60本目 これがダンジョンストリーマー流〝アンチエイジング〟!!
「モフモフ〜!」
「おにくー!」
「すやぁ……」
柔らかいぬいぐるみ、漫画に出るような骨付き肉、豪華絢爛なふかふかベッドと、欲求三連コンボを喰らった吾妻は巫女服姿のまま眠りに落ちた。
「ソウシは天原ソウシ! ソウシのことは神様って敬いなさい!」
知らない宗派の衣装に身を包み、奇怪な舞いを披露するイズモダンジョンの模倣者──天原ソウシ。
「ね、ね? すごくない? ソウシったらこんなことも創造できるってわけ。すごいわよね? すごーい!」
「あれらは実在しているのか」
「本物に決まってるっしょ。森羅万象、あらゆるものはエネルギーの源と流れからできているから。それらが濃く、結晶化した物が下々民の言葉でいうところの魔晶石──ソウシは魔晶石のエネルギーの行方を〝編集〟することで好きにできちゃうの。そう! ソウシは世界の編集者!」
「吾妻をここに誘拐したのも、同じ力か?」
俺は本題を切り出した。
「んふ♪ まぁねぇ〜」と天原はニヤつきながら頷く。
多用はできないみたいだが、集中すればダンジョン外に視点を移し、気に入ったものは何であれ持ち込めるらしい。いわばチートな直行便が使えるわけだ。
イズモダンジョンは入口時点から電波が一切通らないが、天原の能力ならダンジョンの外に出ずとも世界情勢を把握できる。
──創造・編集が自在にできる、さらにはアップデートの要領でこの世界に連れ込んでしまう、まるでサンドボックスゲームような力……危険すぎる。
「マイマイ可愛くて強いよね。悔しいけど、ソウシよりもね! だから、彼女こそが次の世界を導く者として相応しい」
「過激なファンか? あいつはこういうのによく好かれやすいな……」
天下星羅こと逝来朱莉や、親友で変態色が強い金子悠。
それに多くの関わってきた人はみんな吾妻のことを好いている。
これだけ急成長するダンジョンストリーマーの中では珍しく、アンチの数は少ない方だと思う。
「天性の才よ。あの子には周りを惹きつける力がある。それこそ神が信奉を集めるよりも、もっと強大な力が。普通の人間とは違う器を持っているのよ」
スヤスヤと幸せそうに眠る吾妻の枕元に、瞬きの間に天原は移動し、彼女の頭を撫でた。
「おい、気安く触るな」
「あら? マイマイはあなたの何なの? 止める権利をあなたが持っていまして?」
「……っ。マイマイのバディだ。うちのタレントはお触り厳禁だ。当たり前だろ」
「あら、ごめんなさい♡」
今度は麗しいお姉様のように話す天原。
相手は一人のはずなのに、大人数と会話しているみたいだ。数的不利に意見が押し負ける感覚に陥る。
「どうして吾妻を、人間を攫うんだ。他の奴らはどうした」
「他の? あぁ、選ばれなかった下々民には興味がないの。ソウシはね、神として有望な人間に力を分け与えるのよ。言ったでしょ? この先の世界を導く者が必要なの。でも、ソウシの試練に耐えられなかったものは自我を失い、皆抜け殻のようになってしまう。そういうのは外に捨ててるから、そっからどうなってるかは興味ないなー」
イズモの神隠し。
実態は天原が気に入った人々を連れ込んだ結果、期待にそぐわなかった者は抜け殻となって入口に捨てられることだった。
「もしかして吾妻にも同じことをするつもりか」
俺は再び行われる戦闘に備えて「ん? 何を言ってるの?」
「……なに?」
「もう終わってるよ。あんたが来る数えて35分前には全てね」
思わず俺は吾妻を見た。
「うーん、モフモフ……」と寝言を言っている。別に何の変哲もないただの吾妻のままだ。
あの探索者とSS級の模倣者との間に生まれた娘だからだろうか。天原が言う抜け殻のようにはまだなっていない。
しかし今の彼女の中には、膨大な魔晶石のエネルギーが内包されているというのか……!?
「マイマイは若いわね〜。吸収がとても良いわ! もうソウシの力が全部吸い取られちゃうくらいなんだからぁ!」
「彼女を戻せ。さもないと、お前を消す……!!」
「──今のこの状況、見えてねぇわけないよなぁ? もう二度と目を覚まさないよう悲劇のヒロインへと編集することもできるんだぞ」
再び偉そうな男になった天原。
どんなに友好的に接していようとも、やはり根本的に俺たち模倣者は……どこか狂ってる……。
人質にされている状況にも関わらず、「くかー」と吾妻が起きる気配は一切ない。
「……吾妻から離れてくれ」
「別に彼女には何もしたくないさ。せっかく見つけた先導者たる器なんだからよ……。まぁ、今は何も起きないよ。いずれ来るその日まで……ソウシたちは更新されるマイマイの動画、楽しみにしているよ。──だから、また遊びに来てね〜」
多重人格の天原はそう言って、吾妻の元を離れた。
入れ替わりに近付いた俺は、微睡みの中を迷子中の彼女を起こした。
「吾妻の服は?」
「掃除したよ? ソウシ、いらないものはいらないから」
他人の物を平気で処分する、どこまでも自分勝手な奴だ。
仕方ないから吾妻の格好はそのままに、イズモダンジョンの入口へと向かった。
振り返れば、止めることなくただ笑顔で手を振っている天原の姿が見えた。
「わー、ソウシくんバイバイ〜」
フワフワした状態で隣を歩く吾妻だが、彼女の中には底知れぬエネルギーがある。
それは正にいつ爆発するか分からない時限爆弾みたいなもの。
無理やり切ろうにも、今の俺ではどうすることもできない。
何をやってるんだよ俺……。
自分の力不足に歯を食い縛るしかなかった。
◇ ◇ ◇
「──時代の流れは刻々と加速していく。さて、彼らは戻った時に追いつくことができるかな。それとも、時代を作るのか……。さて、世界はもうすぐ次の段階に入る」
吾妻にとっての夢の国は消え失せて、形成していた魔晶石のエネルギーは天原の元に戻る。
「んー、見送ったのはいいけども、ソウシも久々に外出て、みんなに会いに行っちゃおっかな。ぜったいソウシに会えて嬉しいよね♡」




