃいない。むしろこっからや」
アキハバラダンジョンに空いた空を見上げながらそう呟いた。ハザマは壁にもたれかかり、戦闘で負った傷を庇っては回復に専念していた。
「デモで注目を集めて東京に人を集める……でもって、洗脳した探求省の連中や魔物を使って、逃げれんよう東京の内に内にと追い込んでいった」
ハザマが尸戸を使役し準備させたのは、凶悪な魔物を透過させるだけではない。
アキハバラダンジョンで採掘できる魔晶石を大量に東京中のダンジョンにばら撒くことだった。
「エンタメには仕込みが大事なんや。ほんまやること多くて大変やったでぇ……」
魔晶石はダンジョンによって性質が異なる。
当然ながら危険等級が高い箇所ほど、品質も高く高価で取引される。
ダンジョンと模倣者が一心同体のように、ダンジョンで自生する魔晶石とも関わりが深くなる──
「ホタルちゃんの宝具があれば、バラ撒いたアキハバラの魔晶石を媒介に、東京のダンジョンを繋いで一つにしてしまうなんて。やったことないっちゅーねん! ハハッ……ほんま、先生の考え分からへんわーって先に宣誓しときゃよかったわ」
東京23区それぞれに存在するダンジョンにアキハバラダンジョンの一部を混ぜ合わせることで、玉響の操作範囲を大きく広げ──一つのダンジョンに組み替える。
それが藤岡辰也が提案した手段であった。
しかし、それだけには留まらない。
「……世界中にダンジョンを生み出す。ワシらの目的が叶いそうやわ。そのためにも人間には、生贄として死んでもらわなあかんな。このトウキョウダンジョンでなぁっ……!!」




