129本目 まだまだ続くよクリスマス♫
「そんな湯切りザルでわたしは倒せませんよ。どうぶつさんたちを葬ったその罪。必ずや贖罪を……!」
「──天使のラーメン……エンジェルラーメンは天にも昇る美味さなのか」
「え、まさか……こ、この人……わたしを食材として見てる!?」
「……じゅる」
「ヨダレ垂らしてる!? くっ!」
イラミィは不利を読み取り、敗走しようとした。別にわざわざこの男を倒さなくてもいいからだ。
しかし、彼の食への欲求は収まらない。
狙いを付けられたら最後。もう彼女は空の上にはおらず、まな板の上にいる天使でしかない。
「数枚の羽だけでいい。是非ともエンジェルラーメンを! 〈昇龍〉」
盛影はその場で回転し空気を切ると、大きく舞い上がりイラミィの片翼を捉えた。
「あぁぁいっ!!」
「いたっ!? くっ……」
太めの注射針に刺された感覚がイラミィを襲い、彼女は堕ちていく。
「殺しはしない。絶滅させてはもう食えないからな」
ラーメンに全てを賭けた男。盛影流。
究極のラーメンのためなら非情にも慈悲深くもなれる。彼の前では皆が箸を突き刺されている状態にあるのだ。
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『──ヤバッ、なんか追いかけてくるし!?』
『ひぃ〜まってぇ〜もうつかれた〜』
『さぁ⭐︎ ボクちんの魅力を世界中に届けたまえ!』
ミッチーは撮影しているゆめほのチャンネルに目掛けて飛来していた。
『……おい、俺を無視すんじゃねぇ……遠回しにラブリに無視されてるって皮肉ってんのかぁ!?』
宝具:天涯飛隣
視界に入る場所に、自身と触れている者も合わせて瞬間移動ができるロケットペンダント型の宝具。
なんと写真も入れられる。もちろん相手は愛する妹の肖像写真。
ミッチーの背後に現れた仲嶺は天使を一撃で蹴り落とす。
『あはーん♡ 散るボクちんも美し……い……』
恍惚な表情を浮かべ、ミッチーは地に散る。
『ヤバッ、助かった……』
『てめぇら、危ないから離れろって言われてたんだろ。野次馬根性で近付くんじゃねぇよ』
『『すみません〜』』
『反省0かよ、ちっ……ん? お前ら……よく見たら元S級の模倣者じゃねーか』
『『ギクッ!?』』
ハカタダンジョンの模倣者──社会名、弔江夢乃とヒロシマダンジョンの模倣者──社会名、亡音穂乃。
彼女たちはハロウィンの日、素直に保護に応じていたため今は自由の身だが、元S級なので監視も強かった。
が、S級ダンジョンはまとめて攻略されてしまい、力が弱まるなどとばっちりを受けている。
『関係ねぇだろうけどよ、一応お前らも事情聴取するから付いてこい。勝手にどっか行ったら適当にしょっぴくからな』
『……ヤバッ、探求省の人間だったのかよ最悪……』
スーツ姿ではない完全私服、しかも胸に大きく妹の写真がプリントアウトされたTシャツを着る男がまさか政府の人間とは、到底思えなかった。
『ぽぉ〜』
『どうした穂乃? ……はっ! まさか!?』
桃色の表情を浮かべる亡音に、いつものことのように弔江は察する。
『俺に付いて来いだって〜男らしくて素敵〜』
『惚れっぽいのまた出てるぞー。どーせすぐ幻滅するんだから。さっさと戻ってこーい!』
◇ ◇ ◇
「さすがはSS級模倣者。探索者でもない僕なんかが敵うわけない。でも、そんな危険な奴を吾妻さんの側に置いておくわけにはいかないんですよ!」
主人公みたいなセリフを本気で言う向井。
別に吾妻が彼と付き合ったところでそれなりの幸せは手に入るかもしれない……だがどうしてか、気に食わない。
自分が隣にいる権利はもう手放すつもりではいる。ただ、あいつにも渡したくない完全私情で、俺はこいつを倒す。
それに、あいつが平々凡々な幸せで満足するとも思えないし。
宝具:ベクトルアローの能力は厄介だ。しかし使い手が素人であれば、力を完全に引き出すことはできず大した脅威にはならない。
外れた矢に当たったなしおやじが空を舞う中で、向井までの道筋を見つける。
彼個人に恨みはないが……男として、一回ぶん殴ってみせる。そう決めた。
「……女性を取り合って決闘する。熱いですね。僕も物語の登場人物になったみたいだ」
ニヤッと苦笑いを浮かべる向井の頬を、俺は痣にならない程度に軽く殴った。
◇ ◇ ◇
「──これらとこの人間だけで、東亮の本気は出せるのか?」
「さぁ〜? イラミィとミッチーも付けるけど、まぁ、ソウシにとってこんなのは単なるお遊び♡ 愛って本来、生殖行動を最高級に要約したものじゃん? 良い遺伝子を残すためには、命の危機に晒されないとねぇ〜」
◇ ◇ ◇
「生配信、終わったみたいですよ。東さん、この後処理は僕たち探求省の仕事ですし、ぜひ迎えに行ってあげてください」
拘束される向井や天使たち。
駆けつけた他職員により、なしおやじも次々と討伐されていく。
佐藤たちのご厚意で俺は先に行かせてもらえることになった。
「……当たって砕けろ。そして、リア充爆発だ」
猛李王さんからの告白のアドバイス(?)も貰った。
しかし、俺が言うべきなのはバディを辞任するということ。……別れの挨拶だ。
約束した集合場所に向かうために、予定より少し早いが駅に向かう。
◇ ◇ ◇
「マイマイを意識するようになっちゃう肩慣らしは済んだようね。それにここからなの〜、殺死愛は。ねぇねぇ、元四皇って知ってる〜?」
「私は先生ですよ。現代史の範疇なので当然です。ダンジョン黎明期に活躍した、現四皇たちよりも前に注目を集めていた四人の探索者。時代を幕開けた吾妻大悟。最強の武闘派探索者かつ現探求省大臣、武崎健太郎。人気絶頂のアイドル探索者だったが、表舞台から姿を消した池永純香。そして……」
◇ ◇ ◇
──クリスマスの夕方ともなれば、電車の座席は全て埋まっている。立っている人もチラホラといるが、まだ混雑はしていない。
電車に乗り込んだ俺は中まで進み、吊り革を持つ。
……一人の白い衣装に身を包んだ女性が、隣車両へ続く扉前に立ち、こちらをジッと見つめていた。
傘を持っている。今夜は雨も雪も降らない予報のはず。
彼女は持ち手を引き抜くと……刀身が現れる。
「……っ!? 伏せろぉ!!」
警告も虚しく、窓に鮮血が飛び散る。
女は周囲を巻き込むのも厭わず、横から斬り払ったのだ。
「──武壱葉。今は亡き、最恐の女剣士」




