43本目 【衝撃】睡眠は一日取ると……起きた時スッキリします。
本来はカルイザワダンジョン内で野宿をするつもりだったが、それは取りやめてダンジョン近くの病院にすぐに行かせた。
しかし、医者からは「特に問題ありませんね」と言われただけで、念のため程度の鎮痛剤を貰うだけで終わった。
松實は入院になった。
「ユッキーが心配だからちょっと様子見てくるね!」
吾妻は廊下を走って、生野と共に松實の病室に向かった。
走るな、病院で。
……だが、本当に彼女は数時間前まで、生死を彷徨っていたのだろうか。
吾妻舞梨。ずっと俺は君を見守ってきたはずなのに、一体……
「東さん」
丑三つ時。
病院の明かりは最低限のものと非常灯のみで、あとは外からの月明かりのみだった。
そんな暗がりの中から現れた佐藤に、俺は呼び止められた。
「今回はありがとうございました。危険な模倣者を退かせていただき助かりましたよ。ほんと東さんは模範的な方だ」
「……全て知っていましたか。もしかして佐藤さんも……」
「すみません、僕はただの人間です。ただ、あなたたちを管理する側ですが」
「っ!? 探究省の人間……!」
「えぇ。探究省所属、迷宮内部調査官の佐藤弥央です」
探究省はダンジョンに関する全てを取り扱う省庁なので、当然多くの組織が内部に存在している。
彼の仕事は、言うなれば探索者と殆ど変わらない。
ただ国直属になるので、相当な実力が求められる──ただあの蹴りを見れば、それは一目瞭然か。
「なぜ国家公務員が配信活動をしているんですか」
「あれは……あの二人のワガママです。彼女たちも同じ班に所属してますが、まぁ、しつこくて……。それで顔出しなしで済むVNewTuberという形であればと認可されました。隠しててすみませんでした」
「別に構いませんよ。探究省に勤めていることを公言するなと言われてるでしょうから」
理由はひとえに恨みを買いやすい職業だから。
悪人や犯罪組織、某国にとっては宝の山であるダンジョンをまとめて管理する探究省の存在は邪魔だ。
だが、一番に彼らを狙う存在は──
「何故それを模倣者である私に教えたのですか」
「あなたは信用できると思ったからですよ、東亮さん。以前から資料で確認しておりました。毎月の定期検診も欠かさずに来ていますし、社会生活にも問題なく溶け込めています。そして何より、僕たちを守ってくれたじゃないですか。これだけの理由が並べば説明するには十分かと」
「それでも正体まで明かす必要はなかったはずだ。本当の狙いは何ですか」
「……すみません、バレますよね──近々、SS級ダンジョンを攻略する動きがありまして。そこで、東さんたちにも攻略隊として参加してもらおうかと思いまして」
わざわざ頼み込まなくても、探究省の指示なら行かされるというのに。
いや待て。東さんたち?
「ええ。察しの通り、マイマイこと吾妻舞梨さんにも参加していただけないかと」
「ダメだ」
「すみません、僕だけの意思ではひっくり返ることはないんです。龍型のレイドボスを討伐する証拠映像まで残ってますから」
あれを裏で仕留めたのは俺だが、討伐動画をでっちあげたことが漏れては吾妻のブランドに傷が付くので、この件は口を噤むことにした。
「それでも彼女はまだB級だ。SS級なんて、当分……」
「東さんはもうご存知でしょうが、僕はこの目で見ました。普通では考えられない自然治癒力を。寝ていただけなのに、誰かに縫合されるように傷が塞がり、気付いた時には治っていましたから。僕たちとしては、彼女を研究させてもらいたいくら──」
「やめろ」
俺は戦闘体制を取った。
ここが病院だろうが、相手が政府の人間だろうが知ったことではない。
「すみません、怒らせてしまいましたか。僕にその気はないですよ。ただ、政府は既にマイマイをマークしています。いずれ本格的に調査が入りますよ」
「その時は信用を全て投げ捨ててでも、お前らを排するだけだ。……だが、そうなる前に、吾妻については俺が調べる」
「なるほど……。すみません、お手数をおかけしますが、できたら共有していただけるとありがたいです。もちろんそのまま上に流すのではありません。情報を精査し、東さんたちの都合の良いように資料を整えておくだけです。それが、僕たちのできる精一杯のお礼ですから」
俺も彼女については知りたくなった。
共有する代わりに、当然政府が掴んだ情報も共有してもらうという交換条件の元、話は成立した。
「では、SS級ダンジョン攻略について、現段階では──」
「えっ!? なになに〜!? 何の話!?」
「……すみません、長話がすぎましたかね、では、これにて失礼します」
「えー、何の話だったのー?」と立ち去る佐藤と入れ替わりに吾妻が走って来た。
病院では走るな。それに叫ぶな。
とにかくさっきまでの会話を深く聞かれたくなかったので、「松實は大丈夫そうだったか」と話を逸らした。
「うん! ふぇふぇ言ってたけど、大丈夫だと思うよ〜」
「そうか……」
「……ん? どうかした?」
「今度さ、吾妻さんの家に行ってもいいか」
「うん! もちろん! ……えぇっ!?」
今は夏休み。
この時期に友達の家に遊びに行くのは、よくある話だろう。
それにいつもお世話になってる(している)お礼を、吾妻のお母様には直接しておきたいことだし。
ただ、彼女を知るためとはいえ、吾妻のプライベート空間に立ち入るのは緊張する。
いきなりストレートに突っ込み過ぎただろうか。怪しまれているかもしれない。
「う、うん……いいけど、絶対引かないでよね?」
心なしか吾妻の頬が赤くなっていたので、風邪だと疑い、もう一回医者に見せたが、超健康体だと言われて突っぱねられてしまった。




