27本目 炎上しないよう気をつけます!
「ガッ!? な、なんだよお前……!?」
吾妻たちが最深部へと墜落する少し前──
俺は敵意を辿って見つけた数人組の男を、ものの数秒でしばき終えていた。
胸ぐらを掴んでいるこいつ以外は、既に気絶させた。
「マイマイに何の用だ。返答次第ではこのままダンジョンに捨て置くぞ」
「べ、別にマイマイって子には興味ねぇよ。ただ、俺たちはえりにゃんのファンだっただけさ」
「だった?」
「あぁ、こんなにも応援していたのに、あの女は俺のことを見向きもしてくれねぇ! 同じような気持ちを持った同志が集まってよ……。そしたらあの人が手伝ってくれたんだ」
「あの人って誰だ」と尋ねるが、男は目を見開いたまま大笑いしている。
醜いものだ。ガチ恋からアンチへと転落する様は。
一方通行の気持ちが、こうも捻れ、歪んで行動に移すとは。
それに付け込む男諸共、吾妻に危険を及ぼす人間はここで──
「あーおかしい……。ほら、そろそろ幕が上がるぞ」
衝撃音。建物全体が揺れを起こした。
そのはずみで掴んでいた男を離してしまうが、揺れに耐えきれずすぐにこけたので、また捕まえる。
「おい、何をした……!」
「俺たちはまだ何もしてねぇ! ボロボロになったえりにゃんを好きにしていいって話だからさ……! 今頃、暴れてると思うぞ。あの人はレイドボスを召喚できるんだ! 早く逃げた方がいいんじゃないかぁ、逃げられるならな、あはははぅはぐぁっ!?」
大笑いの声に合わせて、男の口は爆発した。
すぐさま火だるまとなった男から、俺は瞬時に離れる。
「あああっつい!! 熱い熱い熱いぃ! ぎゃぁぁぁ!?」
気絶した他の奴らも含め、炎は勢いを増し……いずれ煤となって消滅した。
こいつらはただのおこぼれを狙うハイエナ。それをペラペラと唾液を垂らしながら喋るから……黒幕によって、口封じとして消されたのだろう。
始末するのに姿を現さず、未だに居場所の特定も不能。気配を消すのが上手い相当な実力者だ。
蹂躙の末に亡骸が落としたフルフェイスのヘルメットを奪って被り、まずは吾妻たちを助けるためにさっきの場所まで急ぎ戻った。
フワフワと吾妻を心配してるかのように彷徨っていたファイヤーフランタンの案内で、一気に下まで飛び降りた。
本来ならば、間に合わなかった。
だが、野田の命懸けの加勢と、庭白の視聴者への呼びかけ。
何より吾妻自身が頑張ってくれたお陰で時間が生まれ、全員を無事に助けられた。
それでも、彼女たちはボロボロに傷付いていた。
一番酷いのは野田だ。左脚からの出血多量により、このままダンジョン入口まで戻っては、命が助からない。
吾妻も元気そうにしていたが、あんなに傷だらけになって……。
「──見つけたぞ」
「……ハハッ、もう見つかってもうたか〜。かくれんぼはそっちの勝ちやな、マイマイちゃんのバディ。いや、ヒーリョーやったけ?」
「うるさい」
「あ〜、ひりょいなぁ〜。ワシ傷付いてまうやんか〜」
目の前の男は、視聴していた野田の救助配信を切り、スマホをポケットにしまう。
当然ながら、ダンジョンストリーマーは必ずしも全員が良い人なわけがない。
むしろ、現実から離れた異能力を悪用して犯罪行為を平気で行う輩がいる。
〝ディープウェブ〟
──闇が蔓延り、悪が闊歩する、ネット世界から閉じられた特殊なサイト。
世に出回ってはいけないものが売買され、金さえ積めば人権すら掌握できてしまう。
そこには宝具や武具の力で依頼をこなすものがいる。ミノブにいた転売ヤーもこういう奴らの下っ端として活動している。
「まさか探究省のブラックリストに載るようなお前がここにいるとは思わなかった。放火系ストリーマー──ハザマ」
「あちゃ〜! 有名人なんだよな〜ワシ。夢にも出るほどワシが恋しいか? ゆめゆめ忘れんようにしてな〜ハハッ!!」
自分で言ったクソ寒いダジャレに一人でウケながら、彼はヤミトチョウの都庁室の椅子に座っていた。逆さまだというのに。
一人称はワシかつダジャレ好きとおじさんみたいだが、容姿はかなり若い。普通にしていれば好青年の部類に入るだろう。
爆笑する口のデザインが描かれたマスクで顔半分を隠す彼は、関西訛りの独特な喋り方をしている。
ディープウェブの中でもかなり求心力のあるハザマだが、表舞台に出てくることは滅多にない。
特定できない場所から配信を行い、他のダンジョンストリーマーに限らず、多くの著名人や経営者を失脚させることを言いふらかす。
真実と──嘘から生まれる真実をだ。
「で、急用か? 報復でもしに来たんやろか、そんなん視聴者みな抱腹絶倒もんやで〜。見な損やで、生配信しよ。って、あかん、すぐ休養してまうかっ!」
「黙れ。こっちは急を要している」
「お、自分返し上手いやん」
「色々と問いただしたいところだが、要件は一つでいい──持ってるだろ。白湯華」
こういう奴は自分が傷付くのを恐れている。
のらりくらりと話を逸らして、会話の主導権を握りたがり、自分ではなくいつも誰かに話を集中させる。
痛がりのくせして目立ちたい痛い奴なのだ。
だからこそ、保険がある。体を完治する宝具:白湯華を常に持ち歩いているはず。
「はくとーかー? 何やろなーそれ」
「白湯華が発見されたのは現在までで三回──そのうちの二例目、カメオカダンジョンに自生していた百輪を超える白湯華を一人の男が全て独占して持って帰った事件があった」
「お花に名前でも書いてたんか? ダンジョンは誰のものでもないんやから。もっとフリーダムな世界やろー」
「難病すら治す宝具の秘密を紐解けば、医学は大きく進歩するとして探求省の職員が厳重に警備していた。……お前はそこにいた14名の職員を全員殺しただろう」
「ほな、その人間にも名前書いておけばよかったやん。自由やねんから」
「ああ、そうだな……!」
俺は一気に詰め寄り、ハザマの顔面を殴ろうとした──が、ぼんやりと消えた。
「宝具:笑炎演上──陽炎下郎。おぉー、怖っ。殺す気か!」
ハザマが上下逆さまに座れていたのは、炎でできた幻影だったから。
さらに俺を逃がさないようにか、部屋中が炎に包まれた。
ちっ、ここにもいないのか、本体はどこだ……!?
「──ワシはなぁ、世界が笑いに満ち溢れて欲しいんだよな」
いつの間にか背後に回り込まれていた。すぐさま裏打ちをするが、それすらもかわされてしまう。
熱気に包まれていく……このままでは喉は焼き切れ、肺が焦げ、骨まで燃えてしまう。
「爆笑嘲笑冷笑なんのその! ワシはな、舞台と客席の狭間に立って、人々を笑わせるんがワシの仕事よ! ワークワクするやろぉ! 仕事だけに!」
「この下郎がっ」
「おっと、これ以上戦うのは止めようや。ワシが勝てる未来は見えへんねんから。はい、僕の負けー、ってな? ワシとは等級がちゃうねんから」
すると突然、一輪の白湯華が目の前に現れたので、眼前でキャッチする。
すぐさま飛んできた方向を見るが、ハザマの姿はまた蜃気楼のように揺らめいていた。
「それ、今回の参加賞。まだ活躍してもらわな面白くないからな〜。ワシは後輩をちゃ〜んと面倒見る優しい先輩やから。マイマイちゃんがワシみたいに成長するか楽しみやわ」
「お前と一緒にするなっ!!」
「キレ芸にキレないで。またネタ練り直しなはれ。ほな、今日はこの辺で」
ハザマが消えると、辺りを覆っていた炎も瞬時に消える。
室内は全焼した火事のように全て黒く焦げていた。
いずれハザマは再び吾妻の邪魔をするだろう。
その時は容赦も逃しもしない。
だが、今はいい。
手に入れた一輪の白湯華を届けるため、すぐに吾妻たちの元に戻った。




