57本目 しばらくの間、活動休止いたします。
9月1日。
吾妻舞梨は学校にも姿を現さなかった。
追加で連絡を入れても相変わらず未読のまま。
母の那緒子さんに電話で聞いても『昨日から帰って来てないよ。てっきりダンジョン近くで泊まってるのかと』と思っていたという。
吾妻はよく連絡もなしで、好き勝手色んな場所に行ったり友達の家に宿泊するから、一日くらいは疑問に思わなかったらしい。
ただ、それでも連絡すれば、速攻返信してくるのが吾妻舞梨だ。
代わりに100万人突破した記念に頂く金の盾が宅配便で届いただけで、それ以外何も帰って来なかったらしい。
「じゃ! また明日、学校でねー!」
昨晩、確実に俺は吾妻を彼女の最寄駅まで送った。
呑気な顔して手を振り、自転車を立ち漕ぎして去る吾妻の背を見えなくなるまでは見届けた。
あの様子から、自ら電波の届かないどこかに行ったとは思えない。
考えられるのは事故や事件に巻き込まれた、でもそれなら警察や病院から連絡が来るはず……ならば誘拐された……?
そうだ、吾妻はチャンネル登録者数100万人を超えた人気ダンジョンストリーマーだ。
いつ、過激なファンやアンチから狙われてもおかしくない。
もう立派なタレントだと言うのに、何で俺はそこで家まで送迎しなかったのだろう。
吾妻は「そこまで心配しなくても大丈夫だって! いけるいける〜」と余裕ぶっていたが、過保護だと馬鹿にされても無理やりにでも付いていけば良かった。
自責と後悔ばかりが頭を巡り、心ここにないまま、気付けば始業式が終わっていた。
「東」
突然、吾妻の親友でもあり切り抜きチャンネル〝切り抜きマイマイ〟を運営する金子悠に声をかけられる。
「昨日から舞梨の既読付かないんだけど。それに今日来てないし……何か知ってる?」
少し苛立ちながら金子は俺に詰めてくる。
しかし、情報も心当たりも何も持っていない俺は首を横に振るしかなかった。
「そう、役立たずね」
猛毒が過ぎるぞ。
「あぁ、どうしよう。舞梨、無事かな……悪漢とかに攫われていたらどうしよう。もしかして、ドジって事故を起こした!? あぁ、どちらにしても心配……」
「まだ、一晩しか経ってない。そこまで焦らなくとも……」
「焦るわよ! あの舞梨がこんなに返事しないなんて寝てる時以外ないのよ!? それとも、東は心配してないわけ? はい、見損なった。スタッフ引退ね。じゃあ、舞梨から即刻離れて」
「──心配してないわけないだろ……!!」
「……うっ!? ……ごめん、ちょっと調子乗って言い過ぎた」
「……いや、こちらこそ。別に、金子さんがそう受け取ったのならそれで構わない」
俺に対して、初めて反省の色を見せた金子。
だが、彼女の言い分はもっともだ。
不安でいっぱいなはずなのに、どこか冷静に装うとする自分がいた。
学校を休んででも吾妻の行方を追った方がよかった。だが、闇雲に捜したって意味ないこともわかっている。
ひとまず彼女と交流のある配信者に連絡は入れたものの、目ぼしい情報は得られていない。
いまだに公的機関からの連絡もない。
なお一層、誘拐の線が高くなる……。
ワゴン車等で複数人の男性がいれば、残念なことに自転車に乗った女子高生一人を攫うなど造作もない。
ただ、不思議と吾妻が一般男性に誘拐される画は想像できないな。
それは彼女が強いからとか、この辺の治安が良いからとかではなく、あくまで勘なのだが……
しかし、そんな思い込みに頼っている場合でない。
今夜、那緒子さんと警察署に行って、行方不明届を出すかの相談をしなければ──
「舞梨……ほんとどこに行ったのよ……うぅっ……」
まだ教室に人がいるにも関わらず、金子は泣き出してしまった。
すぐに見つけないと……。
それに、このままだと活動休止を余儀なくされてしまう。
金の盾まで貰ったNewTuberが行方不明ともなれば、ネットニュースに掲載されてしまう。
良い噂より悪い噂の方が10倍も早く伝わる。発見後も行方不明のままだと誤解して、彼女の活動に影響が及ぶことも。それは一番吾妻が嫌がるに──
「──ん……? 金の盾……?」
「……どうしたの?」
「チャンネル登録者数に応じて貰える盾があるだろ。あれって、5年前から達成した瞬間に直接本人に届くようになってるんだ」
シンジュクダンジョンで吾妻が登録者数10万人を達成し、銀の盾を貰った時もそうだった。
それは金子も生配信で見届けていたから知っている。
魔晶石が含まれた盾に、とある宝具を使用することで可能とした技術。
NewTubeの運営を行うGolgle社の日本支部が行うそれは、時に動画の演出ともなる評判の良い仕様。
「だけど、今回吾妻のお母さんに電話した時、」
「なんであんたが那緒子さんの電話番号知ってるのよ。家族から取り込むつもりなわけね?」
「バディなんだからそれはいいだろ……」
金子家に吾妻が泊まりに来ることもあるらしく、その流れから彼女も那緒子さんと面識はあるようだ。
……こいつ、寝ている吾妻に何もしてないよな?
まぁ、今はいいや。
「……金の盾が家に届いたと言っていたんだ。ダンジョンストリーマーとして収益得て活動する際に、今は個人情報を登録するから当然なんだが……」
「あ、銀の盾は舞梨のところに直接飛んだのに、金の盾が家に届くのはおかしいのか」
「あぁ。設定で変えられるが、そんなことはしていない。だとすれば、家に届いたのは、宝具でも捉えられない場所に現在、吾妻がいるというわけだ。つまり、あいつは今──ダンジョンにいる。それもおそらく電波の届きにくい、危険等級の高いダンジョンの可能性が高い」
「ダンジョン!? 舞梨ったらまた勝手に行ったってこと!?」
「そう、かもしれないが、とても今から行くようには見えなかったな……」
「えぇ……。……あ、もしかして神隠しに遭ったんじゃ……」
「神隠し……?」
「知らない? 結構有名な都市伝説。〝イズモの神隠し〟を」
そのタイトルを聞いて思い出す。
都市伝説系NewTuber浦山好奇が挙げていた動画の一つにあったな。
「確か裏なんとかって人の動画で有名になった話なんだけど。イズモダンジョン前で、倒れている人が見つかることたまにあるでしょ。あの人たちってみんな数ヶ月前に行方不明になった人たちなの。しかも、ここからはその動画で観たんだけど、その人たちってみんな消えた若手のダンジョンストリーマーだって」
「つまり吾妻は今、イズモダンジョンにいるって言いたいのか」
「あくまでも、かもしれないってだけよ。ただ、みんな舞梨みたいにパッタリ消えたって……。正直、現実的じゃないけど、舞梨にとってはこれが一番現実的じゃない!?」
「確かに、金の盾の件も含めたらあり得る話だが……」
「あ!」
「今度はどうした?」
「そういえばそのNewTuber、駅の本屋さんでサイン会するってポスターで見たような……」
金子はツッタカターですぐに検索すると、確かに近くでサイン会することを宣伝ツイートしていた。
「もっと詳しいこと知ってるかもしれない」
「ただのNewTuberがか? いや、でも確かにこいつは──」
「やばい! もうすぐサイン会終わる!? まいりー──!」
「って、おい!」
必死な金子は藁にもすがる想いで、学校から徒歩15分先にある本屋へと走って行く。
俺もすぐに彼女を追いかけた。




