44本目 【人は話し方が9割】あとは元気が10割!会議はダンス、されどアズマイリ!
「いやぁ〜ひさしぶりの会議だねぇ〜。みんなワタシに会いたくてたまらなかったんだろうなぁ〜」
「違うから」
「えぇー、でもしょーのちゃんはワタシに会いたかったよねー。だって毎日お見舞い来てくれたもんねー!」
「おめぇがいねぇと、仕事できねぇんだよ」
「しょーのちゃんが照れてる〜」
「照れてねぇよ!」
「すみません、静かにしてください。もう会議室入りますよ」
黒いスーツ姿に身を包んだ佐藤、松實、生野は探究省の長い廊下を進んでいた。
松實は退院したが、まだ腕にギプスを付けている。ただ、調子の良さは変わらない。
「──来たか」
「失礼します」
探究省会議室。
部屋の奥に座するのは、探究省大臣、武崎健太郎。
体のあちこちに古傷を抱える、十数年前はトップ探索者の一人として名を馳せていた人物である。
「みんな見てみてー! ワタシ骨折したんだよぉ!? ほらぁ!」
「松實さん、もう少し落ち着きなさい。今年いくつですか」
「にじゅきゅ! ワタシのチームでは一番お姉さんだからなぁ〜、頼られて困っちまうぜ」
武崎の傍に立つ、仕事のできるカッコいい女性代表のような風貌の繁長玲に注意されるも、「デヘヘ〜」と目上に対しても態度は変えない松實。
「お前、今年まだ28だろ」
「あれーそうだっけー? ま、しょーのちゃんよりお姉さんなことは変わらないからいいじゃ〜ん」
「1、2才上なだけで調子乗るなよ」
「しょーのこーはい〜、チョコ奢ってあげようか〜?」
「うるせぇ! 私チョコ嫌いだわ!!」
「静粛に」
武崎の低音が響く渋い声に二人は黙る。
会議室には性別年齢層がバラバラの人達が多くいるが、みんなが等しく武崎大臣に注目している。
それだけ人望が高い証拠だ。
「すみません武崎大臣、うちの者が失礼いたしました」
「佐藤、いつも言っているだろう」
「はい、すみま──」
「ボスと呼べ」
「……ボス」
ただ、ちょっとだけ拘りは強い。
「今回、カルイザワダンジョン攻略の件、ご苦労であった。回収した宝具などは専門家に任せるとして──君たちが会敵した模倣者について、詳しく報告してもらおう」
「はい」
佐藤はカルイザワダンジョンで遭遇した葬倉について、東から教えてもらった情報と合わせて事細かに報告した。
松實が「ワタシの腕を折った悪いやつなの!」と口を挟むが、流されるくらいには重々しい雰囲気が場を支配する。
「……そうか。分かった。やはり模倣者の活動がここ数ヶ月で活発化してきているな」
「──数も増えてきてるねぇ。うちに来てる子たちはみんな良い子だけれど」
模倣者管理官──情報非公開である模倣者の管理・監視するだけでなく、定期検診から彼らの健康の管理や能力把握。そして、これらを他の技術へ転用できるかの研究など幅広く活動している。
「まぁ、ほとんどB級C級の子たちだから危険度は低いけれどね。問題なのは力がある子たちなのよねぇ?」
その代表、石狩博衣は縁側で茶を啜っているような小さなおばあちゃんだ。その朗らかさと面倒の良さから、模倣者からの信頼も多く集めている。
「ええ。現在探究省が確認しているS級ダンジョンの模倣者は三人。佐藤探索官が遭遇したトットリダンジョンのジャスティスマンこと戸籍名、葬倉聡明。彼はソーソーという歌い手としても活動していましたが、既にこちらはNewTube運営に申請し、アカウント削除をしております」
「──アァーずぎだっだのにぃ……また推しが消えた……悲じぃ!」
机に突っ伏してワンワン泣く女性。
パソコンやスマホ、ペンタブなどの電子機器からアナログな書類まで、彼女の前だけ散らかっていて汚い。
「奥垣管理官。仕事中ですよ。趣味の道具は仕舞いなさい」
「趣味だとぉ! これは私の人生だよぉ! 〆切明日までだから見逃せぇ!」
奥垣柿枝。
迷宮情報管理官──ダンジョンに関する多くの情報を取り扱う大事な仕事だが、現在情報は散乱。
ストレスで白くなった髪を掻きながら、会議にまで持って来た自身の同人誌を仕上げるのに手一杯だった。
「はぁ、続けます。他二人はディープウェブにて放火系ストリーマーとして注目を集めるウメダダンジョンの模倣者、ハザマ。そして、顔出しこそしていませんが、洗脳系ストリーマーとして信奉を集めるキョウトダンジョンの模倣者、紫草。当然ながらまだ未確認もいるはずですが、今は彼らの対策を──」
「──そんなもんダンジョンを攻略したらいいじゃないか」
クイッと眼鏡を上げてから説明する繁長に口を挟んだのは、立っているように見えて座っている男、仲嶺真守。
身長が230cmもあるのに痩せ型なので、マッチ棒を三つ折りしたみたいになっている。膝が机の上から出るくらい、ガニ股でないと座れない。
「──おにいちゃんの言うとおり言うとおり! 攻略しちゃったら弱くなるなるんでしょ? ラブリもおにいちゃんに賛成賛成ー」
仲嶺真守に肩車して座っているのが、仲嶺愛莉。
兄の半分、身長が115cmしかなく、隣に彼女のために用意された席はファミレスで見かける子供用の椅子だ。
だが、彼女は23才であり、かつ今でも兄が大好き過ぎるブラコンなので、追いかけるように若くして探究省に入省し、仲嶺兄からは絶対に離れなかった。
「それが難しいからこそS級なんです」
「ならディープウェブを閉じりゃいい」
「そだそだー!」と仲嶺妹は兄の上から野次を飛ばす。
「既に何度もアクセス遮断していますが、また開設されてはのイタチごっこになっています」
「ラブリー! ワタシとしょーのちゃんならS級攻略しちゃうよ!」
「………………」
「しょーのちゃぁん! ラブリーが無視する〜!」
「はいはい、黙れ」
仲嶺愛莉は兄を通さない限り直接は話せない。
彼ら兄妹も松實たちと同じ探索官ではあるが、配信活動こそしていない。
「──佐藤探索官」
「はい」
「君は危険等級SS、ヨナグニダンジョンの模倣者と共闘したらしいじゃないか。彼は、使えるか?」
「……彼は間違いなく信頼はできます。僕が保証します。ただ、彼は今、マイマイこと吾妻舞梨のマネージャーです。吾妻さんを守るためならばどんなことでも協力してくれますが、彼女を危険に晒すようなことをすれば、すぐに僕たちの敵に回るでしょう」
「では、探究省の人間には、吾妻さんのサポートをするよう通達しておきましょう。……ボス、いかがなさいましたか?」
右腕を押さえる武崎は不適な笑みを浮かべていた。
「……吾妻か。懐かしい名だ……。右腕が疼くな……」
「ボス……(カッケー……! やっぱボスカッケーなぁ! 大臣は匿名覆面の探究省で唯一正体を出さないといけない責任者……であるのに、あちこち傷を背負ったまま前線に立つその姿……! 好き♡)お知り合いですか?」
「あぁ、顔見知り程度にな」
(昨日、油はねしたとこ痛いな……揚げ物難しいな。あれは熱かったなぁ……)
武崎の傷はほとんどが自身のうっかりで付けたものである。
もちろん繁長含めて、誰もそれは知らない。
……そして、踊る会議室。
本当に踊る松實。
これら探究省の人間を見て、佐藤はこう思った。
(国家公務員のくせに、どうしてうちの人たちってこんなにも癖強いんだろうなぁ……)
謝り癖でもまだキャラが薄いほどに、ここにいるメンツはかなり濃かった。
改めて、この人たちと並ぶなら裏方でいいなと思い直した佐藤であった。




