119本目 NewTubeドリーム!!
「……大丈夫。私たちがバレるわけない、今までもそうだったもの……」
「──じーっ、だいじょぶ?」
「きゃっ!? ……え、マイマイ!? フェストに来てたんだ……」
舞台袖で緊張している女性に、吾妻は話しかけた。
「マイマーイ、そっちじゃなくてこっちだよー」とオーデュイが呼んでいるように、本来の待機場所とは間違えているようだ。
「あ、ごめ〜ん。じゃあ、わたしあっちだ! またね〜」
「っ……待ってマイマイさん」
「えへへー、さん付けだなんて照れるな〜、なになに〜?」
「……マイマイさんほどの実力者の方にお聞きしたいです。あたしたちは似ていますか……?」
彼女たちはチャンネル登録者数33万人のシゴセンツインズの二人だ。
吾妻は即答で答える。
「うん! 双子ちゃん!? すっごく似てるね!」
「……ありがとうございました。自信が持てました。マイマイさんもいつも通り頑張ってください」
「ありがと〜! じゃあ、双子ちゃんたちも頑張ってね!」
吾妻の言葉に少しだけ笑顔を取り戻した彼女は、急上昇中のダンジョンストリーマーの括りとして、舞台へと出ていった。
◇ ◇ ◇
いよいよか……。
四皇のカイキンと、同じくダンジョンストリーマーである彼の兄ジョウキンの二人が、MCとしてダンジョンストリーマーたちを紹介、企画進行していく。
その大トリに任されたのが吾妻たちだ。
『──実は、このNewTubeFestに……スペシャルゲストが来ています! こいつらだぁー!』
照明の光が落ち、会場が期待に包まれる中、一つの映像が流れた。
『こんマイリー♪ マイマイです!』
彼女の挨拶映像に、観客が一気に沸き立つ。
そこから流れるのは彼女の軌跡……これは運営に頼まれて俺が編集しまとめたもの。だから最近の仕事はオーデュイに任せることも多かった。
映像が終わり、ボルテージが最高潮となった瞬間、軽快な音楽と共に舞台後方のステージがせり上がる。
舞台上手からユッキー、カナデ、マイマイ、えりにゃん、アオイ嬢の五人の姿が。これを機にとっくにバレてはいたが、ユキカナチャンネルの中の人の素顔(探求省の立場のみ隠して)を公式に明かすことになった。
さらに沸き立つ観衆。後でネットニュースにもなっていたが、気を失った人もちらほらといるらしい。……思い当たる人物が一人いるが。
……まぁ、そこからは後ろの画面に表示されるトークテーマを元にMCが場を回すトークライブとなった。
『最近買った高額商品は?』や『強すぎて二度と戦いたくない魔物は?』など、彼女たちの更なるプライベートを引き出す度に会場は盛り上がる。
トレンドにも上がるくらい特に話題になったのが──最後から二つ目に質問された、恋愛に関したもの。
『ぶっちゃけ……モテちゃう?』
この質問に女子会のノリでみんなソワソワし出すが、松實が答えを切り拓いて行った。
『ワタシはモテるよ! いや〜、モテすぎてしょーのちゃんに嫉妬されちゃうんだよな〜』
『うるせぇ! 私の方がモテるわ!!』
『では、好きな人はいたりするの?』という質問には、来海がまず当てられる。
『わたくしにそのようなお方はいらっしゃりません。今は活動に精一杯ですから』
『アタシも同じかにゃ〜。ダンジョンを探索するのって命懸けなわけだし、彼氏にゃんて作ってる場合じゃにゃいも〜ん』
野田は嘘をついている。彼女には元カレが何人かいたはずだ。
同じ舞台袖、隣でうんうんと頷く庭白がいるが、破局になった原因は全てこいつだろう。
そして、最後は吾妻に話が振られた。
適当に話を流すだろう、と思っていたが、俺の存在に気付いたのか、彼女は突然こちらに目を合わせる。
『……います。わたしは好きな人いるよ』
予想外の答えに会場はどよめく。
『え、その人どんな人なの!?』
『……えっと、優しくて、いつも見守ってくれてて、時には厳しいことも言うけれど、ずっと味方でいてくれる。それに、かわいいって言ってくれる』
『マイマイ、アンタ……』
『そう! それはファンのみんなのことだー!!』
沈黙からの大歓声。
全く何を言い出すのかと思ったが、ヒヤヒヤしたぞ……。
「──東さん、ドキドキしてませんでしたか?」
何を読み取ったのか、急に庭白が話しかけてきた。
「いえ、決してそんなことは……」
「……わたし、ずっと考えてたんです。アキハバラダンジョンで言われたことを。完全攻略されたはずのわたしが、何故消えずにいられるのか」
藤岡に告げられた模倣者としての謎。
あの件以降に、俺も話には聞いていたが原因はよく分からないままだった。
しかし、彼女なりに答えを見つけた。
「わたしはエリナのことが大好きです。今までも、これからも一緒にいたい。だからエリナを置いて消えることはできないのかなって」
「愛があるから……なんて、物語の典型的な答えみたいなことですか」
「イジメも復讐も、戦争だって。最初はいつも愛を与えるために、愛が欲しくて起きてるものばかりじゃないですか。人として何か欠けているわたしたちが求めているのは、それなのかもしれません。答えは思ってるよりも単純だったのかもって」
世界は、要素が複雑に絡まってできている。
けれど、俺たちの存在がそんな単純なものであるならば、もっと気楽に生きてもいいかもしれない。
それでも、俺は……。
煌々とスポットライトに照らされて、世界中の視線を釘付けにする吾妻。
袖の陰から俺もまた、彼女自身の輝きに焦がされていた。
「「「にゅーちゅーぶ〜♫ にゅーちゅーぶー♪」」」
最後の演目は、出演したNewTuberが大集合して、NewTubeオリジナル曲を大合唱。
吾妻は数少ないマイクを持たせてもらったので、彼女の歌声が直接全世界に届いた。
天使のようなモチモチとした歌声に魅了された人も多いはずだ。
このイベント後、チャンネル登録者数はさらに伸び、2000万人を超える。
ひとまず無事にイベントは終えた。
しばらくすれば、また彼女に日常が訪れる。
俺もまた彼女と共に、いつもの日々に戻るだけのはずだが……そう上手く事が進むわけはなかった。
──世間はクリスマス一色となる。




