127本目 天使とラブソングを歌ってみたい!
向井が使用する弓型の宝具の特性はベクトルだ。
扱い方を見るに、長く弓を引くほど対象の飛ばす距離が増え、太いほど飛ばされる初速が速くなる。
矢で貫かれた大量のなしおやじが証明してくれた。
にしてもだ。この魔物たち他を追いかけず、執拗に俺を追いかけてくる。
こっちに気を取られている間に向井は悠々と矢を放つ。隙が大きい宝具だからこそ囮がいる。向井となしおやじ達は意思疎通しているのか?
『どうしましたか? 東亮の本気はこんなものじゃないでしょ!』
……大衆が、大量のなしおやじを撮影するためにカメラをこちらに向けていた。ヒーリョーの時のように顔を隠すヘルメットなど普段は持ち歩いているわけがない。
わざわざフルネームで俺の名前を呼ぶ向井──狙いは分かった。
……しかし、この状況をどうすれば終わらせれる。
『ヤバッ、なしおやじをこんな見れるとか、ウチらついてるんじゃない?』
『かわいい〜』
面倒なことに配信者まで来てしまった。
もしなしおやじが俺だけを狙っているなら、他の人達に危害は加えない。一旦人目に付かないところまで逃げてしまえば、良くて魔物に愛された男ぐらいのタイトルで済むだろうか。
だが、意思疎通してるならば話は別だ。周囲の人間を人質に取られる可能性がある。
『──本気で戦わないと、死人が出ますよ? マイマイのバディさん。そしてヨナグニダンジョンの模倣者さん!』
頭上から女性の声。
白い羽を生やした男女一対は天使のように舞い降りる。
こんな時に新手……!!
さらには『あの人マイマイのバディなんだ!?』『ヨナグニの模倣者みたいですよ〜』と身元が拡散される。
『イラミィさん、ミッチーさん! まだ僕はやれますよ……!!』
『このボクちんが手を貸そうというわけさ⭐︎ ワールドサンキューしたまえ!』
『貴方だけは黙って逝ってくださいミッチーさん』
『あっ……! コールドビューティー⭐︎イェスサンキュー⭐︎』
明らかに人間じゃない、模倣者……とも少し違うが、あいつと似たような気配──イズモダンジョンの模倣者、天原の仲間か……!
『宝具:アニマルホイッスル』
イラミィがホイッスルを吹くと、路地裏から烏や鼠、野良犬猫が彼女に従い出し、なしおやじと共に襲いかかる。
もうマイマイのバディとバレた以上、小動物たちに暴力なんて振ったら炎上は避けられない。躱そうとするも……体が一瞬止まる。
『宝具:メトロノームタンバリン⭐︎ ボクちんのリズム通りに動かないと自由はないぜ⭐︎ マイマイボーイ⭐︎』
『1・2・3・アン、ドゥー!』と奇妙なリズムのせいで動きが制限される。
『ヤバッ、ウチら助けてあげた方がいいんじゃない!?』
『でも〜今のわたしたちじゃ無理だよ〜』
『それもそか。よし、あの人のことは諦めよう』
あの配信者は何をしに来たんだ!? それに奴らの気配……。
くそっ、それよりも野次馬が多すぎる……騒ぎが大きくなるにつれて、逃げ出すどころかどんどん寄ってくる。
……もう、全てを隠し通すことは諦めた方がいい。
それよりも、いずれ吾妻の前に立ち塞がるこいつらを、裏方として彼女の目に触れる前に処理しておく。
それが……バディとして最後の仕事だ。
不規則なリズムになぞってなしおやじの頭を掴み、まずは鼻に付く天使に投げ付けた。
『あっ……! パワフルボーイにエボルーション!!』
『あらあら。目障りには命中しましたね』
(ふふっ、もっとマイマイのために頑張ってください。マイマイを想い、マイマイのことだけ考えて……!!)
カッコ付けてばかりのミッチーには簡単に当たった。それで倒せるとは思ってないが、厄介なリズムは止まる。
次は不敵に笑うあの女天使を──
『上ばかり見てると、目の前の男に足元掬われますよ!』
向井が放つ矢印の矢を、多くの動物や魔物がいるせいで視界に捉えられず……ぐっ!? 足先を貫通した……!
向井と俺の間にいた者は全て足を掬われて地面に倒れる。
その隙に大量のなしおやじが乗しかかる様子を──俺は別の遠い場所から見ていた。
「──おい、何やってんだ」
「っ!? ……あなたは探求省の」
迷宮探索管理官の一人、仲嶺真守。
乱暴に掴まれているが、一応助けてもらったみたいだ。
彼とはあまり会話したことないが、何か違和感が……。あ。
「いつもくっついている妹さんは──」
「ラブリの話をするなっ! ラブリはよぉ……『お兄ちゃんの上もう飽きちゃった』つって、降りてどっか行っちまったんだよぉ! くそぉ!!」
二十年以上もお互いに愛し合っていたはずの兄妹が何かの拍子に現在崩壊中らしい。……人間関係とは儚いものだ。
「ちっ、悲しむ時間も与えてくれねぇのかよ。来るぞ」
やはりなしおやじは確実にこちらに狙いを定めている。
襲い来る梨の波──で湯切りする男がさらに現れる。
「フルーツラーメンも悪くない」
「盛影さん!」
ラーメン系ストリーマー盛影流。かつてヌマヅダンジョンで冒険を共にした男だ。
宝具:結斬り去流でなしおやじを一部出汁にする。
『そんな残酷なのはナシだぜ……』
なしおやじが狼狽えてる中、命令されて突っ込む烏たちも次々と出汁にしていく。
『ひどいっ! 大切などうぶつさんたちを傷付けるの!? 動物愛護法で訴えますよ!?』
『ならば攻撃させるな。俺の前では全てが食材だ』
イラミィにもっともな言葉で返す盛影。
だが、この宝具の能力は確かに怖すぎる。
『……女の子、戦いにくい』
『ぐっ……。あれ仲嶺さんどうしてここに!?』
『二度も言わせんなよ?』
戦闘中の佐藤と猛李王さんまで近くに来る。
……なんかむさ苦しいな。
『大所帯になってしまいましたね。でも東亮さん。あなたとは直接決着を付けたい。マイマイを巡る戦いは、この聖夜大戦で勝負を付けましょう!』
『まだデイタイムだけどね⭐︎』
あっちは華やかな女子会をしているというのに、俺たちは何をやってるんだろうか。
『おぉ、なんか面白い展開になったくねー?』
『むわむわしててイヤだ〜』
最悪なことにカメラを通して、多くの人間がこの戦いを見届けることになる。
……吾妻のためにも、バディを辞める決意は更に濃厚となった。




