53本目 【削除覚悟】人語を話せるモンスターがいるらしい……?
『みなさんは考えたことないですか。なぜダンジョンが日本にしか発生しないのか』
浦山好奇。
チャンネル登録者数48万人の、主に都市伝説を配信するNewTuberである。
ぶっ飛んだものから、かなり芯をついたものまで。ダンジョンに関連する考察を毎日あげている。
真実であろうとなかろうと、世間が何に注目しているかも把握できるので、俺は情報収集の一端として利用している。
今回のテーマは〝ダンジョンの出現位置〟についてか。
日本神話になぞらえてみたり、某国の実験施設の跡地としたり、地震が多い環境が故の地盤変動であったりと──どれも知識が乏しいと納得させられてしまうような論理を並び立ててくる。
このような都市伝説はエンタメとして楽しむ分には構わないが、これに触発されていらぬことを引き起こす輩もいるから取り扱いには注意が必要だ。
「東くん! この動画観た!? 言葉を話せるモンスターがいるんだって!」
ほら、吾妻舞梨がいい例である。
半個室カフェで料理を待つまでの間に彼女が意気揚々と見せてきたのは、浦山好奇のある動画。
その魔物とは、もちろん俺たち模倣者を指していた。
情報を完全に隠蔽することは不可能。そのため探究省が取った手口は、大量の偽情報を拡散することで真実を埋もれさせること。
その動画は視聴済みだが、魔物の正体は迷い込んだ宇宙人だと的外れなことを結論付けているので無視していた。
「言葉を話せるモンスターか〜。もし、本当にいるならお友達になれるかな?」
「……どうだろう。ただ吾妻さんなら大丈夫だと思うよ」
「知ってる!」
人間の真似事をした模倣者を、人間として認めるかどうか。
世間に存在が大々的に公開されれば、この議論が世界中で加熱するだろう。
簡単に認めてしまうわけにもいかないことは分かっている。
模倣者にも能力の差はあれど、俺たちが人以上の力を有していることは間違いない。恐れ、排斥する者だっている。中には〝新人類〟として神と崇め奉り、それを利用した洗脳ビジネスも起きることも有り得る。
何よりも……初期の頃は非人道的な実験を繰り返し、いくつもの模倣者を殺してしまった探究省の黒い歴史がある。
失墜を免れるため、今後も情報統制には躍起になるだろう。
それこそ葬倉が言っていたのは上記のことである。不遇な扱いを受けた者たちがこのまま泣き寝入りするとも思わない。
「会ってお話ししたいな〜。動画にも出てくれるかな!」
みんな彼女のように楽観的であればいいのに。
しかし、人間の文化と歴史が複雑に絡み合っているからこそ、ほつれることない強固な縛りで、現在の世界が成り立つことができる。
仕方ない。仕方のないことなんだ。
「よーし! じゃあ、言葉を話せるモンスターを探す動画でも撮ってみようか!」
とっくに出演は果たしているんだけどな。
俺に庭白、何より吾妻母の那緒子さんだってそうだ。
父である大悟が勝手にビワダンジョンを探索し、秘密裏に那緒子さんを外に連れ出して、気付いたら吾妻舞梨が生まれたという、探究省にとってなんとも頭を抱える事案もあった。
昔は色々あったらしいが──無駄に敵に回したくないからなのか、今回の家の修理など支援も多くしてくれている。
もし、彼女が人間と模倣者のハーフであることが世間にバレた場合……彼女の置かれる状況がどうなることかは想像に容易い。
そうなっても、俺は……。
「なんかこの人の動画にヒントとかあったりするかな〜。えーっと、『神隠しに遭った人々の行方』、『探究省が抱える闇』、『なぜ宝具は現代の道具と同じ形で出現するのか』──なんか難しいことばっか言ってて分かんない」
考えることが苦手な吾妻にとって、こういったものは苦手なジャンルっぽいな。
多くの考察系がいる中で、浦山好奇の着眼点や推理は群を抜いて素晴らしいと、都市伝説側の俺はそう思っている。
数打ちゃ当たる動画数ではあるが、それでも膨大な情報量と正確さに、探究省の人間かいっそ同じ模倣者ではないかと疑ってしまう。
『疑うか疑わないかは君次第!』
と、浦山はお決まりの文言で動画を締める。
「見てみて東くん! このラーメン美味しそう〜! えーお腹すいた〜。食べに行こーよ!」
関連でオススメされた無関係の動画に、吾妻の興味は一瞬で移った。
まぁ、変に都市伝説にハマったり、模倣者について調べようとするくらいならそれでいいか。
目の前で、大きなパンケーキを食べながら飯の話をする吾妻に、「明日ダンジョンに行くし、この後新しい防具買いに行くか」と提案すると、「んー!」と口を閉じながら満面の笑みで喜んだのであった。
◇ ◇ ◇
「お、返り討ち第二弾が帰って来よった」
「違うわ。ただの推しイベよ」
「見苦しい言い訳は良くない、だよね!」
逝来は水流を即座に葬倉へとぶつけるが、完全回復した彼の身体を貫くことはなかった。
「おいぉ〜い、どうして仲間内で争ってるんや。数少ない模倣者同士。お互い労ろうや」
「ハザマさん、数はどこまで集まりましたか」
「なんや居たんや紫草。カッコいいスーツなんか着て、学校はええんか」
「ええ。面倒な事務仕事は他人に振り分けられるので」
黒縁眼鏡をクイッと掛け直し、紫草は適当な椅子に座る。
ちなみに逝来と葬倉はまだいがみ合っている。
「宝具使わずそれできるとか、ほんまズッルイ能力やな。羨まし〜。まぁええ。ワシら4人に加えて、探究省管理下に置かれてる4人と野良で2人。計10人やな。ちなみにS級レベルはワシらだけ。悲しいもんやで〜」
「数少ない模倣者を見つけることすら大変でしょう。努力した成果は見られますよ」
「さすが先生。モチベ上げんの上手やな〜」
「私も探究省に潜り込ませている生徒とはよく面談しますが、省内の情報管理は思っているよりも徹底されてますね。非公開なだけで、記憶干渉の宝具が探求省の手元にあるのは間違いないでしょう。能力も全体像も不明な以上、作戦の実行に移すのは時期尚早と言えます」
「あぁ、あいつか。〝無意識な裏切り者〟の……可哀想に」
「私の可愛い生徒ですよ。……ただ一つ、分かったことは、近日中にSS級アキハバラダンジョンの大規模攻略が行われるとのこと」
「ほぉ、アキハバラか。ちょうどええな、そろそろそのレベルの仲間が欲しいおもてたんよ。ワシらSS級に三連敗中やしな」
「「負けてはない!」だよね!」
逝来と葬倉が息を揃えて言い放つ。
しかし勧誘も殺害も一筋縄ではいかないあのペアを一旦後回しにする判断がなされた。
「では、向かいますか。アキハバラに」
「せやな。ただSS級ともなるとー、さらにさらに一癖も二癖もあるからなぁ〜。……さぁて、どないしよか」




