76本目 【爆笑必至!】笑いすぎてお腹が痛いwwマイマイが好きな一発ギャグベスト4!
グチャッ。
「ストラーイク! おい、ザマァ。ざまぁねぇぞ。アッヒャッヒャ!」「あははは!」「いーひっひっ!」「クスクスクス」「フフフ……」「わっはっはっ!」
ワシは──僕は昔、イジメられていた。
別に何かやらかしたわけでも、悪いことをしたわけでもない。
ハリボテの強者の目についたからイジメられる。ただそれだけ。
今は腐った卵をボールに、僕を的に仕立ててストラックアウトの時間だ。
「はーっ、笑った笑った。よし、ザマァ帰っていいぞ」
ザマァとは僕の苗字をもじった、クソくだらないあだ名。
こんな感じで大阪の治安が悪いところでは、中学の段階から不良も多い。ヤクザになった奴もいる。
家にお金はないので、引越しや転校なんかできず、こういう地域の公立しか行けない。あったらあったで、お金を巻き上げられたと思うけど。
だから、僕は家に帰ったら必死に勉強した。
来る日も来る日も地獄から抜け出すための勉強を。
そして──
高校受験に落ちた。
全部落ちた。
受験日は謎の腹痛に襲われて本調子が出なかった。
それに苦手な単元ばかり出た。塾もいってなければ友達もいないし、先生も頼りにならないから一人でやるしかなかったんだ。
とにかく、人生不幸尽くしだ。
結局、行けるところは府内最底辺の高校。
イジメてきた大半の奴らも通うことを知った僕は、入学式よりも先に不登校になった。
親も放任主義だったから「勝手にしろ。金は出さん」の一言。金なんて元々ないだろ。
絶望の中……僕が唯一幸せに感じていたことはテレビで見るお笑い番組だった。
この時だけは嫌なこと全部忘れて、冷たい家族も一緒になって笑っていられる。とても暖かい時間だった。
それに、芸人の中には昔イジメられていたけど、それをネタに昇華できるくらい売れた人だっている。
……そうだ。僕も芸人になろう。
僕は高校生でもバイトできるところを探してお金を貯めて、一年後に大手お笑い事務所、吉田興業の養成所に入所した。
入所して早々、元社会人の人とコンビを組んだけど、ネタの方向性の違いで養成所卒業と同時に解散した。
でも、僕はピン芸人として吉田興業に所属して、いくつかの舞台にも立つことができた。
笑いは全然取れないけど……まぁ、ここからだ。
同期ではシンジンルドルフというコンビが将来売れると噂され、他にもいくつものコンビの名前が挙がっていたが……僕はおろか、ピン芸人にすらスポットが当たることはなかった。
「なぁ、お前オレとコンビ組まんか!? 花田競屋言うんやけどな、もうすぐ三十路っつーのに、まだ誰とも組んでくれへんのよ〜。可哀想やろ、な? なっ!?」
「止めた方がいいぞー。そいつギャンブルで相方に金借りて踏み倒してきたやつやから」
今日出る舞台の共同楽屋に入った瞬間に絡まれた僕を助けてくれたのは、テレビで観たイジメから立ち直って売れた芸人だった。
「そないなことありませんよ〜。ねぇ〜?」
「そもそも僕、貧乏で」
「ほな、ええわ」
と、花田はまた別の芸人を探しに楽屋を出て行った。
「えぇ……」
「ハハッ、ビックリしたやろ。で、あんた名前は?」
「あ、僕は狭間光一言います。芸名も本名でやってます」
「へー、そうか。本名で活動するんは何かこだわりありそうやな。普通覚えられやすい名前とかにするやん」
「まぁ……見返してやりたいと言いますか、僕も、その……師匠みたいにイジメられてもめげずに人を笑わせる。そんな芸人になりたくて活動してきました」
「ほーん……そか。ん? 師匠って……ワシのことか? そんなけったいな肩書き似合わんて」
遠慮する師匠だったが、それでも僕は師匠と慕い、尊敬していた。
この日から、ご飯を連れて行ってもらったりだとか。電気ガス水道が止まったら家に泊めさせてもらったりだとか。
芸人とは。これからのお笑い。なんて熱く語る夜もあった。
色々いじってもらうこともあったので、ツッコミという笑いの基礎を身につけていった。
そして、三年があっという間に経ち、売れることないまま舞台に立ってはスベリ、スベッては起きて立ってを繰り返していた。
師匠もテレビの露出は減ったものの、舞台芸人として多くの劇場に立った。
「──あれ。ない……」
僕のネタスタイルはサンパチマイク前に立って、スケッチブックに書いたネタをダジャレ混じりに話すものだ。
しかし、いつも肌身離さず持ち歩いていた小道具がない。今日は確実に持ってきていた。トイレに行って目を離した隙に無くなっていたのだ。
……誰かが隠した?
嫌な予感が頭によぎった時、僕がもう出番であるとスタッフが呼びに来た。
何の武器も持たぬまま、僕は裸一貫で舞台上で出た。
案の定、スベった。
というよりも、空気が最悪だった。
スベることすらできず、ただ客席から冷たい目で見られ続けていた。
……舞台袖にはほくそ笑む師匠とその連れが視界に入っていた。
「……はーっ、笑った笑った! 狭間の慌てふためきおもろかったで! ほれ、これ返したるわ」
「……師匠が隠したんですか」
「おう。見たら分かるやないか」
「あ、これドッキリとかですかね……?」
「ワシらがそんな視聴率持っとるわけないやろ。いつもの遊びやないか」
「遊び……? いつもと違って、これはネタで必要なものなんです。仕事だけは、僕は本気でやってるんですよ」
「なんや冗談通じへんなぁ。芸人やねんから笑って許せや」
「いや、なんか、その……イジメみたいじゃないすか、これ」
「イジっとるねん」
「けど、師匠だけはこういうことはしないと──」
「うっさいな! おもろかったら別にええやろがい!」
その時、頭の中で何かが崩れ落ちた音がした。支柱が一本しかない塔など、横からの力が加わればすぐに折れてしまうものだ。
師匠と慕っていた人間は、イジメられてきたからこそ他人の気持ちを分かるはずなのに、彼もまた歪んで、あちら側に回ったのだ。
むしろ、そうでないと安心できないのだろう。
テレビに少し出たからと、知名度が他よりあるからって威張り散らし、こんな狭い世界の強者として君臨していたがる。
……呆れたものだ。
この件があってから、イジリはイジメに過熱化。
と、僕が認識できるようになった。
……さて、次のネタ、どうしようか。
グチャグチャの頭で考えた僕は、新ネタを師匠も出演する舞台で披露することにした。
『どもー! 狭間光一です! 今回はですね、爆笑必至! 忘れられないダジャレをさいごに披露しようとおもいまーす!』
「……なぁ、なんか臭くないか?」
「うん……」
『こちらのマッチを使ったダジャレでございます。では、まいります──まっちがえてガソリン近付けたら街が燃えますで。だから火ぃ点けるのは待っちなさい』
僕はマッチを擦り、火を灯した。
途端に会場は大爆発を起こす。
……こっそりバレない程度にあちこちにガソリンを撒いていた。ガソリンが気化された密閉空間で火を付ければ大炎上を起こすってわけ。
仕込みは大切だ。
この劇場が全館禁煙だから事前に爆発もしなくてよかった。
客席も舞台裏も阿鼻叫喚とする中、舞台上の僕はそれを見て、笑っていた。
……ハハッ、どうや……誰も思いつかない誰もできない究極のネタやろ。
『いやぁ、名前だけでも覚えて逝ってください。どもー! 狭間光一でしたー!』
いつもいつも嘲笑われた人生……笑われるくらいなら、僕がお前らを笑ってやる!!
会場が炎に包まれ崩れ落ちるのを、絶命しても舞台から降りずにワシは眺め切っていた。




