13本目 ハコネダンジョン初攻略!ついでにレイドボスまで倒しちゃった!
『マイマイパンチパンチ!!』
彼女が二度言ったので、後方から石を二回投げつける。
効いていそうな叫びは上がるが決定的なダメージにはならず、再び地に落ちることはない。
とても頑丈でしぶとい。石如きでは当然倒せそうにはないか。
「吾妻さん」
『ん? なにー?』
「魔物を撹乱したい。吾妻さんならグルグル走り回れるんじゃないか? 舐めプしてやれ」
『おっけー! 任せて! 龍さんこちら! 手の鳴る方へ♪』
吾妻はゴツゴツした岩の中をパルクールしてるかのように跳び回り、不安定な足場を駆けて行く。
元より運動神経が良いのは知っていたが、そのレベルはアスリートをも超える。
それに加えて単純な思考、先を考えないアホさ──つまり、物怖じしない性格だからこそ、どんな状況でも最大限なパフォーマンスを披露できる。
……ちゃんと褒めているぞ。
もちろん、彼女の猪突猛進は下手なことをやらかすかもしれない。
だからこそカメラは片手で吾妻を捉え続ける中、たまには石を軽く投げ付けて、意識をこちらに引く。
……さてと、湯気の影響もあってか、吾妻からはこちらを視認できないはず。
使わせてもらおう──宝具の力とやらを。
「宝具:侘び寂び──〈静寂之涙〉」
この宝具の使い方はどこかのまとめチャンネルが、全国のNewTuberが使っている場面を切り取った『宝具使用時まとめ』なる動画で、一度観たことがある。
俺は右目から一筋の涙をさっと流し、宝具の扇子を使って、魔物の真下にある温泉に涙を投げ入れる。
『たっだいまー!』
早っ。もう吾妻が一周して戻って来た。
俺は宝具が見つからないよう背後に隠す。
『見てよこれ! キレイなお花見つけたー!』と、手には一輪の白い花を持っていた。
凶暴な龍を前にして、そんな余裕もあったのかよ。身も心も強者の振る舞いそのものだな。
まぁ、タイミングはちょうど良い。
「吾妻さん、なんか適当に水っぽい技名叫んでみて」
『わかった! んー、〈みずみずバズーカー〉!!』
ネーミングセンス皆無。
だが、発言に合わせて俺は、涙が含まれた温泉のお湯を全て引き出し──まるで吾妻の手から放ったように巨大な水の大砲として魔物にぶつけ、空になった底の深い温泉の中に撃ち落とした。
『……とうとうわたし、こんなことまで……!』
「すごいすごい。じゃあ、これを」
俺はマッチを吾妻に渡した。
火を起こせるものがないかと散らかった来海たちの荷物を見れば、これが落ちていたので使用することとする。きっと蝶野がコンロを点火する際に使うものだ。使った分はもちろん後で購入して返却する。
今からこの魔物を爆破する。
硫化水素ガスが鱗の間から出ていることは分かっていた。
ただこの魔物の能力の正体はただ硫化水素ガスを出すことではない。空気の流れを操ることだ。
思いのままに火球を飛ばし自身が爆発に巻き込まれないよう、しいては宙に浮けるのもその能力のおかげだ。
常に硫化水素ガスを身に纏うよう循環させ、弱らせる時だけ相手に流し込む。
それにつられてか、ダンジョン内の湯気も魔物を纏うように集まってくるから視界が悪くなる。
「じゃあ、火をつけたら捨てて。もうガスマスクを取っても良さそうだから、カメラ目線で」
『うん! 火を付けてっと』
彼女は火が付いたマッチを魔物がいる穴へと指で弾き……
『じゃあまたね、バイバイ』
──見せたことのない、大人びた表情で別れの言葉を言う。
……一瞬呆気に取られたが、俺はすぐさまお湯で蓋をする。
瞬間、大爆発。大炎上。
お湯だけでは全て防ぎ切れず、火柱が高く上がる。
『イェーイ! まいったか〜! ……あれ、東くんどうしたの?』
見惚れた。
こんなこと言えるはずがなく、「……吾妻さんが強すぎて、思わず感激しただけだよ」と適当に嘘ついた。
……俺たちは演者と裏方。それに、それだけじゃない。こんな浮ついたこと、許されてはいけないんだ。
『えへへー、それもそうか〜』
こいつは浮かれてるが。
噴き上がった火柱はお湯を蒸発させたのち、消えていった。
『みなさーん! おっきなドラゴンを倒しました! それでは、すごい! カッコいい! と思ってくれた方は! 高評価とチャンネル登録、よろしくねー♪』
でもまぁ、何も知らない彼女が楽しそうに撮影しているわけだし。
俺は浮かび上がりそうな微笑を必死に殺して、カメラ越しの彼女と目を合わせた。




