62本目 活動休止中にこんなことがありました!
──9月3日
この日、危険等級SS級のアキハバラダンジョン攻略が行われることとなった。
SS級に指定されてから、本格的に政府指導で攻略に乗り出すのは今回が初となる。
13年前までは会いに行けちゃうアイドルの劇場ステージが、今ではダンジョンの入口。
客席には招集された探索者や探求省関係者たち。
メディアは追い出された形で、劇場がある建物を三脚やヘリで囲んでいた。
「東さん居ないんですか!?」
探求省内で押し付けられた大量の仕事をこなす佐藤の元に、そのような報告が入る。
「連絡が付かないと罰せられる可能性もあるというのに……はぁぁ」
「やおくん、どしたのー?」
「あの模倣者がいないんだと。推薦した佐藤が上から怒られることが決定した」
「あちゃー、可哀想なやおくん。ワタシが代わりに行ってあげよー!」
仕事中の佐藤のすぐ側の床で、ミニカーで「ぶーん」と遊んでいた松實と、それに付き合ってあげていた生野。
さらさら彼を手伝ってあげる気はないどころか、全ての仕事を佐藤に押し付けている張本人たちだ。
「すみません、無理です。あなた達は待機が命じられてますから」
「えー、ワタシたち強いのに。ねー、しょーのちゃん」
「確かに。納得できないな」
「ワタシなんてしょーのちゃんの400倍強いのに〜」
「はぁ? おめぇは私の400倍バカだろ」
「うぇ〜!? しょーのちゃん知ってる〜? 0に何掛けても0なんだよぉー。つまりワタシたちの頭の良さは、うー、ゼロ〜」
「うるせぇ!」
集団の輪を乱し、作戦が無に帰すから。
とは言わない佐藤。
「……色々事情があるんですよ」
指示がない限り松實たちを動かせられない。
ユキカナチャンネルでの配信活動自体が、上からかなり譲歩されたものだ。
「東さんがいた方が心強いですが、何とかはなるでしょう。アキハバラダンジョンの最大の特徴は内部構造が常に変わり続けること。マッピングの意味がなく帰って来られる探索者は1%未満……。しかし、特段強い魔物がいるわけではないので、レイドボスなどない限り人海戦術で攻略できるはずですから」
「「へー」」
自分たちの出番がないと悟った松實と生野は適当に聞き流して、またミニカーで遊び出した。
実力派の探索者、人気ダンジョンストリーマー、探求省の探索官など、千人規模の人員が投入された今回の掃討作戦は──ものの二時間で壊滅した。
「一体どういうことですか!?」
緊急で開かれた会議。
繁長玲は動揺から、アキハバラダンジョンから生きて帰って来た探索官を強く問い詰めた。
探求省大臣、武崎は両肘を机に付き両手を口元で組んで、黙って話を聞く。
会議室には他、さっきまで仕事していた佐藤や仲嶺兄妹。管理官の石狩、奥垣、今川が召集された。
報告された内容はこうだ。
9月3日。正午。
定刻通り、アキハバラダンジョンに突入開始。
12:20頃。
ダンジョン内の構造が変化し、いくつかの班が分断されるも、予定通り。常に連絡は取れたので、そのまま探索を続ける。
しかし、12:30頃。
事態は一変。
一つの班が急襲されている報告から、連鎖的に各地で戦闘が開始された。
相手は凶悪な魔物や厳しい環境ではなく、
「模倣者です。それも複数個体。探求省管理下に置かれていた者、未確認の者、そしてハザマなどのブラックリストに登録された者など、10人近くの模倣者が確認されました」
「だから言ってるだろ! 奴らは人類の敵だ!」
「まぁまぁ今川管理官。まずは話を聞くことですよ。それで、どんな子たちがいたの?」
石狩管理官が宥めたところで、探索官の男性は情報が整理されたものを語り始める。
──探求省の管理下に置かれていたはずの模倣者は四人。
「──ふぅんっ! そんな固さじゃ何も守れないぞっ! もっと筋肉付けないとだなっ! まぁ、全部破壊するがっ!」
東亮、庭白リリナのように、模倣者には生きていく上で与えられた、あるいは自分で付けた社会名が存在する。
社会名、滅木琉護。
危険等級C級、ヒメジダンジョン出身。
タンクトップ姿の彼は全身を硬質化させ、全てを打ち砕いた。
「──キャハハ! おっそ、どこ見てんのか……ねっ!!」
社会名、堀喪戸妃菜。
危険等級C級、スミダダンジョン出身。
両脚をバネにして、ダンジョン内部の壁や天井を自由に跳び回る。
「──ヒックッ、うぃ〜、酒が足りないなぁ。君たちは酔ったことがあるかぁ……? 泥に溺れるまでよ、ヒック。ヒッ、宝具ゥ:泥酔酩酊」
社会名、川蝉遊介。
危険等級B級、イワクニダンジョン出身。
持っている一升瓶をひっくり返すと、中から茶色く粘着質のある液体、泥が溢れ出す。探索者たちの立つ地面にまで広がると、泥の中へと引き摺り込んで行く。
「──わぁ、やることエグいね」
「ん? ヒックッ、なんだ迷ったのか。お前の担当はあっちだろぃヒクッ」
「違う違う。ボクはもう終わったから。ほら」
社会名、棺千夏。
危険等級B級、ミトダンジョン出身。
一人称をボクと呼ぶ彼女が見せたスケッチブックには、人間が怪物から逃げ惑う絵が、パラパラ漫画の如く動いていた。
「ぜーんぶ閉じ込めちゃったんだ♪」
「ヒックッ、趣味わりぃ……」
さらには探求省の目すらすり抜け、既に社会に溶け込んでいた模倣者。
報告された内容と撮影された顔写真から後日特定される。
「──ふふっ……あはははっ! 気持ちが良いでしょう。あなたたちのために、用意した猛毒よ。ゆっくりおやすみなさい……ふふっ」
社会名、毒島虹穂。
危険等級A級、アマミダンジョン出身。
普段は東京のコールセンターで働く彼女。
蛇のような目つきで、目の前の人間が毒で溶けていくのをジトッと見つめている。
「──んー? 君はどんな悲鳴を奏でてくれるのかなぁ? おっ、いいねぇ〜君いいよぉ〜。君は〝シ〟の音がベースだね! これでドレミが揃ったよぉ〜!」
社会名、苦瀬素暉。
危険等級A級、シマバラダンジョン出身。
捕まえた探索者たちを針で拷問し、相手の顔が歪めば歪むほど、少年のように目を大きく開いて輝かせながら、追加で針を刺していく。
彼らは潜伏しながら、時に自分の欲を満たすためだけに、市民を襲っていたことが、のちの調査で判明する。
「──そして、ハザマと葬倉聡明、さらに石狩管理官からの報告があった逝来朱莉など確認。状況からしても間違いなく、模倣者たちが計画的に襲撃したと断定してよいかと……」
さらに報告で受けた被害の中には、誰もいないのに突如襲われたなどの報告もあり、まだ未確認の模倣者が存在する推測もある。
「アキハバラ掃討作戦は大々的に報道していた。そこをまんまと突かれたわけだな」
「しかし、彼らの目的は何でしょう。模倣者を集めたところで──」
「武崎大臣!」と、繁長の会話を遮り、一人の男性管理官が入ってきた。
「現在、会議中です。用があるなら後で──」
「構わん。続けさせろ」
「は、はい……(なんと、器の大きい……! すきっ!)」
「ハザマです。ハザマがNewTubeで動画投稿をいたしました! それだけじゃありません。アキハバラダンジョンから帰還していないはずのダンジョンストリーマーも同時に動画を投稿しています!」
放火系ストリーマーとして、ディープウェブで活動していたハザマが表立って、しかも初の完全顔出しで動画投稿したという。
急ぎ、会議室の大きなモニターに映し、内容を見届けることにした。
最初に映ったのは、ハザマが悲しそうな表情で涙を流していた場面だった……。




