63本目 活動再開します!みんなおまたせ!!
『この動画を観てくださっている皆さん、多くの人が初めまして、ですよね。ハザマと申します』
関西弁やダジャレを取り入れたいつもの喋り方ではなく、丁寧な言葉遣いで話すハザマ。
『僕たちは〝模倣者〟──と呼ばれる存在です』
「すぐに動画削除させろ」と仲嶺兄が言うも、もう遅い。
動画は既に拡散されているだけでなく、他のダンジョンストリーマーも同様の件を配信していた。
『僕たちはダンジョンで生まれました。だから探求省からは魔物と同じように括られて、狩られ、捕らえられては酷い拷問や実験を繰り返されてきました』
裏付けるように提示するのは、探求省の悪事が書かれた記録書や写真の数々。
「ふん。模倣者の言うことを誰が信じるか。偽造文書を並べたところで誰が……」
「あら、全て本物だねぇ」
「嘘だろ!?」
模倣者管理官責任者、石狩博衣が言うならば間違いのない事実。
「それよりも、厳重に保管していたものが外部に漏れ出ている現実に危機感を抱くべきだねぇ……」
機密文書を探求省から持ち出して流用させた者、つまり……裏切り者がいる。
疑心暗鬼になる中、ハザマのスピーチは続く。
『──生まれた場所は違えど、僕たちもみなさんと同じ人間です。僕たちはただ穏やかに暮らしたいだけなんです……。──10月31日。渋谷。模倣者の人権を得るためのデモ活動を実施します。もし、賛同してくださる方がいらっしゃいましたら、共に参加していただけると嬉しいです。配信もいたしますので、遠方の方は視聴だけでも──』
と、ハザマはただ真面目に宣告をし、意外にもあっさりと動画は終わった。
しかし、投稿された動画はこれだけじゃない。
『──探求省が長年ひた隠しにしていた真実が!』
『──アキハバラダンジョンで見てしまいました。どうして立入禁止なのかなと思っていたのですが……』
『──ハザマがディープウェブで活動していたのは、NewTubeだと削除されるからなんですよね』
『──探求省がいつも揉み消してきた。彼が芸能人や政治家の悪事をバラし、正義を執行しているだけだと言うのに!』
「──上手いな。足りない情報を他のストリーマーの動画で補完することによって、まるで大多数が賛同しているかのように視聴者は勘違いする。自ら情報を得ているつもりが、敵の思想の沼に嵌る」
「しかし、ボス。この動画を観てください」
『【緊急配信】模倣者に騙されるな。彼らは嘘を付いている』と、ハザマに少し遅れて配信された生配信があった。
「このダンジョンストリーマーもアキハバラダンジョンに向かった者です。彼のように正常な方が、模倣者を否定する動画も上がれば……」
「彼は正常じゃありませんよ」
繁長の言葉を遮ったのは佐藤だった。
「あ、すみません。僕もこの動画を倍速で確認しましたが、正直印象が薄い。人は自分が信じたいと思ったものが否定されれば、より強く信じるという傾向があります」
例えば、暴力を振るう恋人に悩まされている人に周囲が別れなよと告げても、「悪いところもあるけど、良いところちゃんとあるから」と、真実を見ようとして周りが見えなくなること。
「認知バイアスだな。これもハザマの仕組んだものだと」
「はい。何よりも、僕たちを批判することの方が世間にとっては面白いですから」
ダンジョン関連を全て取り仕切る探求省を目の敵にする人は多い。
その後、浦山好奇をはじめとした多くの都市伝説系配信者が取り上げてしまい、さらに世間に認知されてしまう結果となる。
「この配信者たちはみんな……もしかして洗脳されている? 紫草という男の仕業でしょうか」
「すみません、僕もそう思います。アキハバラダンジョンに行った人たちはもう……」
「待て。──ならば何故君は無傷で帰って来れている」
武崎が制止すると、報告に来ていた探索官の男が口を開く。
「それは……模倣者の方に私は優しくしていただいたので、こうして無事でいるのです。私もそうでありたい。だから、皆さんも一緒に生まれ変わりましょうよ!」
「「「っ!?」」」
男が叫ぶと、胸から炎が湧き出し、そして大爆発を起こした。
……しかし、探求省職員はもちろん、部屋も彼が立っていたところが少し焼け焦げたくらいで被害はなかった。
今川の宝具:鏡壁虚像──〈六面鉄壁〉
手鏡型の宝具で、鏡に映した狭い光景内に障害物がなければ、現実世界で好きに不壊の壁を作成可能。鏡から対象を外せば消える。
「駿介くんは魔法少女みたいだねぇ」
「あまりそう言わないでください……!」
また、突然仲嶺兄妹が佐藤の隣席に再出現する。
もちろん今日も肩車。
「僕たち置いて瞬間移動ですか」
「愛莉以外はどうでもいい」
「おにいちゃんったらラブリ想い〜!」
「──彼もまた洗脳されていたとは……奥垣管理官。上書きできそうですか?」
「無理だわ! 〆切多すぎて死ぬっつーの!!」
繁長の質問に、奥垣は悲鳴を上げた。
「──会見を開こう」
武崎の言葉に、それぞれ会話していた人たちの注目が集まる。
「しかし、ボス……!」
「メディアに顔出しをしているのは私だけだ。それくらい大臣の責務として当然だ」
「ボス……(かっくいー!)」
そして、探求省は数時間後には例の動画について会見を開くなど、迅速な対応を見せた。
だが、待つのは非難轟轟の嵐。
模倣者について。探求省が隠してきた事実。何よりアキハバラダンジョンで多くの犠牲者を出してしまったという結果が、彼一人に全て責任がのしかかることとなった。
◇ ◇ ◇
「──ということがありました。すみません、長かったですよね」
探求省内の個室にて、佐藤と対面してこの二ヶ月で起こったことを聞いた。
10月25日。
今日までに確認できるは模倣者は皆、探求省内へと保護されている。
庭白リリナや吾妻の母、那緒子さんもだ。
現在、吾妻は母親の元にいる。
きっと彼女も模倣者について全て聞いているところだろう。
世界に存在が完全に公にされた以上、吾妻に隠しておく理由も手段もない。
ただ気になるのは、吾妻は俺が人間じゃないことを知って、どう思うか……。
「あ、東くん。いた〜。ねぇ、聞いてよ! お母さんが意味不明だったの!!」
「……模倣者のことか?」
まぁ、正直この反応だろうなと分かっていた。
人語を話す魔物がいれば仲良くなりたいと言っていたぐらいだ。
「そうそれ! あっ! あと、東くんもだって聞いたよ。も〜、何でそんな面白いこと言わないの〜」
「……わざわざ言う必要がなかったからだ」
「おぉ、なんか大人っぽい。さすがイミテーター……!」
「関係ないな」
「さて、東さんたち」
佐藤が話の指揮権を取り戻す。
そう、さっきまでは経緯を聞いていただけで、目的としては一番最初に話されていた。
「来週のハロウィン。ハザマたちは必ず姿を現します。すみませんが、彼らを止めていただく手助けを──」
「任せて!」
元気よく吾妻が即刻答えた。
「話が早くて助かります」と佐藤は安堵した表情を浮かべた。
「吾妻さん。相手は知能を持った魔物だ」
「わたし最強だからだいじょぶだよ♪ それと東くんはイミテーターだけどモンスターじゃないでしょ?」
「え?」
「東くんは東くんだよ! 天才のわたしの賢いバディ! そうでしょ!?」
「……あぁ、そうだな」
彼女は俺が何者であろうと、そのままで接してくれる。それが何より嬉しくて……緩んだ顔を披露したくないから俯いたまま答えた。
「──えぇ! 焼肉屋さんあるの!?」
「はい。すぐそこに探求省が運営する魔物の肉を用いた焼肉屋があるのですが、ぜひ──」
「行く!!」
……ほんと、直情で動くよな、こいつ。ちょっと感動していた俺気持ちを返せ。
まぁ、いいか。
マイマイ復帰祝いをまずしないとだ。
「肉でも食べながら、来週の作戦でも考えるか」
「おー!」




