75本目 逆境こそチャンス!逆境だぁー!!
「なぁ、なんでお嬢様ソロなん? そろそろ荷が重いことに気付いたやろ。苦い抹茶飲んだ顔してきてるで〜」
来海はハザマに対し、圧倒的な劣勢を強いられていた。
宝具の相性自体は水と火で、来海に軍配が上がるはず。
しかし、模倣者による宝具使用は、本来よりも数段階も力を引き出せるため、来海が放った攻撃は全て蒸発させられてしまった。
「わたくし、苦いお抹茶も大好きですの……」
「そかそか。なら、その脚、もう立てなくなるまで折り続けようか。ワシからの出血大サービスや。いつでも土下座で茶がしばけるな」
「……体のどこを折られましても、わたくし心だけは……」
「──〝白湯華〟」
「……っ」
「お嬢様狙ってるやろ? きっとマイマイのマネージャーから聞いてるやろーなぁーって思ってな。付き人の呪い解きたいもんなぁ〜」
煽りに乗らぬよう、来海は口を噤む。
「いやー! 悪いな! お嬢様みたいな金持ちやったら高値で売り付けたらよかったわー! もういらん思って全部燃やしてもうた。全国の白湯華をぜーんぶな」
来海たちはハコネダンジョン以降も、多くの温泉地にあるダンジョンを巡った。
しかし、白湯華は一輪も見当たらず、場所によっては焼け野原が広がっていた場所もあった。
「だから怪我しても治る、なんて簡単に思わん方がええで。普通失ったもんは戻ることなんてないからなぁ」
「そう、ですか……」
「あー、次はいつ咲くんやろなー。まず咲くんやろか? さくっと新しいの咲くといいんやけどな! ハハハハハッ!!」
「黙りなさい」
来海は流した涙を宝具の力でハザマに飛ばす。
しかし、これも届かず蒸発してしまう。
「貴方の言葉が耳障りですわ。ちっとも面白くないですもの」
「……。それは聞き手のセンスがないだけやで。扇子持ってるだけで満足しとったか? ──〈莫迦発火〉」
来海は宝具で自身の体を涙で覆うも、しつこく炎が彼女の口から吐き出ては包み込んでいく。
「あぁっ……!!」
痛みと暑さに耐えきれず、口を開けば再び炎に焼かれる。
「ほな、笑い死んでもらおか」
◇ ◇ ◇
「ぐっ、かはっ……!」
追い込まれていたのは、来海だけじゃない。
野田もまた、逝来に水の触手で首を掴まれ、吊し上げられていた。
「ほんと何でワタクシの元に寄越したのが、こんなブスでザコなのかしら。マイマイが良かったのに……マイマイが良かったのに!!」
「……ふんっ……上から見てもアンタブスね。全角度ブス」
「黙りなさい格下がぁ。わたくしはS級の模倣者よ。マイマイに纏わりつくから、あなたのことは細かくしつこく調べて全部知っているわよ。B級探索者なんでしょ? ザコでブスなんて救いようないわね。もっと自分磨きしてからの方がいいのでは? ワタクシが保湿してあげるわ」
首を掴む水の触手が広がり、野田の顔を覆う。
「……んんっ!!」
「エリナ!」
溺れゆく野田の姿に耐えられず、庭白は飛び出した。
「あらぁ、そのまま隠れてたらよかったのに。D級のザコが。そもそも人間が定めた指標に従うのは嫌ですけど。ワタクシがSS級ならまだしも、あんな小娘がSS級? 信じられないわ。ねぇ? そう思わない?」
別の触手が庭白を瞬時に捕らえる。
「あはは、ワタクシ心も綺麗だから一緒に沈めてあげる……〈|Iknowyoulockup〉」
二人は同じ水塊の中に取り込まれる。
(エリ、ナ……)
もう意識を失った野田に手を伸ばそうとするも届かない。
庭白もまた、徐々に視界が暗くなっていった──
◇ ◇ ◇
「……しんどい」
S級探索者である猛李王は深手を負ってはおらずとも、葬倉を攻め崩すことはできず苦戦していた。
固く、時には柔らかく流される砂の攻防に、大剣一本では歯が立たなかった。
「ははっ! 私とここまで張り合うなんて、ただの人間にしてはやる、だよね!」
口ではこう言うが、実際、葬倉には余裕がまだまだあった。
相手を見下し、新人探索者たちをいくらでも葬ってきた男。同じS級の肩書きであっても、人間では敵わない。
「あぁ……そろそろ終わりにしよう。むさいおっさんが映った動画なんて伸びない、だよね!」
「……お前のその伸びた鼻を斬り捨ててやる」
◇ ◇ ◇
「しぶといなぁ〜。頑丈お嬢様やん」
肌が焼け焦げようとも、服が焦げ落ちようとも、宝具の扇子を握り締めて、来海が崩れ落ちることはなかった。
「ハハッ、もう涙は枯れ果てたか?」
「……ええ、泣かずとも倒して見せます。勝つまでは」
「それが辞世の句か。やっぱセンスないんちゃう? ほな、さいなら」
ハザマがトドメを刺そうと、炎に包んだサンパチマイクを振り上げた──
「────ぐっ!? これは……」
「……ふふっ、待ち侘びましたわ」
「はぁはぁ……はぁ……? ワシが……攻略された……!?」
◇ ◇ ◇
「ブンブーン、ハローNewTube。どもカイキンです。今回は、ババン【いきなりセンダイダンジョン攻略してみたー】」
センダイダンジョン最深部。
四皇に名を連ねる男、カイキンがS級ダンジョンの攻略に乗り込んだ。
それだけじゃない。
「どもーおわりん部長です!」
「やぁどうも、東海オフレコの──」
「meatman's!」
ヒロシマダンジョンにおわりん部長が。ウメダダンジョンには東海オフレコ、トットリダンジョンにはmeatman'sの6人グループが同時に挑んでいたのだ。
『お嬢様。私達も現在、他の探索者様方とハカタダンジョンを攻略中でございます』
「ふふっ……【観ておりますわよ。引き続き攻略をお願いいたしますわ】」
『かしこまりました』
〝【緊急事態】葵お嬢様が風邪引いたので、付き人だけでS級ダンジョン攻略いたします〟の動画が来海のチャンネルで生配信されていた。
来海は付き人の鈴鹿たちに、スマホから激励のコメントを送った。
「……はぁはぁ、ハハッ……随分余生が長いやないか……。動画観とってもワシは看取ってやらへんで」
「あら、看取られるのは貴方の方では? S級……いえ、もうB級さんかしら。さすが四皇の方はスケジュールに追われてますから、お仕事を巻くのが早いですわね」
人気NewTuberの仕事を押さえるなら数週間数ヶ月前は当たり前だ。
10月31日に何が起きても大丈夫なように、武崎大臣は即座に四皇たちのスケジュールを無理言って押さえてもらっていたのだ。
それを聞いた東が、全国のS級ダンジョンを一斉に攻略するよう依頼した。
現在のS級ダンジョンは──SS級よりも少ないが──6つ該当する。
センダイ、ウメダ、キョウト、トットリ、ヒロシマ、ハカタに、四皇や厳選された探索者、探究省職員が分かれる大規模な作戦が秘密裏に行われた。
(あいつ、手が回らないから攻略までは行われないとワシらに嘘ついたな……!? 裏切りか……何が狙いやっ……!!)
「模倣者はダンジョンの攻略進度によって、強さが変わる……さて、辞世の句を詠みますか?」
「……ふざけんな。詠むわけにはいかんわ!!」
「字足らずですわ」
「お嬢様くらい、攻略されたワシでも……ぅぐっ!? なんやこれ、あぁっ……」
「何事かしら……!?」
ハザマは強く響く頭を押さえて、悶え苦しんでいた。
それは、葬倉と逝来にも同じような現象が起きていた。
「あぁ……何や、この記憶ぅっ……!?」
蘇るは彼の昔の思い出。
──死に至るまでの濁った記憶である。




