26本目 登録者10万人突破!みんなありがと〜!!
銀の盾を手に入れた吾妻は、ムカデからの執拗な攻撃を動体視力だけで全部防ぐ。
だが、一撃が重い。
盾を持つ左腕には痣ができ始めていた。
「うぅ、このままじゃやられちゃうぅ……よぉし!」
吾妻は注意を引きながら、魔物を野田たちから引き離すようにして逃げる。
「前になっがーいモンスターを倒したことあるもんね! こういうデカいやつは、拡散だぁ!」
撹乱である。
ダンジョン最下層に広がる大穴を縦横無尽に逃げ回る吾妻、こうすれば巨体な魔物は付いていけない。
はずが、ただの巨大なムカデではなかった。
なんと節目ごとに分裂し、それぞれが個体として活動し始めたのだ。
「いやぁー! キモーい!!」
威力は弱まったが、増える攻撃の手数。
「うっ、痛っ……!」
次第に吾妻の身体にも当たるようになり、なす術もなくただボコボコにされてしまう。
「──このままで終わってたまるもんですか」
「エリナ、これ以上動いちゃ……」
「バカ! 新人に好き勝手されるのムカつくでしょ。それに、このまま死ぬだけなら、最期くらい派手にバズってやるわよ……!!」
野田は左脚に刺さった鉄筋を、歯を食い縛りながら無理やり引き抜いた。
「宝具:吾輩は猫なのだ。──猫獣人!!」
吾妻を助けるため、小さく分裂したムカデの魔物を次々と引き裂いていく。
「えりにゃん!」
「あー! もう! ムカデがキモい!! 嫌い! さっさと追い払うわよ!!」
「うん!!」
二人は背中合わせとなり、襲いかかる魔物を野田が引き裂き、吾妻が背後を盾で守る。野田が自由に動けないので、これで少しずつ削っていくしかない。
だが、魔物も単純ではなかった。
再び合体して巨大な姿に戻ると、また大きくなって突進してきた。
「ふん! ぐっ……あぁ、盾が!」
一度は攻撃を防いだものの、銀の盾は二つに割れてしまった。
また、力任せに突進してくる魔物──
『──みなさん、お願いします。あの魔物を倒すために、チャンネル登録お願いします……!』
戦闘中、庭白は飛ばされたカメラの元まで向かい、視聴者に登録を呼びかけた。
【えりにゃんのバディ? かわいい】
【儚い……】
【戻ってやるか】
91万、92万──
【登録必死で草】
【でも登録するだけならタダだろ】
【頑張って〜】
93万、94万、95万──
【サブ垢作りました】
【いつも応援してます!】
【おぉ、めっちゃ増えてる】
96万、97万、98万、99万──
【チャンネル登録しました。みんな生きて帰ってきて!!】
「──あ、金の盾……」
チャンネル登録者数100万人。
達成すると届く金の盾──
それが野田の手に渡った。
「……っ! これでどうよ!!」
金の盾が再度魔物の渾身の一撃を防いだ。
「わぁ! すごい!」
「でも、これじゃ倒せない。ただ時間を稼ぐだけしか……!」
「──充分だ」
すると、一際輝く光が上から降りてきた。
「あ! フランちゃん!」
ファイヤーフランタンは吾妻のことをちゃんと所有者だと認識しているので、彼女がどこにいるかは常に把握している。
そのフランちゃんと共に降り立った一人の男。
フルフェイスのヘルメットを被って顔を確認できないが、少なくとも吾妻たちを庇うようにして前に登場したので、敵ではなさそうだった。
「待たせた。よくここまで耐えてくれた」
「あ、アンタはマイマイのバデ──」
「ひ、ヒーローが助けに来てくれたぁ!?」
「……え? いや、この人アンタの……」
「……あぁ、ヒーローだ」
野田はこの男が誰だかは、声と変わっていない服装ですぐに分かった。
だが、そんなの吾妻が気付くはずがない。
「もう、いいわよ。……来るわ!!」
ムカデ型の魔物は巨体の本体を残しつつ一部分裂した個体で、四方八方から襲いかかってくる。
野田たちは盾を構えるが……魔物は一つ残らず木っ端微塵に消し飛んでいた。
「なっ!?」
突っ立っているだけの彼がきっと何かしたのだろうが、動体視力が向上した野田の猫目にすらも、何も捉えられなかった。
「とうとう目覚めちゃったか……マイマイの覇気的なのが!」
「はいはい、そうね」
「協力してくれてありがとー! えっとー、お、お名前は何ですか!?」
「えっ……。……ヒーリョー」
「ネーミングセンス無っ」と野田は辛辣に言った。
「か、カッコいいー!!」
だが、吾妻も同じセンスレベル。
目をキラキラと輝かせて、興奮冷めやむことはなかった。
「──エリナ……!!」
カメラを抱えた庭白が野田たちの元に合流する。
と思ったらカメラを投げ捨てて野田に抱きついた。
「ちょ、カメラ!?」
「エリナぁ……無事で、無事で良かったよぉ……」
「……もう。分かったから。離れてって」
野田は照れながらも、ワンワンと泣く庭白を自分から一度引き剥がす。
捨てたカメラを拾って、無事であることとチャンネル登録してくれたことについて感謝を伝える。
コメント欄には安堵と歓喜の声が流れているが、PCは向こうに置いてきたので、何を書かれているのか野田からは確認できない。
だが、そんなことは今はどうでもよかった。
それと同時に、【なんか知らない探索者来たけど、あれは誰?】【最強の再臨か!?】【あのヘルメットの正体は誰?】とも話題になっていたが、三人がそれを知るのはもう少し先の話である。
「ここから脱出するなら、そのランタンを使えば一人ずつだけれど上がれる。じゃあ」
「どこ行くのヒーリョー!! 一緒に出ないの?」
「ここから先はプライベートだ……まだ残したことがあるからな。だから撮影禁止だ」
「そっか、じゃあまた会おうね!」
「ああ、またな」
そして、ヒーリョー──こと、東亮は出っ張った壁の部分を足場にして、跳んで上っていった。
「ぅはぁ……! か、カッコいいー!」
憧れの眼差しを向ける吾妻。
毎日会って一緒に撮影してる仲であることは、この先気付くことは一生ないままである。




